琵琶湖岸の水郷地帯
■16日(月)の晩、滋賀県庁琵琶湖環境部・琵琶湖政策課の職員の皆さん、そして「川づくり・まぢつくりコンサルタント水色舎」の佐々木さんと一緒に、草津市の琵琶湖のそばの集落に行ってきました。ここは、もともといわゆる水郷地帯だったところです。田舟が大切な移動手段でした。現在では、圃場整備事業を行った結果、広々とした水田が広がっていますが、かつての風景は消えてしまいました。
■写真は、この集落のかつての風景を写したものです。「昔は、家の窓から魚がつれた」と地元の方がおっしゃる通りの風景です。下の2枚の写真には、田んぼのあいだにクリーク(水路)と田舟が写っています。先日、訪問した近江八幡の水郷地帯では、田舟は竿で操作しましたが、こちらは櫓でこぐとのことです。その技術がかわれて、近江八幡の水郷めぐりの櫓こぎの仕事をしていた人もおられたのだとか。草津から通勤されていたのです。なるほど〜と思います。
甲賀市の農村で調査
■滋賀県甲賀市にある農村で、調査をしました。午前中は、滋賀県庁農政水産部の農村振興課や農政関連の職員の皆さん、そして甲賀市の集落・小佐治の農家の皆さんと一緒に、田んぼの水路で「生き物調査」を行いました。この調査に参加させていただいたのは、この小佐治が、私が参加している「総合地球環境学研究所」のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」の重要なフィールドのひとつであるからです。小佐治の集落では、古琵琶湖層群の丘陵にできた谷筋に、田んぼが順番に並んでいます。そして、田んぼの奥には無数のため池があり、この周りは里山になっています。ここは、関東で言うところの谷津田なのです。
■私たちの研究プロジェクトでは、この地域の生物多様性と村づくりに焦点を合わせて、地域の皆さんと活動を行っていく予定にしています。そして、トランスディシプリナリーな研究プロジェクトも進めていきます。もちろん、ここは複数のサイトのひとつなのですが、かなり面白い展開になりそうです。
【追記】
■こちらの村では、生き物の賑わいを取り戻し、そのことを村の農産物の付加価値としてアピールしたいと考えておられます。滋賀県内でいえば、琵琶湖湖岸地域で生産されている「魚のゆりかご水田米」や、兵庫県の豊岡市の「コウノトリ育むお米」などが有名ですが、その山里版という感じでしょうか。しかし、お話しをうかがっていると、経済的価値を生み出すことも重要ですが、こういった生き物の賑わいを取り戻す活動の中で、実際に生き物が戻ってくること自体が楽しくて仕方がない…という感じでもあるのです。嫌々、渋々、仕方なしに…ではなくて、生物の賑わいを生み出すこと自体が楽しいということ、これはとても重要なことかと思います。ただし、それは生き物がたくさんいたこの地域の「原風景」をよくご存知だから…でもあります。
■もともと、谷筋の周りには、環境の多様性がありました。田んぼ、ため池、雑木林…。かなり人の手が入っていましたし、利用もされていました。ため池では、半分は養魚のようなこともされていました。いわゆる「半栽培」の魚バージョンのような感じでしょうか。ですから、谷筋によって、多い魚の種類も違っていたといいます。
■高度経済成長期、集落の中央を流れる川の河川改修が行われました。洪水は無くなりました。しかし、同時に川は深くなり、魚は谷筋に登れなくなってしまいました。また、農業用ダムから用水が送られてくるようになって、大中小、無数にあったため池が使われなくなりました。使われないため池の世話は誰もしません。堤も崩れてしまい、水が溜まらなくなります。そういうため池は、山に戻ってしまいました。また、雑木林が針葉樹に植え替えられました。現在では森林組合が世話をされているそうですが、なかなか大変なようです。素人目にも、世話ができていない森林があります。簡単にいってしまえば、人の関わりが減少し(アンダーユース)、谷筋の環境の多様度も減少してしまっているのです。そのことが、生物にも影響を与えたと考えられます。
■雑木林の話しをしましたが、最近、この地域ではマキストーブ仲間が増えています。マキストーブの良さや楽しさを知って家に置く人が増えているようです。燃料は、身近な山から採ってくるのだそうです。スローライフを楽しんでおられるのですね。楽しみの一環として、人の手の入らなくなった里山の世話をされているのです。「楽しみ」、大切なキーワードだと思います。
地球研のプレリサーチが始まります
