『野生動物管理システム』(梶光一/土屋俊幸 編)

20141007book.jpeg■私は、これまで「流域管理」の学際的研究に取り組んできました。そのような私が、他の分野の専門家と議論しながら、環境社会学の研究蓄積をベースに、それらを組み立て直し、再構成しつつ、提案してきた概念に「階層化された流域管理」があります。この「階層化された流域管理」の考え方の元になった素朴なスケッチは、脇田(2002:342-351)のなかで示してあります。その後、総合地球環境学研究所のプロジェクト「琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築」に取り組むなか、脇田(2005)において「階層化された流域管理」という考え方にまとめることができました。それらは、谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編(2009)のなかの脇田(2002)で、さらに詳しく説明しています。この「階層化された流域管理」の概念は、研究プロジェクトを統合する「柱」としての役割、そして異なる分野の研究者が相乗りするための「プラットホーム」のような役割を果たしました。

■今回ご紹介する『野生動物管理システム』(2014)は、先月、東京大学出版会から出版されたばかりの研究書です。エゾジカの研究で有名な梶光一さんを中心に実施された研究プロジェクト「統合的な野生動物管理システムの構築」の成果をまとめたものです。本書の「はじめに」では、次のように書かれています。「異なる行政・自治上の階層の統合、異なる空間スケール(ミクロ・メソ・マクロスケール)の統合、社会科学と生態学を統合することによって、深刻な農業被害をもたらしているイノシシに焦点をあてて、統合的な野生動物管理システムの構築を目指した」。このような考え方は、梶さんが「1.3『統合的な野生動物管理システム』の構築に向けて」の中でも述べているように、私たちの流域管理から生まれた「階層化された流域管理」の概念を、野生動物管理へと応用展開しているものなのです。こうやって、流域とは異なるテーマの研究のなかで応用していただけたことは、空間スケールに着目したこの「階層化された流域管理」という概念が、汎用性をもっていることを示しているともいえます。私たちの研究を、きちんと引用し応用展開していただいたことに、心より感謝したいと思います。

■本書の目次は以下の構成になっています。

I 総論編
第1章 野生動物管理の現状と課題(梶 光一)
第2章 地域環境ガバナンスとしての野生動物管理(梶 光一)
第3章 野生動物管理システム研究のコンセプト(梶 光一)

II 実践編
第4章 研究プロセスと調査地(戸田浩人・大橋春香)
第5章 ミクロスケールの管理――集落レベル(桑原考史・角田裕志)
第6章 メソスケールの管理――市町村レベル(大橋春香)
第7章 マクロスケールの管理――隣接県を含む(丸山哲也・齊藤正恵)
第8章 イノシシ管理からみた野生動物管理の現状と課題(大橋春香)
第9章 学際的な野生動物管理システム研究の進め方(中島正裕)

第III部 政策編
第10章 北米とスカンジナビアの野生動物管理――2つのシステム(小池伸介)
第11章 野生動物の食肉流通(田村孝浩)
第12章 統合的な野生動物管理システム(土屋俊幸・梶 光一)

おわりに(土屋俊幸)

■目次のなかにはっきり現れていますが、野生動物の管理をめぐる階層性に注目されていることが理解できます。梶さんは、このように書かれています。

野生動物管理の階層を考えた場合、これらの階層は国、都道府県、市町村、集落といった行政・自治上の単位(階層)に相当する。そこには、様々な行政のほか、農林業、酒量者、NGO、研究者などマルチスケールの階層がかかわっている。これらの野生動物管理にかかわる関係者(アクター)の協働によるボトムアップの取組と管理計画によるトップダウンの調整が必要である。

さらには、野生動物管理に求められている個体数管理、生息地管理、被害防除についても、空間スケールと行政・自治上の単位に関係するので、異なる社会構造における階層間の連携が野生動物管理には不可欠である。問題は、それをどう築き上げるかである。

■このあたりの梶さんの考えかは、テーマは違いますが、私たちの「階層化された流域管理」とも共通する問題意識でもあります。まだ、読了していませんが、現在取り組んでいる流域管理のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」で、梶さんたちの研究の成果を、こんどは逆に応用展開させていただけるのではないかと思っています。

