ゲーミフィケーションと大学の授業、そして卒論。

■ゲーミフィケーション…という言葉があるそうです。「そんな言葉も知らないのか…」と呆れている方もいらっしゃるかもしれません。「ゲームデザイン要素やゲームの原則をゲーム以外の物事に応用すること」なのだそうです。調べてみると、学校や大学の授業にこのゲーミフィケーションを取り入れて学習意欲を高めて、学力向上させようという議論もあるようです。もっとも、ゲームをやらない私には、いまいちよくわかりません。

ということで、ちょっと調べてみました。ゲーミフィケーションのやり方がいくつかあげられていました。例えば、以下のようなものです。

①目的・課題の提示を明確に提示する
→ゲームだと、例えば「勇者よ、汝の目的は、王国を魔物から解放することじゃ」 というミッションを与えるわけですね。授業だと、このシラバスの「授業概要」や「到達目標」がこれにあたりますかね。でも、シラバスに「学生よ、汝の目的は、これこれしかじかを理解することじゃ」なんてふうには書きませんけどね。

②現状を可視化して、つぎの一歩をわかりやすくする
→ゲームだと「この地図にしたがって川をさかのぼり、山頂にいたって、大魔王と戦え」と。これもわかります。授業だと、授業計画全体の流れを理解してもらって、「今回は、その全体のうちのここ、このテーマに関して話をします。このポイントに関して理解を深めて」という感じでしょうか。

③ストーリーをつくる
→ゲームだと「数百年前から、この町は、勇者が守ってきたのじゃ」。ゲームで戦うことの背景、コンテクストを明示して、戦う意味をはっきりさせるわけですね。授業だと、この授業を学ぶことの学問的な意義のようなことを理解してもらうことかな。どうでしょう。

④フィードバックは迅速に行う
→ゲームだと「効果はバツグンだ。経験値50を得た。勇者はレベル25になった」。これもわかりやすいですね。授業だと、リアクションペーパーへのコメントを書いて返していくとかがそうでしょう。

⑤成功すれば、わかりやすい報酬をもらえるように
→ゲームだと「魔王を退治した勇者は、次期の王となり金10,000を与えられる」。これもよくわかる。レポートを1回提出すると何点…みたいな感じかな。シラバスだと、成績評価の方法のあたりでしょうか。

⑥競争者の情報も見える化する
→ゲームだと「西の町の勇者は、魔王まで3ブロックまで迫っているぞ」。競争することで、戦う意欲が高まるのかな。

■こうやってみていくと、⑥を除いて、大学の授業の場合も、授業そのものに加えて、シラバスや現在取り入れられているクラウド型の教育支援サービスの中に、①から⑤について一定程度取り入れられているようにも思います。⑥も、個別の授業でなく、成績全体であればGPAという数値で確認できます。もっとも、「〜〜するのじゃ」みたいなゲームのノリというか、そのような表現はしていませんけど。

■以上のことは、もちろん「機能」としては…です。先ほどリンクを貼り付けたサイトの記事によれは、「おもしろいゲーム」でなければ、ゲーミフィケーションは失敗するのだそうです。あたりまえですが、おもしろい中身の授業でなければ、①〜⑤が授業の運営に取り込まれているにしろ相手にされません。しかも、全ての人にとって面白いゲームは存在しないように、全ての学生にとって面白い授業も存在しません。

■なぜ、こういうことに関心を持ったかというと、以前、ゼミで卒論の指導をしていた時に、一人の学生さんが、「こうすれば卒論が絶対にうまくできるという道筋を示してくれたら、やる気スイッチ入るんですけどね」と言ったことを時々思い出すからです。その時は、何を言っているんだろうと驚きましたが、このゲーミフィケーションという概念を知ると、彼の言わんとすることもなんとなく理解できます。そういえば、その学生さんは日々ゲームに没頭している人でした。

■授業の運営でゲーミフィケーションを意識することは、それほど難しいことではないと思います。おそらく、無意識のうちにそうやっている教員もおられるでしょうね。そもそも、シラバスがそのような構造を取り込んでいるようにも思います。で、問題は卒論ですね。ゲームの場合は、ゲームを提供する人たちがいて、その提供されたゲームを体験して消費する人がいて成立していますが、卒論は、自分自身で意味や意義のある課題をみつけて、その課題を明らかにするために研究に取り組むわけです。教員は、それを側面から支援するわけです。ですから、あえて卒論でもゲーミフィケーションという考え方にこだわるのであれば、自分で面白いゲームを作りつつ、自分でそのゲームを体験してワクワクする…ということになるのでしょうか。もっとも、研究は自らの意思で行うものです。個人的には、そもそもゲーミフィケーションは成り立たないと思っています。

■ああ、卒論の指導。何年もやっていますが、いつもいつも苦労しています。

管理者用