■出張で、中国・浙江省の寧波市にある寧波大学外語学院に来ています。ということで、このエントリーは中国からのものです。昨晩は、外語学院(日本でいえば学部)の院長・副院長、そして日本語学科の教員の皆さんが歓迎会を開催してくださいました。「中国的な意味において」とても素晴らしい宴会になりました。中国的に意味においてとは、どういうことなのか…。50℃の強い焼酎であるパイチュ(白酒)の乾杯合戦でノックアウトされてしまいました。まいりました。今日の午前中は、留学生受け入れのための協定書に関してミーティングをもちましたが、午後からはホテルで休憩中です。今回中国に一緒に中国来ている原田達先生と大塩まゆみ先生は、寧波訪問が初めてということもあり、学科主任の先生の案内で寧波市内を見学されています。
■さて、ホテルでメールを確認していると、日本から重要かつ嬉しいメールが届いていました。大学共同利用機関法人・人間文化研究機構「総合地球環境学研究所」で、私たちの研究プロジェクトがプレリサーチに採択され、研究所のホームページにもそのことが掲載されていたというメールです。プロジェクトリーダーの奥田昇さんからのメールでした。上の画像が、その通知の掲載です。なんともそっけない通知ですね…。
■総合地球環境学研究所では、研究プロジェクトを次のように説明しています。
■地球研では、既存の学問分野や領域で研究活動を区分せず、「研究プロジェクト方式」によって総合的な研究の展開を図っています。
●研究プロジェクト方式は段階を経て研究を積み重ねていく方式です。全国の研究者コミュニティに公募された研究を、IS(インキュベーション研究 Incubation Study)、FS(予備研究 Feasibility Study)、PR(プレリサーチ Pre-Research)、FR(本研究 Full Research)という段階を経て実施することで、研究内容を進化させ、練り上げることを目標としています。
●国内外の研究者などで構成される研究プロジェクト評価委員会の評価をFS 以降の各段階の対象年度に実施し、それぞれの研究プロジェクトの自主性を重んじつつも、研究内容が平板な積み重ねにならないように配慮しています。また、IS を除くすべての研究プロジェクトが、研究の進捗状況や今後の研究計画について発表を行なう場として、研究プロジェクト発表会を開催しています。
●終了した研究プロジェクトに関しては、研究の終了後2 年間はCR(終了プロジェクト Completed Research)として、成果の社会への発信や次世代の研究プロジェクトの立ち上げなどさらなる研究の展開を図っています。
■上の引用にもありますが、「プレリサーチ」を通過するためにあたっては審査があります。この審査は、今後も続きます。また、「FS」から「プレリサーチ」にすべてのプロジェクトが駒を進められるわけではありません。審査の結果、「FS」の段階を継続しなければならないプロジェクトや、プロジェクトが打ち切りになるばあいもあります。プロジェクトを通して良い成果をあげていかなければ、「プレリサーチ」に駒を進められなかったプロジェクトの皆さんに、申し訳が立たない…そんな気持ちにもなります。通常「プレリサーチ」は「本研究」に入る前の1年間があてられます。このあと、本研究が3〜5年間続きます。長い道のりですが、頑張って取り組んでいこうと思います。
■プロジェクトのフィールドは、琵琶湖に流入する野洲川、そしてフィリピンのラグナ湖が中心になりますが、比較研究するために、国内では八郎潟、手賀沼、宍道湖なども視野に入れて研究に取り組んでいきます。
【追記】■関連エントリーです。
これからの研究プロジェクト
地球研プロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会ー生態システムの健全性」
地球研プロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会ー生態システムの健全性」 のその後
公開シンポジウム「自然共生社会を拓くプロジェクトデザイン」
研究会
人間・社会班で研究会議
甲賀の農村で
研究会議
「取り戻せ!つながり再生モデル構築事業」について
■滋賀県には、「マザーレイク21」という琵琶湖の総合保全計画があります。私は、この第2期計画(2011年~2020年)の策定に関わってきました。現在も、「マザーレイク21計画学術フォーラム委員」として、また県民参加のフォーラムである「びわコミ会議」等に参加しながら、「マザーレイク21」計画の進捗に強い関心をもっています。