・脇田健一,2002 ,「住民によ環境実践と合意形成の仕組み」『流域管理のための総合調査マニュアル』京都大学生態学研究センター 未来開拓学術研究推進事業 複合領域6:「アジア地域の環境保全」 和田プロジェクト(JSPA-RFTF97100602)編.
・脇田健一,2005 ,「琵琶湖・農業濁水問題と流域管理―『階層化された流域管理』と公共圏としての流域の創出―」『社会学年報』No.34(東北社会学会).
・谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編,2009,『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』和田英太郎 監修,京都大学学術出版会.
・脇田健一,2009,「『階層化された流域管理』とは何か」『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』和田英太郎 監修/谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編,京都大学学術出版会.

おうみ映像ラボ 遠足 ~映画『ワキノタン』の撮影地・高島市朽木針畑を訪ねて~

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20141007wakinotan.jpg ■知り合いの女性が、今春友人4名で「おうみ映像ラボ」というチームを立ち上げられました。滋賀県下のドキュメンタリー映画や記録映像を発掘するチームなんだそうです。素敵ですね〜。そのチームて、今週末に、朽木・針畑への遠足(上映会+撮影地の体験)にいく日帰りミニツアーの企画をたてられました。ということで、私は申し込みをさせていただきました。

■日曜日、JR湖西線・堅田駅から滋賀県高島市朽木針畑へバスで向かい、そこでドキュメンタリー映画「ワキノタン」を鑑賞します。作品は、「朽木針畑で40年間にわたり集落に暮らす人々の生活の中にある『暮らしの知恵・思い・カタチ』を記録映像として撮影してきた針畑生活資料研究会(主宰:丸谷彰氏)」によるものです。大変楽しみです。ドキュメンタリーを鑑賞したあとは、「朽木を散策し、針畑の山菜採集など食文化の体験を、生活文化に触れ」る予定です。

おうみ映像ラボ

説明
映像を媒介にして、地域に引き継がれた技術や知恵、地域性・共同体の姿などの「暮らしの周縁」にあるものの価値を再認識する「共感の場」を創出することを目的としています。

映像上映会や映像づくりなどを通じてネットワークを形成し、地域の人・技・文化・景観をアーカイブ化していきます。

この活動により、視覚・聴覚、また関わりの深い人のお話を通じて滋賀の恵みを再認識し、次世代に繋いでいこうと考えています。 

ご関心のある方、映像記録の情報をお持ちの方、ご連絡いただければ幸いです。
「おうみ映像ラボ」どうぞ宜しくお願い致します。

・2014年度 滋賀県「美の滋賀」地域づくりモデル事業 受託
所有者情報
メンバー:大原歩(大学非常勤講師・成安造形大学附属近江学研究所研究員)、大藤寛子(にぎやかし1)、藤野ひろ美(にぎやかし2)長岡野亜(映像作家)【五十音順】

【追記】■残念ながら、このイベント、台風のために延期になりました。

Akira Yoshimura Works ― 吉村朗写真集 ―

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■大隅書店から「Akira Yoshimura Works ― 吉村朗写真集 ―」が発売されています。私自身、写真集が好きなのですが、堅い雰囲気といいますか、緻密なコンセプトにもとづいて撮られたものについては、自分自身、あまり関心が向いてきませんでした。この吉村朗の写真集については、関係者の方から、大変丁寧にお話しを伺ったこともあり、購入することにしました。以下は、大隅書店の解説からの引用です。

吉村が挑んだ“新たな物語”のための写真 ― それは、まさに実験であった(深川雅文「闇の光 吉村朗の軌跡」より)。1980年代半ばより都市のスナップ写真家として脚光を浴びた後、1990年代に大きく作風を変え、日本近代という怪物をめぐって自己の実存と歴史のあり方を重ね合わせ問い掛ける問題作を発表し、内外の注目を集めた吉村朗。馴化されず、媚を売らず、自らの道を突き進んだ、孤高の写真家の待望の作品集、遂に刊行!

