「小流域」の土石流(岸由ニ)

20141007kishi.png ■ネットの「日経ビジネス」に「秋も台風直是期、天気予報も行政もアテにならない時代が来た 広島県安佐南区の土石流災害は回帰できたか?」という記事が掲載されていました。インタビュー記事です。インタビューを受けているのが岸由ニさんだったので、丁寧に読んでみました。土石流災害を、流域の視点から説明されている点に新鮮さを感じました。岸さんには、まだ私が40歳頃に、参加していた「流域管理のプロジェクト」に対する評価でお世話になりました。そのとき、自分たちの研究を励ましていただいた記憶があります。ちなみに、このブログでも、「岸由ニさんの本」をエントリーしています。

■さて、この記事のなかで、岸さんは、次のように語っておられます。

地質以上に地形なのだと私は思っています。山間の土石流災害にしても、河川氾濫にしても、名古屋で起きた地下鉄駅の水没にしても、水害は地形によって起きるのです。じゃあ、その地形とはなにか。「流域」です。(中略)今の日本で起きている水害は、「なに」で起きているか。天から降ってきた大豪雨によって起きます。でも、「どこ」で起きているか。それは、それぞれの場所が属している「流域」の地形で起きているのです。

■今回の広島の土石流災害はどこでおきているかというと、「すべて山の斜面に広がっている「流域」の出口に当たる部分」なのです。

水は必ず高いところから低いところに流れます。そして流れ落ちる水は地面のより柔らかいところを削りながら流れます。雨が降って地面に落ちてきた雨水はこの2つの法則に沿って、地面を削り、低い方へ低い方へ流れ、川になって、その川がどんどん合流して最後は海にたどり着きます。こうやって雨水が削ってできた地形が「流域」です。

山に降った雨は、斜面から谷へと落ちて川に流れ込みます。山の一番高いところをつないだ「尾根」に囲まれたエリアに降った雨は、すべてこの谷を走る川に流れこみます。尾根の向こうは別の流域になります。自然の地形のほとんどは、このように流域がパズルのように組み合わさってできています。土地は、ほとんどの場合、雨水がつくった「流域」のかたちの中に収まっているんです。

今回の広島の災害は、山の斜面の、100ヘクタールにも満たない小さな流域が山から平地にひらかれる扇状地のような場所で起こっています。土石流災害が起きた扇状地のような場所は、原理的に考えれば、大雨がふれば必ず水と土砂が集まる場所です。そこに人が集住していなければ、土石流は大雨に対する流域の自然な反応であって災害にはなりません。しかしそこが居住地になっていれば、豪雨の規模に応じて、大きな土砂流がおき、限度をこえれば大災害になる。自然のメカニズムでいえば、当然のことなのですね。

■今回の災害がおきた流域のことを、岸さんは、仮に「小流域」と呼んでおられます。「流域は尾根で区切られて入れ子状になって」おり、「大流域の中に中流域、中流域の中に小流域が組み合わさって」できているのです。岸さんは、今回の災害のばあいは、「流域が上流域に広い集水面積をもち、下手で絞られる形をしている」ことが大きな災害を生み出していると指摘されています。しかも、その上、流域の森林においてこまめな管理されておらず、山の保水力が極度に低下しているため(モヤシ林で下草もはえない…)、豪雨の際には森林ごと流されて、倒木により小さなダムがうまれ、それが決壊したときにさらに大きな被害を生み出すというのです。

倒木や土砂による小さなダムは、斜面に複数できていることが多いものです。決壊したミニダムは、次々に勢いをまして、その下にあるミニダムを決壊させます。倒木と土砂がミニダムを崩壊させながら谷へ向かって滑り落ちていきますから、物凄いスピードと破壊力を持った土石流になるわけです。

広島でも、大島でも、被害の発生した小流域では、このようなことが起きたのではないかと想像されます。次々とミニダムを決壊させて勢いを増すカスケード型の崩壊は本当に怖いんです。

■岸さんは、動画も紹介されています。以下のものです。「流れの先端は倒木や石だらけ」です。「温暖化豪雨時代」、「森林管理不在時代」の現在、このような小流域が大災害をもたらす時代になっていると警告されています。また、流域の考え方を防災に取り入れる必要性があると強く主張されています。地域住民は、自分たち自身でそのことを確認する必要があるのです。『「流域地図の」作り方』の著者らしい主張です。

■岸さんは、最後にこうアドバイスされています。

安佐南区の災害が起きた八木地区の地名は「八木蛇落地悪谷」でした。豪雨があれば、大量の土砂の流れ落ちる流域であると、昔の人は良く知っていたのでしょうね。自分の住んでいるところが危ないとわかったら、地域住民で協力して裏山の森の手入れをするなどというのも良い対応かもしれません。谷に溜まっている倒木の処理をするだけでも、きっと被害を小さくすることができますよ。

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