■「マザーレイク21」第2期計画等では、「琵琶湖と川や内湖とのつながり」、「生態系保全の重要性」、「つながり再生や生態系保全にむけた行動の必要性」が強調されています。そのような認識のもと、新たに「つながり再生モデル構築事業」が実施されることになりました。この事業は、公募によるモデル地域を選定、選定地域におけるつながり再生にむけた取組の検討への支援、ガイドブックの作成の実施などを目的としています。個人的には、特に、身近なな水環境のもつ価値の発見、課題の共有を行うための「場」づくりを大切にしている点が注目しています。
■昨日は、このモデル地域の選定にあたり、いわゆる有識者から意見を聴取することを目的とした「つながり再生モデル検討会」が開催され、私も委員の1人として参加してきました。昨日は、第1回目でしたが、他の委員の皆さんと活発な議論をすることができました。しかも、フランクに、楽しく、議論できたのです。私自身、いろいろ勉強にもなりました。
■このモデル構築事業では、2014・15年度にかけて、それぞれのモデル地域では、身近な水環境に関する情報の収集・整理、身近な水環境の持つ価値の再発見と課題の共有、身近な水緩急にんけるつながり再生に向けた具体的な手法の検討、つながり策定にむけたプラン策定が行われます。そして、2016年度以降は、そのプランにもとづいて具体的なつなぐり再生にむけての取組が実施される予定になっています。私たち検討会の委員も、今後、それぞれのモデル地域の皆さんと議論をしながら、取組の実施に向けてお手伝いができればと思っています。地域の皆さんや行政の皆さんと一緒に汗をかき、つながり再生の喜びを共有できるようになればと思っています。会議室のなかで意見を述べるだけの有識者…という役割は、地域社会のなかではもはや終わりつつあると思います。この事業の進捗が楽しみです。
芥川仁さんの季刊新聞「リトルヘブン」2014年冬33号
■尊敬する写真家、芥川仁さんから、季刊「リトルヘブン」が更新されたとの連絡が入りました。「リトルヘブン」は、芥川さんが発刊されている「全国の里を訪ね、暮らしに寄り添い、身近な自然の豊かさと地域共同体の魅力を発進する」インターネット新聞です。芥川さんは、『水俣・厳存する風景』(1980年・水俣病センター相思社)、『土呂久・小さき天にいだかれた人々』(1983年・葦書房)、『輝く闇』(1991年・葦書房)、『水俣海の樹』藤本寿子共著 (1992年・海鳥社)等の写真集を出されてきたことで有名ですが、優れた文筆家でもあります。そのような芥川さんの魅力が、この「リトルヘブン」からドンと伝わってきます。
■2014年冬33号のフィールドは、和歌山県田辺市上秋津地区です。芥川さんの写真と文からは、みかん栽培で盛んな上秋津地区の人びとの暮らしや人生が、じんわりと伝わってきます。長くなりますが、引用させていただきます(芥川さん、すみません)。ちょっと注目したのは、次の部分です。自治体の合併のさいに、村の共有財産である村有林を維持していくために「公益社団法人上秋津愛郷会」を設立して、そこに所有権を移したという記述です。このようなことは、格別に珍しいことではないのですが、おもしろいのは、そこが松茸山であるということですね。かつては、当たり前のようにとれていた松茸ですが、高度経済成長期の燃料革命のあと、森林に人の手が入らなくなったため、松茸はとれなくなりました。しかし、この上秋津地区の高尾山では、現在でもとれているのです。ということは、森林の手入れをされている…ということなのかなと思うのです。どういった形で、森林を維持されているのでしょうね。愛郷会設立から現在までの過程を知りたいと思いました。
和歌山県田辺市上秋津地区は、東に高尾山(606m)北に三星山(549m)西に竜神山(496m)南は衣笠山(234m)に囲まれた小さな盆地だ。その中央を北から南へ会津川が貫いている。水田となる平地が少ないため、年間の平均気温が16.5℃、平均降水量が1650ミリという気候を活かし、古くからみかんの栽培が盛んな農村である。上秋津地区には、会員約470人で構成される公益社団法人上秋津愛郷会がある。会員の条件は、昭和32(1957)年から上秋津地区に住んでいることだ。昭和32年の合併の際、旧上秋津村の村有財産の所有権を愛郷会へ移し、地域の振興、学校教育の推進、治山緑化のために、資金を提供するなどの活動を続けてきている。