吉村 朗(よしむら・あきら)
写真家。1959年6月3日、福岡県門司市(現・北九州市門司区)に生まれる。本名は吉村晃(1991年頃、朗に改名[通称])。1978年3月、福岡県立門司高等学校卒業。同年4月、日本大学芸術学部写真学科入学。1982年3月、同卒業。同年4月、東京綜合写真専門学校研究科入学。1984年3月、同卒業。1980年代半ばより、都市のスナップ写真家として脚光を浴び、その後、歴史的事象を追った諸作品を発表して注目を集める。主な写真展に、「分水嶺」(銀座ニコンサロン、1995年)、「新物語」(「現代写真の母型1999 IV 鈴木理策/吉村朗」川崎市市民ミュージアム、2000年)、「u-se-mo-no」(イカズチ、2004年)、写真集に、『SPIN』(Mole、1999年)がある。2012年6月2日、逝去。

■写真集そのものについては、関係者の方から拝見させていただきました。説明を受けながら拝見すると、心のなかにズーンと重い衝撃がありました。吉村朗の解説については、川崎市民ミュージアム学芸員の深川雅文さんが、「Commentary 闇の光 吉村朗の軌跡」を書かれています。この解説を拝見しながら、写真集からの重いメッセージを、再度、深く受けとめたいと思います。

最近のアクセス数

■このところ、アクセス数が急に増えてきているのですが、これは何かあったんでしょうか…。単なる身辺雑記のブログなんですが。不思議です。なぜなんだろう。コメントをいただけたら良いのでしょうが、海外からのスパムコメントの嵐への対応策がわからないものですから、とりあえずコメントはできないようにしています。すみません。

広報龍谷「巻頭特集| 学長対談「これからの日本と大学」

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■龍谷大学の広報誌「広報龍谷」の巻頭特集| 学長対談は、鷲田清一さん(大谷大学教授・前大阪大学総長)「これからの日本と大学」です。以下は、自分用のメモのようなものです。どうか、リンクを貼った対談の方を直接お読みください。

鷲田「原発事故の後、残念ながら政府の公表するデータや発言がどんどん変わっていったり、科学者達の言うことが人によって全く違ったりするなかで、多くの人が専門家への不信感を増幅させた。これは大学に関わる者として、非常に由々しき事態だと思います。しかし、一方で、そのことによって市民達はいま、自分の生活を「自衛する」ということをはじめていますよね。」

鷲田「私学のいいところは、国立と違って、国の制度に縛られず、建学の精神に基づいて自由に特徴ある教育ができるところです。建学の精神の背景になるのは、やっぱりその大学の持つ世界観、人間観だと思うんです。生きるうえで、社会を運営していくうえで一番大事な価値って何か?私学にしばしば宗教系が多いというのは、やはり宗教をバックボーンとした人間観というものをしっかり持っているからなんですよね。」

鷲田「現場に立って、頭ではなく五感をつかって感じると、世の中には一筋縄にはいかない存在や出来事が存在するんだな、ということを理解せざるを得なくなりますよね。私達が学生だった頃は、街で暮らすなかでそういったことが経験できていたんです。」

鷲田「私が大阪大学の総長をさせていただいていたとき(2007?11年)、劇作家、看護師、コンテンポラリーダンサーなど、様々な職種の人を教員として呼んできて、正規の授業とは別に、本当に生きる力を身につけるための授業をやったんです。その人達の先導で、学校のすぐ近くの商店街の人達と協力して、一緒に映画祭をしたり、ケーキ屋さんを大学に招いてケーキの作り方を教えてもらったり。ところが学内でものすごい反対がありましてね。大阪大学が相手にするのは世界ですよ、そんなちまちましたことをやるなんて、って。でも今の学生というのは、見ず知らずの人といろいろ折衝して一から事業を立ち上げて、妥協したり、議論したりしながら一つのことを全部自分達で積み上げていくというトレーニングを全然していない。でもそういう経験が、彼らにとって本当に揉まれて生きる力を養成するんですよね。大阪大学ではその授業が本当にうまくいきまして、今では名物授業になっています。」

