地域の再生と大学の貢献(吉武博通)

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■大学教員の仕事には、すぐに頭におもいうかぶ教育・研究に加えて、学内行政や地域貢献があります。先日、「リクルート進学総研」というサイトの「カレッジマネジメント」(リクルート『カレッジマネジメント』は、全国の大学、短大、専門学校など、高等教育機関の経営層向けにリクルートが発行している高等教育の専門誌)で、吉武博通(筑波大学 大学研究センター長 大学院ビジネス科学研究科教授)さんが連載されている「連載 大学を強くする『大学経営改革』」を読む機会がありました。吉武さんは、混迷する日本の大学経営に関して、この連載で様々な角度から発言されています。そのような連載のなかで、今回は、大学の地域貢献に関連する「地域の再生と大学の貢献」を少しご紹介してみようと思います。

■現在、地域再生が強く求められていることは言うまでもありませんが、この点に関して吉武さんは、神野直彦さん(関西学院大学教授)を引用しながら、「地域再生とは、これから始まる時代における人間の生活の場の創造」であり「自然環境の再生と地域文化の再生が、地域社会再生の車の両輪となる」(神野直彦『地域再生の 経済学』中公新書 2002)と述べておられます。そのさい、「補完性の論理」(家庭やコミュニティでできることはそれらに任せ、できないことを基礎自治体、さらには上位自治体、そして国が補完的に担う)という考えにもとづき、「“自立”と“身近な場所での問題解決”」が必要であると主張されています。

■なんからの問題に関し、家庭・コミュニティ、基礎自治体・上位自治体、国のあいだで、何をどのように補完しあうのか、この点についてはかなり注意が必要ではありますが、「“自立”と“身近な場所での問題解決”」が必要だとの主張は、首肯できる論点かと思います。
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人間は社会と不可分な存在であるといわれるが,一人 ひとりがより良く生きる社会であるためには,個々人が 自立した上で相互に補完・協力しあうことが前提とな る。個の自立は教育の重要な目的でもある。日本の学 生の目的意識が諸外国の学生に比して希薄だといわれ ているのも,自立が十分に尊重・追求されてこなかった 結果かもしれない。同様に個が集まる集団や組織にも 自立が求められる。

しかしながら,個人は集団や組織に依存し,集団や組 織は行政に依存する,あるいは地方自治体は国に依存す る,という状態から脱しきれていないのが我が国の現状 である。

“自立”と深く関係するのが“身近な場所での問題解決”である。自分の問題は自分で,集団や組織の問題は その中で解決するのが基本だが,困難であったり,個や 集団・組織を超える問題であったりした場合でも,可能 な限り現場に近い場所で解決するというのがその意図 するところである。

現場から遠い場所では,実態を正確に把握することが 難しく,政策の成否が自分の生活に関わってくるという切迫感も持ち得ない。議論が抽象的になり,現場の実情に即した実効性ある制度設計にも限界が生じてしまう。

地域が自らの問題を可能な限り自力で解決する中で, 人も育ち,政治・経済・文化の質も高まるのではなかろうか。
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■では、このような地域再生に向けて、大学と地域はどのように連携していけばよいのか。吉武さんは、「大学が地域における教育により深くコミットすること」とともに、「地域の人材が成長し続ける場づくりを促す」ことが必要であると述べておられます。そして後者については、以下のように説明されています。
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問題は,自身の成長を促す知的刺激が十分ではなく, より高いレベルでものを考え,議論を交わす場も限られ ているという点である。これまでやってきたことを頑 なに守り,新たなことや変化を受け入れようとしない保守性が地域社会や組織内に色濃く残っていることも,次代を担う人材の育成を難しくしている。

地域再生の難しさは,古きものと新しきものの葛藤を避けては通れないことである。それだけに,地域の再生を担う人材には,古きものを理解しつつ新しきものを積極的に取り入れる,幅の広さや奥行きの深さが求められる。

このような人材を育成するとともに,自身を成長させ続けられる場が至る所に見出せる,そのような地域づくりを促すことも大学の重要な役割である。
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■吉武さんの主張は、少し具体性に欠けることは否めませんが、「自身を成長させ続けられる場が至る所に見出せる」という点は、大変重要ですし、魅力的なものです。現在、私は、社会学部で「大津エンパワねっと」という地域密着型教育プログラムの運営・学生指導にあたっています。また、ゼミで「北船路米づくり研究会」という地域貢献型の活動も行っています(詳しくは、このホームページの関連ブログエントリーをご覧ください)。そのようなこれまでの、私個人のわずかな経験蓄積ではありますが、吉武さんのお書きになっていることは、大変納得できるものがあります。このような現在の大学運営に期待されているマクロな視点をふまえつつ、現在の取り組みをより豊かなもにしていければと思います。

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