「おい、先生」と、私に声を掛けたのは、電動剪定ハサミのバッテリーを背負った山本博市さん(66)だ。「高尾山行ったことあるか、先生。上秋津愛郷会の山や。それを14区画に分けて入札するんや、松茸や。最高価格160万円、最低は2万円。一昨年は、ええとこやったら3000本くらい生えたかな。我々のとこでも1000本、今年で市場価格キロ6万から7万円や、12、3本で1キロや。大きいの小さいの突っ込みで3000本ということでっせ。和歌山でも一番から三番に松茸が生える山や」と言うと、私を軽トラックの助手席に乗せ、高尾山の山頂へ向かった。ハンドルを握って登山道を走らせながら、博市さんは「たかおの山をあおぎつつ 文の林にわけいらん」と、子どもの頃に通った上秋津小学校の校歌を歌い出した。
■今回の33号では、みかん栽培のこと以外のことでは、村のお宮さんの当家(とうや、一般には頭屋とも標記します)のことや「どんど焼き」のことが面白かったな〜。ぜひ、皆さんもお読みください。
【追記1】■「公益社団法人上秋津愛郷会」の立派な公式サイトがありました。
【追記2】■上記の公式サイトに、上秋津愛郷会の歴史に関する記述がありました。このような記述があります。引用します。村の財源をきちんと担保しながら、村づくりを積極的に進めてきた様子がわかります。
昭和の大合併時に、上秋津村は、地元の高尾山や三星山、東牟婁郡古座川町七川などに山林を、また地元に土地などを所有していた。合併を機に、村有財産処分が検討された。しかし、資産の分配はしなかった。「社団法人」組織の愛郷会をつくり、財産を保全管理していく道を選んだのであった。法人資格を得るため、初代会長の田中為七さんらが和歌山県庁に泊まり込んで書類をつくったことは、語りぐさになっている。そうして、上秋津愛郷会は、1957年に設立される。
「上秋津の財産を上秋津の人の手で守る。当時の人たちの思いが、愛郷会という組織を残したのだと思う」歴代の会長すべてが語る。
上秋津公民館や秋津野塾、愛郷会の事務局が入る農村環境改善センター、学校のプールや若者広場などの各用地の購入、確保の際には、愛郷会から資金が支出された。あるいは、集落排水事業にともない、11ある集落の集会所のトイレが水洗化されたときには、各集落に100万円ずつの補助費を提供した。地域振興、学校教育の振興、治山緑化のために支出される金額は、毎年500万円から600万円にのぼる。上秋津のマスタープランの作成は、町内会の協力とともに愛郷会の資金援助なしにはできなかった。 秋津野ガルテンへ 平成15年には、元上秋津小学校跡地や校舎を利用したグリーンツーリズム計画が持ち上がり、地域で話し合いの結果、平成19年、住民489名が出資して運営会社が立ち上がった。同時に愛郷会が田辺市より、旧田辺市立上秋津小学校跡地を買取り、土地を運営会社(株式会社秋津野)に貸し出し、旧校舎を再利用した、都市と農村の交流施設『秋津野ガルテン』が整備され事業がスタート。平成20年11月にオープン以来、年間6万人を超す利用者が訪れ、地域が活性化し雇用も生まれている。
そうした資金の裏付けになっているのが、会が管理する地区の財産である山林や宅地などで、合計財産は2012年度には約5億1000万円となっている。
しめじ栽培の研究中高尾山・龍神山・三星山周辺で、毎年、秋におこなわれ、地区内外から希望者が殺到するマツタケ山の入札(入会権)も、大切な収入源だ。また、2002年からは和歌山県と共同で、本シメジを育てるプロジェクトが高尾山で試験的におこなわれている。
地方に移住したい若者たち
■『TURNS』という雑誌があります。facebookの公式ページもあります。そこには、基本情報として以下のように書かれています。
人、暮らし、地域をつなぐ雑誌「TURNS(ターンズ)」
説明
都会から地方に生活の拠点を見出そうとする人が増えています。これから自分が暮らしていくべき場所はどこか。新たな自分を発見し、活かしてくれる場所はどこなのかを真剣に考える人が増えています。豊かな暮らし方の答えが一つではないことに、みんなが気づき始めています。そして、いままで目を向けて来なかった、地方の魅力を再確認しようとする気運も高まっています。雑誌『TURNS』が伝えていくのは、今まで注目されていなかった地域の魅力。おもしろそうな人が集まっている地域と取り組み。新しい移住者を求めている熱い地域。そして、そんな地域で新しい自分を発見するための方法です。
■基本情報
【発行】
季刊誌(6・9・12・3月の年4回発行)定価980円・第一プログレス【誌名について】
ターンズのTURN には、U ターン、I ターンのターン。社会、暮しを見つめ直す、折り返し地点としてのターン。そしてさらに、次に行動を起こすのは“あなたの番”(Your TURN)、という意味も含まれています。
