『くらべる東西』
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■こんな本を手に入れました。まずは、上の『くらべる東西』から読み始めています。最初から読むというよりも、気になったところを眺めて読む…そんな感じで読んでいます。例えば、座布団。東は、座布団の真ん中の綴じ糸は「×」か「+」なのだそうです。それに対して、西は「Y」なんですって。知りませんでした。といいますか、我が家は椅子に座る暮らしをしているので、自宅にきちんとした座布団がないように思います(ひょっとすると、押し入れにあるかもしれませんが)。
■それから、「東の関」と「西の関」も面白いと思いました。東の関は箱根になります。西の関は逢坂の関です。大津市の浜大津から逢坂山を越えて山科にむか京阪京津線の大谷駅の少し浜大津寄りのあたりに、「逢坂山関址」と書かれた石碑があります。古代は、この逢坂の関から西側を関西、東側を関東と呼んでいたようです。ただし、そう読んでいたのは平安時代から中世まで。どの地域を関西、関東と呼ぶのかは、時代とともに変化してきたようです。ということは、古代だと、今私が住んでいる大津は関西ではなかったわけです。それはともかく、関西という言葉のルーツが身近なところにあったので、なんだか嬉しい気持ちになります。
■この本では、さまざまなトピックで東西をくらべています。いなり寿司、おでん、桜餅、ぜんざい…食べ物はもちろんですが、表紙の銭湯も。
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朽木の炭焼き
■今日は、朝早くから大雨の中レンタカーを借りて高島市の朽木へ行ってきました。高島市の中山間地域で炭焼きを復活させた、あるいはこれから復活させようとされている集落の活動に関して、聞き取り調査を行ってきました。朽木の市場、麻生、雲洞谷(うとだに)、それから今津にある「たかしま市民協働交流センター」に行き、この交流センターの運営を受託されている特定非営利活動法人コミュニティねっとわーく高島の職員の方たちにお話を伺いました。その時、こんな本があることを教えてくださいました。早速、市内の書店で購入しました。
■朽木の小川(こがわ)にお住まいの榊ご夫妻が出版された『聞き書き 朽木小川 しこぶちさんと奥山暮らし歳時記』です。文章は榊治子さんが、写真は榊始さんが担当されています。朽木の小川は、朽木の中でも一番南にある針畑川沿いにある集落です。榊さんご夫妻は、集落外から移住されてきました。朽木には、このような移住された方たちが、それぞれの集落や地域の中でいろいろ活躍されている、大切な役割を果たしておられるようです。
梨木香歩『家守奇譚』
■最近のことになるのですが、梨木香歩さんという小説家のことを友人に教えてもらいました。教えてくださったのは、土屋俊幸さんです。以前の投稿にも書きしたが、森林と人や経済との関係についての研究(林政学がご専門で、林野庁の林政審議会会長)されている方です。土屋さんから、昨年暮れに出た梨木香歩のの絵本を知っていかとの問い合わせが届きました。「琵琶湖の話なので、まずは脇田さんに聞いてみようと思ったわけです」とのことでした。私、さっそく入手して読んでみました。そのことについては、以前の投稿「『よんひゃくまんさいのびわこさん』」に書きました。その後、梨木さんの世界観に惹きつけられて、子ども向けの童話『岸辺のヤービ』(梨木香歩・作、小沢さかえ・絵)も買い求めました。
■惹きつけられて、とうとう梨木ワールドにハマってしまっています。先日読了したのは、梨木さんの小説『家守奇譚』です。すべて植物の名前がついている二十八の短編を、ひとつひとつじっくり味わいながら先ほど読み終えました。妖怪やもののけ、そして神がいる「あっちの世界」と、私たちのいる「こっちの世界」が入り混じったようなお話が、私はとても好きなのです。このように書くと、私が「あっちの世界」に敏感な体質の人間のように思われるかもしれませんが、実際は、真逆です。そういう不思議な体験をしたことがないので、憧れているのでしょう。知り合いの中に、敏感な体質の人がいます。ご本人がおっしゃるにと、敏感だと大変なんだそうです。映画「シックス・センス」の主人公の少年のような…までいかなくても、「あっちの世界」の存在をリアルに感じ取ることはかなり辛いことなのだそうです。次は、この『家守奇譚』の続編にあたる『冬虫夏草』を読んでみる予定です。
