生物多様性
▪️生物多様性に関する知り合いの研究者の皆さんのSNSへの投稿やネットニュースを読みました。おひとりは、滋賀県立琵琶湖博物館の学芸員をされている大塚泰介さん。NHKで放映された「プロフェッショナル仕事の流儀 一粒青々、己を込める 〜米農家 関智晴〜」を視聴して、その感想をfacebookに投稿されていました。以下が投稿です。公開されているので、シェアさせていただきます。
▪️番組の概要ですが、以下の通り。
幻の米がある。世界一を6度受賞し、通常の3倍以上の値をつけながら、その味を求め世界中から客が訪れる。生み出したのは関智晴(39)、かつてプロスノーボーダーとして活躍した異色の経歴を持つ。農家の長男に生まれながら農業に背を向け続けた過去。「いちばんやりたくない職業が農業だった」と語る男が、今農業にかける理由。米不足や温暖化、取り巻く状況が激変する中で「農業こそ最強」と言い切る農家の、青き革命。
▪️大塚さんが注目されたのは、「米の味を追求して有機栽培に舵を切り、その末においしい米がとれる田んぼが多様な生き物を育むことを発見した」という点です。番組の中で関さんは、ビジネスとして自分の商品=米の質を徹底して追求されてきました。有機農業や食の安心安全は、関さんにとって「目的」ではなく、美味い米を作るための「手段」であり、「生物多様性」もその結果だったということのようです。私はまだ番組を拝見していませんが、ぜひ拝見してみたいと思います。こちらは、ディレクターが書いた記事「ディレクターノート」。NHKプラスで12月4日まで配信されています。
▪️もうひとりは、滋賀県立琵琶湖環境科学研究センターの佐藤祐一さんです。佐藤さんが地域の住民の皆さんと取り組んでこられたビワマスが俎上・散乱する川づくりの話がYahoo!ニュースになっていました。「ビワマスが帰ってきた! 手づくり魚道が生む『問い』と『対話』。地域が創る『小さな自然再生』の現場」という記事です。執筆しているのは、水ジャーナリストでアクアスフィア・水教育研究所代表の橋本淳司さんです。佐藤さんは、facbookの中で、これまでの一連の活動を記事にしてくださるジャーナリストはいないのかなと書いておられましたので、ちょうど良いタイミングだったと思います。
▪️記事の中では、家棟川(やなむねがわ)にビワマスが俎上できる魚道を地域住民と一緒に作っていく活動がどのように展開してきたのかを解説されています。以下は、記事からの引用です。
60年ほど前、ビワマスは産卵のために家棟川から中ノ池川を通り、JR野洲駅近くの祗王井川まで遡上していた。しかし、中ノ池川に2.9メートルの落差工ができた。落差工には、川底を階段状にすることで洪水のエネルギーを集中させ、エネルギーを減らす役割がある。だが、ビワマスが遡上するには大きな壁となった。
▪️この落差工については、このブログの中でも触れています。2014年12月16日の「ビワマス」という投稿です。こちらも併せてお読みいただければと思います。この家棟川で、2016年、落差工に魚道を設置する試みが始まります。最初、鉄パイプと板で簡易な魚道をつくられました。しかし、最初からビワマスが俎上できたわけではありません。いろんな工夫を積み重ね、2018年に初めてビワマスが俎上してくれるようになりました。
プロジェクトの大きな特徴は、多様な主体が協働し、「小さな自然再生」の手法を活用している点である。従来のような大規模な河川工事ではなく、地域住民や地元企業、行政、研究者が一体となり、小規模な改善を積み重ねることで、川と自然を少しずつ甦らせるアプローチだ。
手仕事であるがゆえに問いが生まれ、さまざまな試みが生まれる。すぐに結果を生むわけではないが、問いをもち、立ち止まり、思うようにならない自然と対話することで、ここにしかない魚道がつくられていく。そして、そこには何より人々の喜び、楽しみがある。
▪️この引用部分、とても大切なことですよね。ビワマスや河川と人びととのつながり、ビワマスや河川を媒介とした人と人のつながり、この2つのつながりがうまく連動していることが記事からわかります。そしてとうとう、2024年3月には、滋賀県が常設の魚道を整備したのです。行政任せではなく、2つのつながりと、地域の河川を地域の責任で豊にしていくプロセスがあったからこそ、このような魚道の整備につながったのだと思います。記事には、「ビワマスの姿が地域の誇りとなり、住民と川を繋ぐ新たな絆が生まれていることを感じる」とありますが、これ前述の2つのつながりがうまく連動しているということと重なっていると思います。
▪️記事では、この家棟川での取り組みが、愛知川の支流・渋川で、そして大浦川にも広がっていることについても説明されていました。渋川では砂防堰堤が、大浦川ではラバー堰がビワマスの俎上を邪魔していました。それを、専門家や行政だけでなく、地域の皆さんも参加し試行錯誤しながら魚道を設置されていました。ぜひ、記事をお読みいただければと思います。以下は、この記事の最後の部分です。
手仕事で進められるこのプロジェクトでは、問いが生まれ、試行錯誤を繰り返す中で、新たな発見や工夫が積み重ねられていく。すぐに結果が出るわけではないが、自然と向き合い、対話しながら進むプロセスそのものが「小さな自然再生」の本質なのではないか。
そして、こうした活動がもたらすものは、ビワマスの姿だけではない。川を甦らせることで生まれる、人々の喜び、楽しみ、協力なども大きな成果と言えるだろう。ビワマスが魚道を登る姿を見て涙したり、「がんばれ」と手を握りしめたりする瞬間、地域と自然が繋がっていることを実感する。その喜びが、新たな挑戦の輪を広げる原動力となり、未来へとつながっていく。