赤松「鷲田先生は著作のなかで、問題に直面したときにすぐ結論を出さず、それが立体的に見えてくるまで自分のなかで見極めることを『知性に肺活量をつける』という言葉で表現されていましたが、大学は、細切れの知識ではなく、そんな連結性のあるハイブリッドな知性や豊かな人間力をつける場所でありたいと思います。
 「ともにいかされているいのちに、深く目覚める」という浄土真宗の教えは、エゴイズムを超えた、普遍的な人間のありようを問い直すもの。この教えは、自己中心的な底なしの欲望を満たすことばかりを指向しながら、そのことによって苦悩を深めている現代において、時代を超えてまた人々の指針となり、あらゆる知性の源となるはずです。この教えのなかで学びの時間を過ごした龍谷大学の学生達は、批判精神を持って真理を見極め、真実に生きようとする姿勢がきっと身についていることでしょう。学生たちにとっては、厳しい時代ではありますが、必要以上に悲観することなく、自らの進むべき航路を切り開いていって欲しいですね。」

「報告 環境学の俯瞰」

■普段、「日本学術会議」の公式サイトというかホームページを見ることはほとんどありませんが、ひとつ前のエントリーに引用した報告「社会福祉系大学院発展のため提案 -高度専門職業人養成課程と研究者の並立をめざして」を読んだあと、「それじゃ、自分に関係のある分野はどうなんだろう…」と思って調べてみました。すると、「報告 環境学の俯瞰」がアップされていました。

■私が専門としている環境社会学という、社会科学のなかの社会学のなかのさらに細かな分野のなかでは、この報告書の中身をほとんどの人たちは気にしていないと思いますし、自分たちには関係のない世界だと思っておられるように思います(たぶん…私の勝手な想像ですが…)。しかし、その一方で、環境学や環境科学とよばれるトランスディシプリナリーの世界では、文系や理系といったことには関係なくこの報告書に書かれているような状況が展望されています。私が参加・参画している総合地球環境学研究所のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」のマネジメントにおいても、このような環境学のトレンドを確認しておきことは参考になるはずです。

■このような学術会議の報告に対してどのようなスタンスをとるのか…。そのあたりは、人によって様々でしょう。本気になって、他の専門家やステークホルダーと連携し、本気になって環境問題の解決に取り組もうとするならば、以下のような方向性は当然かと思います。単なる「批判的分析」を超えて、「問題解決志向」が明確です。私自身も、こういう「問題解決志向」を意識しながら、ここ四半世紀近く学際的な研究プロジェクトに取り組んできました。もちろん、「何らかのリスクを解決しようとすると、別のリスクを発生される可能性がある…」ということも含めてです。

環境学が学際性 (interdisciprinarity)やトランスディシプリナリ性(transdisciplinarity)、また、システム統合性といった学問分野の“際”、また科学と社会の“際”を越えて全体をシステムとして把握するための方法論を必要とすること、また環境問題を発生させる原因および因果の関係を特定して課題を解決するために、計測、モデル化、予測・評価、対策という研究の行為のサイクルを提示するものでなければならないことを示した。

■もちろん、環境学を構成する個別科学(自然科学から社会科学まで)の存在意義がなくなったと言っているわけではありません。個別科学のもつ「鋭さ」を保持しながら、他分野との間にどのような相補的・建設的な協働関係を構築できるのか。そしてその成果を、「単に(個別科学の業界にとって)優れた論文を書いて終わり、あとはよろしく…」式ではなく、具体的に多様なステークホルダーとの関係のなかで、どのようにその知見を社会のなかに活かしていくのか(ぶっちゃけて言えば、汗をかけるのか)。そのようなことが、問われていると思うのです。今後、重要になってくるのは、環境学における研究の評価のあり方や、研究費の社会的配分かなと思います。様々な工夫が必要になってくるように思います。もちろん、上記の引用のような研究をどのようにきちんと評価していくのか、実際にはなかなか難しいことなのですが…。