矢部太郎『ぼくのお父さん』
『#ぼくのお父さん』と僕と父でツイッター用に写真を撮らせてとお願いしたら、父が自分の絵本をたくさん持ってきてこんな写真になりました。。#父の日 pic.twitter.com/Z6o12saaal
— 矢部太郎 カラテカ (@tarouyabe) June 19, 2021
■お笑い芸人で、気象予報士で、漫画家の矢部太郎さんのお父様は、絵本作家のやべみつのりさんです。親子で並んだ写真、とても似ていらっしゃる。素敵な写真ですね〜。太郎さんの『ぼくのお父さん』は、みつのりさんへの素敵な父の日のプレゼントになったことでしょうね。
■太郎さんのお父様がどのような方だったのか。以下の記事からもよく伝わってきますね。
各界が絶賛する矢部太郎の感性を育てた「ぼくのお父さん」は、いつも絵を描いていた
「漫画も気象予報士も外国語も、全部やらないと食べていけないから」 矢部太郎が語る“漫画が評価されたとき”の“米屋”のような気持ち
■先日、32歳になる息子が帰省しました。その際、子どもの頃のことを聞いてみましたが、なんだか忘れているようです。太郎さんのお父様のようなユニークでかつ素敵な父親だったかどうか…よくわかりません。たぶん、違うだろうな。
『岸辺のヤービ』(梨木香歩・作、小沢さかえ・絵)マッドガイド・ウォーターは琵琶湖?!
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■先日、土屋俊幸さんにご教示いただいた絵本『よんひゃくまんさいのびわこさん』(梨木香歩・作、小沢さかえ・絵)について投稿しました。となると、次に梨木さんと小沢さんのコンビによる童話『岸辺のヤービ』を読みたくなるのは、ある意味必然でしょうかね。
■今日、その『岸辺のヤービ』が届きました。表紙をめくって、ちょっとびっくり。表紙の裏には、物語の地図が描かれていました(子どもの時、こういう物語の中に描かれている地図が好きでした…)。それは、マッドガイド・ウォーターという小さな三日月湖なのですが、私には琵琶湖に見えてしまいました。いや、これ琵琶湖の形をヒントにしているのではないですか、どうでしょう。地図には、島とありますが、これは琵琶湖では竹生島、ローレライ岩とありますが、これは琵琶湖では沖の白石。梨木さんは、かつて琵琶湖の湖畔に仕事場を持っておられたというし。
■ええと、多くの皆さんにはどうでも良いことでしょうね。すみません。これから、『岸辺のヤービ』読むことにします。
『よんひゃくまんさいのびわこさん』
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■土屋 俊幸さんの本業は、森林と人や経済との関係についての研究(林政学がご専門で、林野庁の林政審議会会長)ですが、そのような本業とは別に、絵本に大変お詳しい方でもあります。その土屋さんに、『よんひゃくまんさいのびわこさん』という大人の絵本をご紹介いただき購入しました。衝動買い。梨木香歩・作、小沢さかえ・絵。私は、ずっと琵琶湖や滋賀と関わって研究をしてきたので、なにかじわーっと心にくるものがあります。
■琵琶湖は、現在の三重県の伊賀上野あたりに400万年前に誕生して、40万年前に現在の琵琶湖のある場所あたりまで移動してきました。40万年間閉じた湖になると、ここにしか生息しない固有種が生まれます。でも、ルーツを辿れば、海と繋がっている場所にいた生き物たちの末裔です。絵本では、ハマヒルガオとハマゴウが登場します。妖精のように描かれています。この植物は固有種ではなく、元々は海の砂浜で咲く植物です。なのに、どうして湖の砂浜で花を咲かすのだろう…不思議です。
■絵本の解説には、「若く、娘さんのような琵琶湖が、大地の記憶にある、ちゃぽんちゃぽんと遊んでいた頃の海に帰りたい一心で、ハマヒルガオたちを連れ、移動を続ける。そして、いつか疲れて移動する気力がなくなった頃、自分自身が皆の帰りたいと願う「海」になっている…」と書いてありました。なるほど。自分自身が海になっていた。読んだ後に、じわーっときますね(実際、滋賀県の人びとは、琵琶湖のことを海と言います)。琵琶湖に関する知識があると、余計にじわーっとくるかな。絵本を作られたお2人は、琵琶湖博物館に関わってお仕事をされたことがあるようです(ちなみに、私、昔、琵琶湖博物館の学芸員をしていました)。梨木さんは現在は関東圏にお住まいですが、以前は、琵琶湖の湖畔に仕事場を持っておられました。
