生物多様性のパラドクス

20160421kondo.jpg ■龍谷大学のホームページに、「さまざまな生息地がみんな違っていてしかも互いに「ほどほど」に繋がっていることが 自然のバランスを保つカギ 理工学部 近藤倫生 教授らが世界で初めて解明」という記事が掲載されました。以下は、記事のトップ部分を転載したものです。この近藤教授の研究成果は、私たちが総合地球環境学研究所で取り組んでいるプロジェクトにとっても大変重要なものかと思いました。この転載部分の最後には、「同じような均質な環境ばかりになったり、生息地の間の行き来が生物にとって困難になると、生物それ自体に人間が手をくださなくとも、それだけで自然のバランスは崩れて、生物多様性が失われてしまう」という部分を読みながら、琵琶湖総合開発によって陸と水が分断され、また圃場整備事業によって用水路と排水路の分離されることにより、水田を産卵や生育場所にできなくなった魚たちのことを連想してしまいました。また、人工造林によって単純化した森林のことなども頭にうかんできました。さらにもうひとつ、「複雑な生態系ほど安定化する」という点がとても気になりました。まだうまく言葉にできているわけではありませんが、このような主張からは、何か研究上のヒントを得られるのではないかと思っています。多様性とシステムの安定性を両立させる条件は何かという点です。友人の生態学者にも、いろいろ質問してみたいことがあります。

2016年4月13日

龍谷大学理工学部の 近藤 倫生 教授と島根大学生物資源科学部の 舞木 昭彦 准教授は、多種からなる生態系のバランスを保つために、生物の棲む生息地はどのような特徴を備えているべきかを世界で初めて理論的に突き止めました。この研究によると、①たくさんの生息地があってそれらの環境がみな異なっていること、②これらの生息地が互いにつながっていて生物が行き来できること、③しかし生息地間の行き来が生物にとって容易すぎないこと、これら3つのの条件がそろわないと、多様な生物からなる生態系は自ずと不安定になって壊れてしまう可能性があることが理論的に示されました。本研究成果は、日本時間の2016年4月13日午後18時(英国時間午前10時)発行の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されます。

自然界では、多種多様な生物たちが他の生物を食べるなど互いに関係しあいながら、共存しています。そこでは、一種類の生物だけが他を圧倒してしまったりすることなく、「自然のバランス」が保たれているように見えます。しかし、これは少なくとも理論的には「あたりまえのこと」ではありませんでした。1972年、理論生態学の権威ロバート・メイ博士は、単純な数理モデル(注1)に基づいて、「生物の種類が増えるほど、そして、生物間の関わり合いが複雑になるほど、生態系は不安定になり維持されにくくなる」とする理論予測を発表しました。しかし、現実には極めて複雑な生態系が維持されており、メイ博士の理論予測に反しているように見えます。これは「生物多様性のパラドクス」と呼ばれています。それから半世紀ものあいだ、この理論と現実の矛盾(パラドクス)は解消されず、自然界で生物多様性が維持される仕組みは、未解決のまま残された大きな謎でした。

本研究グループは、従来の研究では見逃されてきた「生息地の複雑性」を考慮に入れた数理モデル(注1)を世界にさきがけて開発・解析しました。これにより、「多様な生息地が存在し、かつそれらの間を多様な生物がほどほどに行き来できる」ということがあれば、メイ博士の理論予測を逆転させられる(複雑な生態系ほど安定化する)ことを理論的につきとめました。これは、裏を返せば、人間活動によって生息地の数が少なくなったり、同じような均質な環境ばかりになったり、生息地の間の行き来が生物にとって困難になると、生物それ自体に人間が手をくださなくとも、それだけで自然のバランスは崩れて、生物多様性が失われてしまう危険性を示唆しています。

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