■とはいえ、四半世紀近く学際的な研究プロジェクトに取り組んできて思うことは、非常に緩慢ではありますが、少しずつこういう研究をしていくための「勘所」のようなものが社会的に蓄積しているということです。そのような「学術の協働作業」に、たとえば私のいる社会学(もっと個別にいえば環境社会学)は、どこまで参加・参画できているのでしょうか。個人的には、他の社会科学と比較して遅れをとっているように思います。これは、非常にもったいないことだと思います。もっとも、そういう社会のトレンドとは距離を置き、独自の道を歩むことも「あり」かもしれません。しかし、それで良いのかな…と個人的には、少し危惧を感じています。

【追記】■以下は、昨年のエントリー「公開シンポジウム『自然共生社会を拓くプロジェクトデザイン』」です。関連するエントリーかと思い、ここに備忘録的な意味でリンクをはりつけておきます。
公開シンポジウム「自然共生社会を拓くプロジェクトデザイン」

「報告 社会福祉系大学院発展の ため提案 -高度専門職業人養成課程と研究者の並立をめざして」

■たまたまfacebookを読んでいて、知り合いの方の投稿で知りました。「社会福祉系大学院発展の ため提案 -高度専門職業人養成課程と研究者の並立をめざして」という報告です。「日本学術会議 社会学委員会 社会福祉系大学院のあり方に関する分科会」が2014年9月30日に発表しています。私の専門は、このブログのタイトルからもわかるように社会学です。とはいえ、私の勤務する社会学研究科は、社会学専攻と社会福祉学専攻にわかれており、4年間にわたって社会学研究科長の仕事をしてきたので、この報告のことがとても気になりました。以下は、この報告の結論である「まとめ」の部分の引用です。ここに書かれている課題を実現していこうと思うと、大学・学部・研究科間の連携にもとづく中長期的な経営戦略と、教員や事務職員の献身的な努力が必要となるでしょう。それに耐えられたところが生き残る…ということになるのかもしれません。

■以下に書かれていることの「当面の改革課題」については、龍谷大学社会学研究科では「制度検討委員会」や「カリキュラム検討ワーキンググループ」を設置し、社会学研究科全体の枠組みのかなですでに取り組んでいるところです。「当面の改革課題」の後半、社会人の学習ニーズに関しては、さらにいろいろ検討していく必要があります。「中長期的課題」に関しては、龍谷大学社会学研究科では「東アジアプロジェクト」を展開してきました。「人材養成」に関しては少しずつ成果が生まれてきいます。しかし、ここに書かれた高度な課題については、これから一層努力をしていかねばなりません。

5 まとめ
社会福祉系大学院の現状と改革課題を踏まえ、(1)当面の改革課題に対する提案、(2)中 長期の改革課題に対する提案に分けて記述する。
(1) 当面の改革課題
第1に、社会福祉系大学院は、これまで研究者養成教育と高度専門職業人養成教育の 2つの役割を担ってきたわけであるが、修士課程・博士前期では、この2つが渾然とし ているのが実情である。したがって、各大学院の教学編成方針に基づいて、修士課程・ 博士前期課程においては、社会福祉学の基礎教育(社会福祉教育の体系を価値、支援技 術、政策でもって位置づけ、教育方法と研究方法、および評価システム等のコアカリキ ュラム)を基盤に、高度専門職業人養成を中核としつつ、研究者養成との統合をめざし たカリキュラム構成に再編する必要がある。さらに、グローバルに活躍できる社会福祉の人材養成をめざした高度専門職業人養成および研究者養成に向けて博士後期課程との連続性を視野に入れた一貫した学位プログラムの構築が不可欠である。

第2に、これからの社会福祉系大学院の院生の多数を占めることが予測できる社会人大学院生に対応するには、多様な学習形態を設定するとともに、社会人の学習ニーズに 応えるような学習の時間帯や場所の自由度を増し、これまで仕事や遠距離などの支障か ら躊躇していた人たちの学習意欲を喚起し、大学院への進学ニーズを高める努力と工夫 が大切である。放送・e ラーニングなどの講義・演習ツールの開発も欠かせない。また、 大学院および付属研究所、そして企業や行政が組織的かつ継続的に実務現場と連携し、実証性を伴った幅広い社会福祉学を修学する教育プログラムを協働で開発し、社会福祉系大学院が社会人リカレント教育の地域拠点となることが求められている。

