NHKスペシャル「老衰死」
NHKスペシャル「老衰死 穏やかに最期を迎える」
▪︎ふだん、あまりテレビをみないのですが、時々、NHKスペシャルのような番組は楽しみにして視るようにしています。しかし、楽しみにしていても、ついうっかり見逃してしまうんですよね。今回のばあいも気にはなっていたのですが、案の定忘れてしまっていました。しかし、偶然にふとテレビのスイッチを入れたら、視たいと思っていた番組がちょうど始まるときでした。「老衰死 穏やかな最期を迎えるには」という番組です。番組の内容を少し紹介します。
▪︎超高齢社会の日本では、近年、「老衰死」が増えています。2014年には75,000人を超えて統計を取り始めて以来過去最高になりました。自然な死を受け入れるという考え方が広まってきているのではないか、と番組では考えているようです。番組では、入居者の平均年齢が90歳以上の特別養護老人ホームでの半年にわたる取材を行いました。老いとともに食べ物を受け付けなくなっていくのはなぜか、人は亡くなるときに苦しくないのか、という点にも焦点をあてています。
▪︎海外では老衰死を積極的に受け止めようとしているようですが、必ずしも日本ではそうではありません。医師を対象としたアンケートからは、まだまだ、迷いがあることがあるのですが、少しずつですが、日本でも、老衰死を受け止めようとする動きがあることがわかります。
▪︎番組では、医学の最先端研究にも焦点をあてます。アメリカの大学の研究では、老化に伴う細胞の減少が臓器の萎縮につながること、小腸内のじゅう毛やその周りにある筋肉が萎縮すると栄養素をうまく吸収することができなくなることが、明らかにされています。また、老化し分裂を止めた細胞の中では「炎症性サイトカイン」などの免疫物質が数多く作られ、それらが外に分泌されると、周囲の細胞も老化が促進され慢性炎症が引き起こされることが明らかになってきました。この現象を「SASP」(サスプ)と呼ぶのだそうです。まるで、死に向かうために、体のスイッチがパチンと入るかのようです。
▪︎慢性炎症は、体の様々な機能を低下させます。この老いがもたらす炎症には、「老化(Aging)」と「炎症(Inflammation)」を組み合わせた造語が生まれています。「Inflammaging」(インフラメイジング)です。老いがもたらす死の謎を解くカギとして注目されているのだそうです。では、死が迫ったとき苦しくはないのでしょうか。イギリスの大学の研究では、死が迫った高齢者の脳は炎症や萎縮により機能低下し苦痛を感じることはなくなっていることが明らかになってきました。何か、これまで流布していた死に対するイメージとは違っています。
▪︎世田谷区立特別養護老人ホーム「芦花ホーム」の医師・石飛幸三さんは、次のように語っています。
施設に勤めて10年になります。多くの人が自分の“最期”の迎え方を真剣に考える時代になりました。医療技術の発達によって、命を延ばすさまざまな延命治療法が生まれ、そのことが、逆に家族や本人を悩ませることになっているのではと感じています。私たちは人生の終末期をどのように迎えればいいのか迷い道に入ってしまったのかもしれません。施設では、本人や家族と話合いを続けながら、胃ろうなどの延命治療に頼るのではなく、自然の摂理を受け入れ、静かに最期を迎えてもらう取り組みをすすめてきました。入居者の皆さんが亡くなられる前には、次第に食べる量が減って、眠って、眠って最期は穏やかに息を引き取られます。私は老衰による安らかな最期を「平穏死」と呼んできました。実は、施設に来るまで、自然な最期がこんなに穏やかだとは知りませんでした。40年以上外科医として、徹底した治療を続けてきました。“死”を遠ざけていたのは、医師である私自身だったのです。施設ではいつも「ご本人もご家族も、みんなが平穏な気持ちで最期を迎えることが理想」と話しています。今回の番組が皆さんの大切な人の最期を考える一助となることを願っています。
▪︎大変、考えさせられる内容でした。番組のなかには、2つのご家族が登場されました。いずれのご家族も、息子さんがお母さんを看取るわけですが、お母さんという個人の死は、老衰で亡くなっていかれるお母さんと息子さん、そしてその周囲にいる方たちとの「関係」の問題でもあると思いました。死とは、一人の人間の身体の死であるにとどまらず、「関係」の変容として捉えることができると思います。