『野生動物管理システム』(梶光一/土屋俊幸 編)

20141007book.jpeg■私は、これまで「流域管理」の学際的研究に取り組んできました。そのような私が、他の分野の専門家と議論しながら、環境社会学の研究蓄積をベースに、それらを組み立て直し、再構成しつつ、提案してきた概念に「階層化された流域管理」があります。この「階層化された流域管理」の考え方の元になった素朴なスケッチは、脇田(2002:342-351)のなかで示してあります。その後、総合地球環境学研究所のプロジェクト「琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築」に取り組むなか、脇田(2005)において「階層化された流域管理」という考え方にまとめることができました。それらは、谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編(2009)のなかの脇田(2002)で、さらに詳しく説明しています。この「階層化された流域管理」の概念は、研究プロジェクトを統合する「柱」としての役割、そして異なる分野の研究者が相乗りするための「プラットホーム」のような役割を果たしました。

■今回ご紹介する『野生動物管理システム』(2014)は、先月、東京大学出版会から出版されたばかりの研究書です。エゾジカの研究で有名な梶光一さんを中心に実施された研究プロジェクト「統合的な野生動物管理システムの構築」の成果をまとめたものです。本書の「はじめに」では、次のように書かれています。「異なる行政・自治上の階層の統合、異なる空間スケール(ミクロ・メソ・マクロスケール)の統合、社会科学と生態学を統合することによって、深刻な農業被害をもたらしているイノシシに焦点をあてて、統合的な野生動物管理システムの構築を目指した」。このような考え方は、梶さんが「1.3『統合的な野生動物管理システム』の構築に向けて」の中でも述べているように、私たちの流域管理から生まれた「階層化された流域管理」の概念を、野生動物管理へと応用展開しているものなのです。こうやって、流域とは異なるテーマの研究のなかで応用していただけたことは、空間スケールに着目したこの「階層化された流域管理」という概念が、汎用性をもっていることを示しているともいえます。私たちの研究を、きちんと引用し応用展開していただいたことに、心より感謝したいと思います。

■本書の目次は以下の構成になっています。

I 総論編
第1章 野生動物管理の現状と課題(梶 光一)
第2章 地域環境ガバナンスとしての野生動物管理(梶 光一)
第3章 野生動物管理システム研究のコンセプト(梶 光一)

II 実践編
第4章 研究プロセスと調査地(戸田浩人・大橋春香)
第5章 ミクロスケールの管理――集落レベル(桑原考史・角田裕志)
第6章 メソスケールの管理――市町村レベル(大橋春香)
第7章 マクロスケールの管理――隣接県を含む(丸山哲也・齊藤正恵)
第8章 イノシシ管理からみた野生動物管理の現状と課題(大橋春香)
第9章 学際的な野生動物管理システム研究の進め方(中島正裕)

第III部 政策編
第10章 北米とスカンジナビアの野生動物管理――2つのシステム(小池伸介)
第11章 野生動物の食肉流通(田村孝浩)
第12章 統合的な野生動物管理システム(土屋俊幸・梶 光一)

おわりに(土屋俊幸)

■目次のなかにはっきり現れていますが、野生動物の管理をめぐる階層性に注目されていることが理解できます。梶さんは、このように書かれています。

野生動物管理の階層を考えた場合、これらの階層は国、都道府県、市町村、集落といった行政・自治上の単位(階層)に相当する。そこには、様々な行政のほか、農林業、酒量者、NGO、研究者などマルチスケールの階層がかかわっている。これらの野生動物管理にかかわる関係者(アクター)の協働によるボトムアップの取組と管理計画によるトップダウンの調整が必要である。

さらには、野生動物管理に求められている個体数管理、生息地管理、被害防除についても、空間スケールと行政・自治上の単位に関係するので、異なる社会構造における階層間の連携が野生動物管理には不可欠である。問題は、それをどう築き上げるかである。

■このあたりの梶さんの考えかは、テーマは違いますが、私たちの「階層化された流域管理」とも共通する問題意識でもあります。まだ、読了していませんが、現在取り組んでいる流域管理のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」で、梶さんたちの研究の成果を、こんどは逆に応用展開させていただけるのではないかと思っています。

・脇田健一,2002 ,「住民によ環境実践と合意形成の仕組み」『流域管理のための総合調査マニュアル』京都大学生態学研究センター 未来開拓学術研究推進事業 複合領域6:「アジア地域の環境保全」 和田プロジェクト(JSPA-RFTF97100602)編.
・脇田健一,2005 ,「琵琶湖・農業濁水問題と流域管理―『階層化された流域管理』と公共圏としての流域の創出―」『社会学年報』No.34(東北社会学会).
・谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編,2009,『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』和田英太郎 監修,京都大学学術出版会.
・脇田健一,2009,「『階層化された流域管理』とは何か」『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』和田英太郎 監修/谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編,京都大学学術出版会.

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