■この絵本が出来上がる上で、琵琶湖博物館の学芸員の皆さんの研究が大切な役割を果たしています。そのお一人、里口保文さんが、琵琶湖について詳しく解説されています。みなさんも、どうぞお読みください。
■追記
絵本とは関係ありませんが、この書見台、なかなかええ感じです。
『流域ガバナンス:地域の「しあわせ」と流域の「健全性」』の書評
【新刊】脇田健一・谷内茂雄・奥田昇編『流域ガバナンス:地域の「しあわせ」と流域の「健全性」』https://t.co/jyBlWZC6TZ を刊行しました.地域住民の暮らしから流域全体の栄養循環に至るまで,ミクロからマクロにひろがる流域の連関を丹念に追い,流域ガバナンスのあり方を明らかにする. pic.twitter.com/Csy4kp5fcj
— 京都大学学術出版会 (@KyotoUP) January 15, 2021
■京都大学学術出版会によるTwitterのツイートです。総合地球環境学研究所で取り組んだ文理融合型プロジェクトの成果本『流域ガバナンス 地域の「しあわせ」と流域の「健全性」』(京都大学学術出版会)の広報を、今年の1月にツイートしていただきました。
■最近ですが、この本の書評を、中村幹広さんという方が書いてくださったことを知りました。森林関係の某学術雑誌にその書評が掲載されることになっているそうです。中村さんご自身のfacebookに書評のことを投稿されているのですが、その写真を拝見すると、ものすごくたくさんの付箋が貼り付けてあります。とても丁寧にお読みくださったのだと思います。心より感謝いたします。というわけで、中村さんからお申し出があり、fb友達になっていただきました。
■文理融合型のプロジェクトの成果なので、特定のディシプリンには収まり切らない本になっています。そのようなこともあり、どういう方達にお読みいただけるのかなあと漠然とした不安があったのですが、中村さんのような現場で公務員として林業の仕事をされている方から書評をいただくことができて本当に有難いと思っています(このような文理融合型の研究は、社会学関係の学術雑誌ではまず取り上げられないですから)。
■また、中村さんに書評を書いていただくようにお願いしてくださった某学術雑誌の関係者の皆様にも心よりお礼を申し上げます。私自身、もう年齢的に大きなプロジェクトはできませんが、個人としてはコツコツと環境ガバナンスの勉強を続けていきたいと思っています。中村さんの書評でのご指摘を大切にしていきたいと思っています。というわけで、とても苦労して編集した本ですし、ちょっと嬉しかったので、嬉しがりのようで顰蹙かもしれませんが、facebookで中村さんの投稿をシェアさせていただきました。
■実際に書評が掲載された時、またご紹介させていただきます。
春の平湖
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■昨日ことになります。草津市に用事があり車で出かけました。残念ながら用事を済ませることはできませんでしたが、せっかく草津まで来たので帰りは草津市志那町にある平湖という内湖の周りを散歩して帰ることにしました。この平湖と隣接するもうひとつの柳平湖は、昨年末に出版した『流域ガバナンス 地域の「しあわせ」と流域の「健全性」』(京都大学学術出版会) の中に登場します。この本は、総合地球環境学研究所で取り組んた研究プロジェクトの成果をまとめたものですが、研究プロジェクトの研究員であった池谷透さんが第2章5節で「在来魚がにぎわう内湖の再生に向けて」という論文で、内湖の環境保全活動と関連した研究を地域の皆さんとじっくり向き合いながら進めてこられました。
