図録『Beautiful Japan 吉田初三郎の世界』
▪️東京にお住まいの友人が、府中市美術館で開催されていた展覧会「Beautiful Japan 吉田初三郎の世界」に行かれたことをfacebookに投稿されていました。これは、府中市美術館独自の企画展で、巡回する類の展覧会ではないようです。残念ですけど。ということで、図録を取り寄せました。
▪️鳥瞰図絵師・吉田初三郎(1884-1955)の作品の多くは、観光というテーマに焦点化されています。旅行や観光が一般の人びとにも可能になった時代の作品、ガイドブック的な作品なのです。丁寧に取材をして、たくさんのスケッチを描き、それらを一枚の紙にグッと集約して書き込んでいます。特に描かれた鉄道は注目されます。鉄道を利用しながら、その地域を巡ることを眺める人に想像させます。そのような様々な工夫がしてあります。しかも、作品の端っこには、当時、日本が植民地としていた朝鮮半島や占領していた上海、また樺太等も書き込まれています。吉田初三郎の世界観を垣間見るような気持ちにもなります。
▪️当時の皆さんは、現在の私たちがGoogleEarthを使っている時に感じるのに近い感覚を、作品から感じ取っていたのかなと想像します。もちろん、GoogleEarthは人工衛星からの画像ですから全て写っていますが、吉田初三郎の場合は、テーマに沿って情報が選択され、あるいはテーマからは余分な情報は排除されています。そこに描いた作者である吉田初三郎の存在を逆に感じ取ることができるし、GoogleEarthとは異なる作品としての楽しみが生まれてきます。この図録、大変興味深いものなのですが、残念ながら、印刷では、作品に書かれた細かな文字が読むことができません。思わず、スワイプしてみたくなりますが、印刷だとそれは無理ですね。
【追記1】吉田初三郎式鳥瞰図データベース(国際日本文化研究センター)
【追記2】▪️先日観覧したあべのハルカス美術館「広重 擦りの極」展や、少し前になりますが大阪中之島美術館「モネ 連作の情景」展でも感じたことがあります。かつては、特定の土地に人びとが縛り付けられてきた過去とは異なり、社会全体に経済的なゆとりが少し生まれてきて、徒歩にしろ、お伊勢参りのように楽しみのために移動すること=観光が可能になったこと。鉄道でその範囲が広まったこと。また、そのような観光を支える仕組みや産業が発達したことと。それらのことと、広重の浮世絵、印象派の絵画、そして吉田初三郎のアートとは深く関係してるように思います。