■私が、大学の講義で「地域社会論」を担当しているから、たまたま気になっているのだけなのかもしれませんが、従来の田舎ブーム(正確には第二次田舎ブーム)に加えて、「地方」や「地域」に注目するメディアが増えているように思います。この雑誌も、雑誌名が面白いですね。ターンズのTURN には、U ターン、I ターンのターン。社会、暮しを見つめ直す、折り返し地点としてのターン。そしてさらに、次に行動を起こすのは“あなたの番”(Your TURN)からきているというのです。
■このような現象は、現代社会が「定常型社会」の段階に入っていることと関係しているのかもしれません。「定常型社会」では、これまでのような経済成長を前提とした物質的ないしは貨幣価値的によって評価することのできる豊かさを目指すわけではありません。経済成長のときは、多くの若者は、地方から出て東京や大阪のような大都市を目指しました。また、そのように仕向けるようにも社会の仕組みがなっていました。しかし、状況が変わってきました。
■このようなことは、最近の若者の「地元・実家志向」等とも、どこかで関係しているのではないかと思います。自分の経験に限定していえば、学生の「地元志向」がかつてと比較して相対的に高まっているように思います。この「地元志向」とは、流動的な現代社会の不安定さを忌避し、そのようなあり方に背を向ける逃避的な意味での「内向き志向」なのか(地元には、かつての仲間がいる)。それとも、地元にポジティブなもの/ことを発見し、そこから自分の暮らす地域社会を再生・再評価していこうとしているのか(ぼやっとでも…)。現代の若者の「地元志向」には、この両方の傾向があるように思いますが、これら両者の関係のあり様が気になるところです。
『定常型社会―新しい「豊かさ」の構想 』(岩波新書)
『コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来 』(ちくま新書)
ちょっと微妙だけど…
『地方にこもる若者たち 都会と田舎の間に出現した新しい社会』(朝日新書)
書評『地方にこもる若者たち 都会と田舎の間に出現した新しい社会』(大澤真幸)
■この雑誌とは関係ありませんが、最近の若者の意識の「地元・実家志向」と関連する記事をネットでたまたまみつけたので、備忘録がわりに…。
【第一回】よさこいを踊る若者は「地元ヤンキー」ではなかっ
【第二回】魚屋の息子は、なぜ「ひきこもり」にならないのか
【第三回】お湯を沸かした経験もない「ネットカフェ難民」
現代の若者の心理と国会等の移転問題
首都圏に住む若者の84%が「地元好き」。中国地方出身者では96%も!
若者の未来interview
■これも備忘録…田我流も。
「取り戻せ!つながり再生モデル構築事業」
■今日の午前中、滋賀県庁琵琶湖環境部琵琶湖政策課を訪れました。流域と地域とのつながりを再生するための「取り戻せ!つながり再生モデル構築事業」に関して打ち合わせをするためです。県庁の職員の方が、研究室に伺うとおっしゃっていましたが、通勤の途中、大津駅で降りれば県庁はすぐそこですから、私のほうから訪問させていただくことにしました。
■こういうモデル事業というと、大きな予算をかけた事業のように思われるかもしれませんがそうではありません。簡単にいえば、「身近な水環境のつながり再生に向けて、県も含め地域の関係者が立場を超えて一緒になって話合い、プラン作りを通じてつながりの再生を実現する」ためのモデル事業です(最大3地域を公募することになっており、すでに募集は終了しています)。モデル地域に選定されると、次の3つに関して支援が行われます。また、モデル地域の成果をもとに、県内の他の地域のつながり再生にも取り組んでいく予定になっています。
(1)話合いの「場」の立ち上げおよび運営
(2)「場」におけるプラン策定のための検討
(3)「場」の運営に係る経費の一部負担。
■詳しくは、以下のリンクをご覧いただければと思います。
知事定例記者会見(2013年11月12日)
平成 25 年度 取り戻せ!つながり再生モデル構築事業 モデル地域公募要領
■担当者の方たちとは、「盛り上がり」のある打ち合わせができました。キーワード的にいえば、地域環境ガバナンス、地域と行政の連携のあり方、地域を支援する行政組織のあり方…。なかなか面白い話しができて、気持ち的には盛り上がりました。自分の個人研究や、研究プロジェクトとも深く関わっている内容ですので、これからどう展開していくのか大変楽しみにしています。写真ですが、特にモデル事業とは関係ありません(あたりまえですね)。打合せのあと、大津駅前の蕎麦屋さん「やま喜」で昼食を摂ったときのものです。ミニ天丼にミニ月見蕎麦。