■ここでは、詳しくは説明しませんが、池谷さんはとても丁寧に超学際的研究を進めてこられました。池谷さんは、自然科学の分野の専門家ですが、私たち社会学者のように丁寧に地域の皆さんにインタビューを重ね、資料を発掘し、それらを総合的に受け止めらがら研究を進めてこられました。また、内湖に隣接する支那町の皆さんが滋賀県や草津市と協働しながら進めてきた保全事業にも専門家として関わってこられました。私も、少しだけですが、そのような池谷さんの研究のお手伝いができたのではないかと思っています。少し前のことですが、この内湖の風景を眺めながら、ちょっと懐かしい気持ちになりました。昨日は、少し風が強かったですが、気持ちよく散歩できました。内湖の岸近くをゆっくり泳ぐ魚の尾びれが確認できました。私には種類がわかりません(フナかな…)。これからは、このような岸に近い浅い場所で産卵します。
『流域ガバナンス 地域の「しあわせ」と流域の「健全性」』(京都大学学術出版会)
■ずっと編集に取り組んできた例の本、出版されるのは月末だそうです。これで、気持ちがスッキリしました。次の仕事に頭と気持ちを切り替えることができます。
■この本は、総合地球環境学研究所(大学共同利用機関法人人間文化機構)の文理融合型プロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会-生態システムの健全性」の成果をまとめたものです。プロジェクトに参加した人たちが各自の成果を学術論文にまとめ、その論文をもとに原稿を執筆した…わけですが、そのような論文を束ねただけの本ではありません。全体を貫き通す研究プロジェクトの考え方を強く意識して編集しています。
■ですから、通常の論文集ではありません。文理融合を志向する上での困難、地域と連携していく超学際的研究を目指す上での困難、そのような困難にも愚直に取り組んだことがわかるように工夫しています。また、プロジェクトの進捗の際に何があったのかが垣間見えるような工夫もしています。個々には、素晴らしい成果が出ているわけですが、全体としての評価については、いろいろご意見をいただかねばなりません。私自身は、「どうだすごいだろ〜」と胸を張るようなつもりでこの本を編集していません(そのような本は、世の中にたくさんありますけど、少なくとも私は違います)。正直にプロジェクトのことを書いています。この本が、個別のディシプリンの壁を越えて、環境科学の新たな地平を切り開いていこうとする方たち、特に若い研究者の方たちや、地域社会で環境問題に実践的に取り組む方達にぜひ読んでいただきたいと思って編集しました。そのような願いも、本書とともに読者に届けば幸いです。
■以下は、目次です。
はじめに
序 地球環境の中の流域問題と流域ガバナンスのアポリア
序-1 流域への注目と2つの研究戦略
(1)教育映画 “Powers of Ten”
(2)空間スケール
(3)水平志向の研究戦略
(4)垂直志向の研究戦略
(5)先行するプロジェクトについて
序-2 学際研究・文理融合研究から超学際的研究へ
はじめに
(1)文理融合による2つの先行プロジェクト(1997-2006年度)
(2)超学際的アプローチによる流域ガバナンス研究の展開(2014-2019年度)第1章 流域ガバナンス研究の考え方
第1章解説
1-1 文理融合型研究プロジェクトの「残された課題」
(1)相似的関係にある2つのアポリア
(2)研究プロジェクト「地球環境情報収集の方法の確立」
(3)研究プロジェクト「琵琶湖―淀川水系における流域管理モデルの構築」
(4)残された課題
1-2 流域における生物多様性と栄養循環
(1)なぜ、生物多様性は必要か?
(2)生物多様性とは何か?
(3)流域の生物群集の固有性と階層性
(4)生物多様性の恩恵
(5)生物多様性と栄養循環
1-3 流域における地域の「しあわせ」と生物多様性
(1)「魚のゆりかご水田」プロジェクト
(2)経済的利益の向こうに見え隠れすること
(3)農家にとっての「意味」
(4)集落の「しあわせ」
1-4 「4つの歯車」仮説 垂直志向の研究戦略の展開
(1)「鳥の目」と「欠如モデル」
(2)経済的手法と人口減少社会
(3)「ブリコラージュ」と超学際
(4)「4つの歯車」仮説
(5)協働の本質
1-5 2つの流域を比較することの意味
(1)シラン・サンタローサ流域
(2)流域を比較することの意味
(3)「虫の目」による修正
(4)本書の構成◉コラム1-1 湖沼をめぐる循環とガバナンス 2つの視点はなぜ重要か?
◉コラム1-2 環境トレーサビリティと流域の環境第2章 野洲川流域における超学際的研究の展開
第2章解説
2-1 琵琶湖と野洲川流域――インフラ型流域社会の特徴
(1)琵琶湖の固有性と多様性
(2)野洲川流域の風土と文化
(3)変貌する琵琶湖と流域管理
(4)インフラ型流域社会
(5)流域の新たな課題
(6)流域管理から流域ガバナンスへ
2-2 上流の森を保全する多様な主体の「緩やかなつながり」
(1)大原の概要
(2)森林保全を担う主体の多様化
(3)上流の森林地域でのフィールドワーク
2-3 圃場整備と少子高齢化――「地域の環境ものさし」によるアクションリサーチ
(1)小佐治地区の地理的特徴
(2)圃場整備と生態系基盤の変容
(3)小佐治地区の環境保全活動
(4)アクションリサーチと「地域の環境ものさし」
(5)「地域の環境ものさし」が地域にもたらしたもの
2-4 魚と人と水田――「魚のゆりかご水田」
(1)須原地区の地理的特徴
(2)琵琶湖に生息する魚
(3)琵琶湖総合開発による人や魚の変化
(4)「魚のゆりかご水田」プロジェクト
(5)「魚のゆりかご水田」5つの恵み
(6)経験知と科学知
(7)「魚のゆりかご水田」プロジェクトの課題
(8)経験知と科学知で人と人、人と自然をつなぐ
2-5 在来魚がにぎわう内湖の再生に向けて
(1)内湖と人の関わり
(2)志那の内湖
(3)内湖を残す
(4)内湖の保全・利用をめぐる関係性と生きものへの配慮
(5)次世代に残す魅力あるまちづくりに向けて
2-6 南湖の水草問題をめぐる重層的なアプローチ
(1)水草問題の経緯と現状、滋賀県の対策
(2)水草が植物成長に及ぼす効果
(3)水草利用と環境保全
(4)水草問題の多面性
(5)水草問題から新しい環境自治へ◉コラム2-1 水田における栄養循環調査――田越し灌漑と冬季湛水は水質保全に貢献するか?
◉コラム2-2 「鮒の母田回帰」を確かめる――ストロンチウム安定同位体比による分析第3章 流域の対話を促進するために
第3章解説
3-1 流域の栄養循環と生物多様性との関係
(1)「鳥の目」から見た栄養循環の特性と流域ガバナンス
(2)野洲川流域の栄養物質の動態と人間活動
(3)安定同位体を用いたリン酸の発生源解析
(4)懸濁態リンの流出と発生源
(5)野洲川流域の栄養循環と生物多様性の関係
(6)川の中の栄養物質の動き――川の水質浄化作用
(7)生物多様性と栄養循環のかかわり
3-2 信頼関係がつむぐ主観的幸福感――野洲川流域アンケート調査に対するマルチレベル分析
(1)主観的幸福感に関するこれまでの研究成果
(2)野洲川流域アンケート調査――「幸福な個人」と「幸福な地域」
(3)信頼の二面性――「きずな」と「しがらみ」
(4)「しがらみ」を緩和する一般的信頼
(5)流域全体の「しあわせ」の醸成に向けて
3-3 流域の栄養循環と地域のしあわせを生物多様性でつなぐ
はじめに
(1)「4つの歯車」仮説
(2)「4つの歯車」仮説の実態:野洲川流域を対象として
(3)超学際的研究におけるツールとしての意義◉コラム3-1 リンはどこからやってくるのか? リン酸酸素安定同位体比による分析
◉コラム3-2 流域からの地下水経由による琵琶湖へのリン供給
◉コラム3-3 産業連関分析からひもとく経済活動が引き起こすリンの流れ第4章 シラン・サンタローサ流域における超学際的研究の展開
第4章解説
4-1 ラグナ湖流域における人口の急速な増加と開発――流域管理の課題
(1)フィリピン開発の歴史と課題
(2)シラン・サンタローサ流域における流域管理の課題
4-2 シラン・サンタローサ流域におけるコミュニティが抱える課題――カルメン村を事例として
(1)カルメン村の概要
(2)周辺開発によるカルメン村の変容
(3)開発影響下にあるカルメン村の将来
(4)マリンディッグの泉の保全に関するアクションリサーチ
4-3 シラン・サンタローサ流域における栄養負荷、栄養循環と生物多様性の現状
(1)流域の土地利用と河川の栄養バランスの不均衡の関係
(2)栄養螺旋長の計測による河川の栄養代謝機能の評価
(3)栄養負荷と大型底生無脊椎動物の多様性の関係
(4)シラン・サンタローサ流域における栄養循環と生物多様性、今後の展望
4-4 サンタローサ流域における共通の関心(Boundary Object)――地下水問題
(1)歴史的に豊富な地下水
(2)地下水に関する問題と懸念
(3)シラン・サンタローサ流域の地下水の窒素汚染の現状
(4)バウンダリーオブジェクトとしての地下水
(5)ワークショップによる調査活動のまとめ
4-5 サンタローサ流域委員会の発展と地域の福祉
(1)サンタローサ流域における流域管理に向けた協力・協働の歴史
(2)サンタローサ流域委員会(SWMC)の設立(2017年)
(3)サンタローサ流域委員会(SWMC)の制度分析
(4)サンタローサ流域における参加型ステークホルダー分析
(5)協力関係の強化にむけて――サンタローサ流域フォーラムの開催
(6)サンタローサ流域の流域ガバナンスの今後第5章 流域ガバナンス研究の超学際的発展にむけて
5-1 垂直志向の研究戦略から明らかになったこと
(1)第三のアプローチ
(2)野洲川流域とシラン・サンタローサ流域の結果の差異は何によるのか?