研究会議
■京都にある地球環境学の研究所、「総合地球環境学研究所」(大学共同利用機関法人・人間文化機構)のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会-生態システムの健全性」にコアメンバーとして参加しています。
■今日は、プロジェクトりリーダーの奥田昇さんが勤務されている京都大学生態学研究センターに、私も含めたプロジェクトのコアメンバーが集まり、この研究を予備的研究の段階から、プレリサーチ、そして本研究に進めていくための研究会議をひらきました。チーム全体は、複数の班に分かれているのですが、私は社会科学系の研究者による人間社会班のリーダーとして参加しました。私は、午前中、「大津エンパワねっと」の授業があったのですが、龍谷大学社会学のある瀬田キャンパスと生態学研究センターはともに瀬田丘陵にあるため、なんとかタクシーが駆けつけることができました。
■総合地球環境学研究所のホームページには、私たちの研究プロジェクトの概要が掲載されていますが、その内容は1年前のものです。この1年間で、特に、社会科学的な立場からの環境ガバナンスの議論や「階層化された流域管理」という考え方が反映され、現在では、その内容がより進んだものになりました。いずれ、詳しくご紹介できるのではないかと思います。
■この日の研究会議の目的は、プロジェクト全体の概要を説明するための、リーダー奥田さんによるプレゼンテーションを、コアメンバーも参加して丁寧に検討することにありました。もうじき、このプロジェクトの進捗状況を審査する審査会が、総合地球環境学研究所で開催されるからです。パワーポイントのスライドを、この日会議に参加した6人で、1枚1枚を丁寧にチェックしていきました。理科系・文化系といった従来の学問枠組みを超えて、様々な分野の研究者が集う私たちのようなプロジェクトにとって、このような作業は、相互の理解を深めていくためにも大変重要な作業のように思いました。
Korea AG-BMP Forum The 4th International Conferenceでの報告(1)
■先月末、9月27日に、韓国の全州市で開催された「Korea AG-BMP Forum The 4th International Conference」に参加し、第1セッション「流域管理のパラダイムシフト」においてキーノートスピーチを行いました。今回は、総合地球環境学研究所で取り組んだプロジェクトの成果(『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』京都大学学術出版会)をもとに、琵琶湖の農業濁水問題を事例とした「階層化された流域管理」についてお話しをさせていただきました。私がなぜ、この国際会議に呼ばれたのか。遠回りになりますが、以下で説明させてください。
■全州市に隣接するセマングムには広大な干潟がひろがっていました。錦江と東津江という2つの大きな河川の河口一帯に広がる広大な干潟です。様々な環境団体の反対、漁民の反対がありましたが、韓国政府は、1991年から大規模な干拓事業を開始ししました。そして、2006年に防潮堤が完成し、現在は陸化が進んでいるのです。
■当初、ここから生まれる新しい土地は農業用地だったのですが、現在の韓国社会はそのような農地を必要としなくなっています。ちょうど、戦後の滋賀県で、食料増産のために、琵琶湖の周囲の内湖が干拓されていったのと似ています。干拓事業が終了したときは、すでに米があまり減反政策が始まったからです。現在、このセマングムの干拓地では、農地のかわりに、工業団地の建設やリゾート観光地を建設することが計画されています。ところが、ある問題が危惧されています。後背地域から流入する農業関連の排水が、陸化された干拓地とともに生み出される人工湖の水質を悪化させるというのです。
■大きな2つの河川から干潟に流入する河川水には、自然由来に加えて農業排水も含まれていたと考えられます。そこには広大な干潟に生息する多様な生物の生存にとって必要な栄養が含まれていたのではないかと思います。2つの河川と海が育む豊かな干潟が広がっていたのです。しかし、干拓により干潟が消滅し、生物もいなくなってしまうと、こんどはその栄養塩が水質を悪化させると問題視されるようになってきたのです。もちろん、かつての農業(稲作、畑作、畜産)とは異なり、農業の近代化ととも環境に負荷を与える農業(土地改良、化学肥料、畜産廃棄物…)に変化していることも無視できませんが、日本の諫早湾干拓事業などと同様の環境破壊を招くものだと非難されているのです(この干拓事業に対しては工事差止請求を行われましたが、韓国の最高裁では退けられています)。
■Korea AG-BMP Forumでは、韓国の様々な大学の研究者、韓国の関係省庁や関係機関が参加し、このようなセマングムが抱える問題に取り組んでいます。もちろん、この干拓事業の「そもそも論」的な根本のところで、大きな矛盾を抱えていることは間違いありません。しかし、すでに防潮堤が完成してしまった状況において、「現実問題」としてどうすれば水質悪化を防ぐことができるのか。その点について、たくさんの農業土木や工学の研究者、そして農業政策の研究者が、様々な研究や事業に取り組んでおられるのです。皆さんの報告を聞かせていただきましたが、それらの学問分野からのアプローチは、どちらかといえば、トップダウン的なものになります。農家による農業排水の負荷を低減させる技術を開発する、環境負荷削減に農家の営農を誘導していく…そのようなアプローチです。しかし、そのようなアプローチでは、限界があります。農家自身が、流域管理のステークホルダーとして参加・参画するなかで、自分たちのコミュニティの「幸せ」と流域の環境改善とを両立させていく必要があるのです。
■今回のKorea AG-BMP Forumのタイトルは、「Local community development through agricultural NPS pollution control」です。非点源(農地のような広がりをもち、特定の点に還元できない汚濁減)汚染のコントロールを通した地域農業コミュニティの発展なのです。水質改善をすること、そのものが目的ではなく、水質改善を通して農村を発展させていこう、それも内発的な発展を支援していこうというのが、今回のフォーラムの目的となっているのです。私が参加したのは第1セッション「流域管理のパラダイムシフト」ですが、このパラダイムシフトとは、従来のトップダウン的な流域管理のアプローチを大きく転換し、もっとボトムアップのアプローチを展開していく必要があるとの問題意識にもとづいています。このような問題意識が存在したからこそ、日本やアイルランド、そしてアメリカからゲストスピーカーが招かれたのです。(続きます)
【上段左】「階層化された流域管理」について報告する私です。【上段右】フォーラム開催前の記念写真。
【下団左】フォーラム終了後には、韓国MBCテレビの取材を受けました。夕方のニュースで放映されました。【下団右】フォーラムの前日には、セマングム地域を視察しました。視察のさいに、地元ローカルテレビ局の取材を受けました。
第4回KAB国際会議
■韓国から国際会議のプログラムが届きました。
こんな内容の国際会議です。
The 4th International Conference
AG-BMP Development for Reservoir Water Quality Improvement
Korea AG-BMP Forum (KAB-4)
September 26-27, 2013, Jeonju, Korea韓国では、これまで中央政府主導による点源汚染と処理施設中心の水質管理政策を行ってきました。しかしながら、近年、その限界が徐々に理解されるようになり、面源汚染、特に農業面源汚染削減の努力がなされています。韓国の農業は、小規模農業であり、水質管理への農家個々人の参加が不可欠です。
このような背景のもと、第4回・韓国農業ベスト・マネージメント・プラクティスに関する国際会議(Korea AG-BMP)では、テーマを「農業面汚染源の管理と地域共同体の発展」とし、地域共同体の視点から、統合化されたセマングム流域管理のために、制度、技術、そして地域の人々の参加をどのように促進していくのかという点に光をあてていきます。
この国際会議では、農業面汚染源を管理するための諸政策や技術を適切に指揮し、流域の利害関係者間で考え方や見方を共有し、さらには地方政府によって運営される持続可能な流域管理へのパラダイムシフトを探求する予定です。
■私は、第一セッション「流域管理のパラダイムシフト」で、お話しをさせていただきます。さて、これからサマリー、原稿、パワーポイントの準備と続きます…。こういう国際会議は全く不慣れなもので、かなりプレッシャーです〜。研究仲間からのサポートももらい、なんとかきちんと報告を終えたいと思います。
■フルマラソンに加えて国際会議…。頑張ります。