(3)未来の専門家の姿
5-2 多様な流域のモザイクとしての地球
(1)多様な流域のモザイクとしての地球――ユニバーサル型の地球環境問題の視点から
(2)地球環境研究の文脈の中での私たちのプロジェクト
(3)「ジャーナル共同体」からの越境謝辞
索引
執筆者一覧
『流域ガバナンス 地域の「しあわせ」と流域の「健全性」』(京都大学学術出版会)、責了。
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■一昨日の月曜日の出来事です。総合地球環境学研究所での研究成果をもとにした、『流域ガバナンス 地域の「しあわせ」と流域の「健全性」』(京都大学学術出版会)、責了(責任校了)しました。出版会の編集者に「これで責了、でよろしいでしょうか?」とメールで確認されてドキドキしましたが。
■普通の論文集ではないので、本の全体に一本太い筋(文理融合型プロジェクトの論理)を通す作業に疲れました。本当に。今日は、もう1人の編者である谷内茂雄さん(京都大学生態学研究センター)と、朝から夕方まで、ずっと龍谷大学で最後の編集作業を行っていました。そして、責了です。というわけで谷内さんと、とりあえずの慰労も兼ねて、一緒に夕食を摂りました。
■おそらく、私たち2人は、もうこんなしんどいことは、二度とできないと思います。しんどいこと…とは、難しいこの手の本の編集だけでなく、文理融合型の研究プロジェクト自体もです。7年間取り組みましたが、年齢的に、体力と気力が持ちません。二度とと書きましたが、谷内さんと私は、流域環境問題に関する文理融合型の研究プロジェクトに取り組むのは、これで三度目になります。ですから、四度目はないということですね。2人とも、研究者の人生のかなりの時間を、この手の文理融合型の流域研究プロジェクトに捧げてきました。
■今回のプロジェクトの最後では、谷内さんと、毎晩のようにzoomによる編集作業を続けました。これからはこのようなことをしなくても良いわけで、少しは体調が回復してくれるのではないかと思います。谷内さんも同じ気持ちだと思います。大袈裟に言っているのではなく、ホンマの話です。2人とも、ホンマに体調を崩しました。で、この仕事が解決したら(完全に終了したら)、2人の思い出の地?!岩手に、慰安旅行に行こうといっています。まあ、コロナで実際には今のところ行けませんけど。
■でも、歳を取れば取るほど、時間の経過はスピードを増してきます。facebookで知りましたが、最善寺というお寺の伝導掲示板には、このような法語が掲示してあったようです。「三十までは各駅停車、四十までは快速列車、五十までは急行列車、六十過ぎれは超特急」。残された時間を何に優先的に使っていくのか、いろいろ考えなければばなりません。
【追記】
■聖書にこういう言葉があるそうです。「苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生む」(ローマの信徒への手紙5:3-4)。とても自分自身に忍耐があったとは言えないけれど、この仕事の終了までなんとか辿り着けたこと、そしてこの7年の経験が、この言葉と重なりあうものであってほしい…と思います。あと母校関学のスクールモットー、Mastery for Service (マスタリー・フォー・サービス 奉仕のための鍛錬)は、「社会学をやっている自分が、なんでこんなプロジェクトをやっているのだろう…」と迷った時に、いつも自分を励ましてくれました。
■これからは大きなプロジェクトはせずに、コツコツと楽しみながら自分の研究を続けていければ、そして流域の保全に関する実践的な取り組みに関わっていければと思います。平安時代、人々から「阿弥陀丸」と呼ばれた念仏信仰(称名念仏・専修念仏)の先駆者、教信のことをイメージしながら、自分の立っている場所から、流域ガバナンスのことについて考え・発言し・行動していければと思います。少なくとも前期高齢者を終えるまでの期間は、そのようなことができる健康と体力も維持したいと思います。もう、なんだか退職するかのようなことを書いていますが、あと6年間、定年退職まで龍谷大学に勤務するつもりです。残された大学教員の時間を大切にして頑張りたいと思います。