(2) 中長期の改革課題
第1に、欧米諸国に匹敵するアジアの社会福祉学の発展も急速に進んでおり、国際標準化を見越した博士課程教育プログラムを準備する必要がある。優秀な院生を確保し、体系的かつ世界に通用する高度な資質をもつリーダー養成を行うためには、欧米諸国の 先駆的な博士課程教育の優れた点を取り入れ、それらと連携する教育プログラムを開発 する必要がある。また、社会福祉学およびソーシャルワーク教育系の学部が韓国・中国 だけでなくアジアで増加しており、こうした大学での研究・教育者を養成していくうえで、日本の社会福祉系大学院の責任は大きい。博士課程学生を受け入れ、東アジアなどでの大学をはじめ、多様な国々で活躍する人材を養成することが必要である。そのため には、アジア諸国の社会福祉学の研究者との研究交流を深め、英語などでの講義を取り入れるなど学生を受け入れやすい環境整備も重要である。

第2に、研究者養成については、講座制および学科目制の弊害が叫ばれる中、それに 代わる研究者養成システムを構築するのが長らく困難であった。多様な学問分野の教員 が共同し、コースワークから研究指導や学位授与へ有機的につながりを持った大学院教育の体系化や競い合う研究組織の学際化は、研究者養成の新たな教育・訓練システムとなり得る可能性を有している。また、修士課程・博士前期と博士後期の連続した一貫教育を行うという方向性も検討に値しよう。これからの研究養成には、大学院の多様化・ 学際化は欠かせない要件となる。反面では、単独では、社会福祉学の研究者養成ないし は高度専門職業人養成に必要なカリキュラムを体系的に編成できないという大学院も存在する。そこで、複数の大学院および研究機関が協力して、カリキュラムの体系化や 研究の質の保証を行う「連合大学院」「連携大学院」などの構想(日本学術会議社会学 委員会社会福祉学分科会提言、2008年)を視野に入れた取り組みを積極的に推進してい く必要がある。

■この「報告」を、ある方にお伝えしたところ、私の気持をきちんと受け止めていただけました。安心しました。

アイリス・グレースの作品


[http://irisgracepainting.com
https://www.facebook.com/pages/Iris-Grace-Painting/609967369017975?fref=photo

イベント「町家×日本酒×学生」

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■昨日は、「町家×日本酒×学生」というタイトルの素敵なイベントが、彦根市の「彦根古民家 ごはん家くまくま」で開催されました。主催は、「小江戸ひこね町屋活用コンソーシアム事務局」さんです。イベントの内容は、以下の通りです。
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大津・彦根・長浜で、町家の活用、日本酒づくりに取り組んでいる滋賀県各地の大学の学生と教員がそれぞれの取り組みをご紹介。終わった後は、ざっくばらんに交流会を実施します。もちろんおいしいお酒もありますよ。

町家やお酒、学生の活動などに興味のある方は、ふるってご参加、よろしくお願いします。
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■参加したのは、龍谷大学、長浜バイオ大学、滋賀県立大学の関係者の皆さんです。龍大の活動については、私がお話しをさせていただきました。大津市内の町家キャンパス「龍龍」を拠点とした中心市街地での「大津エンバワねっと」に取り組くみについて。そして、「北船路米づくり研究会」が、農村・北船路と蔵本・平井商店とをつなぎ、吟醸純米酒「北船路」をプロデュースしたこと。以上の2点についてお話しをさせていただきました。「北船路米づくり研究会」からは、ゼミ生のIくんが参加してくれました。また、平井商店の平井弘子さんや、先日の稲刈りのときに参加してくださった堀昭一さんも参加してくだいました。長浜バイオ大学からは、松島三兒先生とバイオ大学の学生の皆さんが、長浜市内の町家キャンバスを拠点に活動されている様々活動について紹介されました。この冬には、長浜市の農家と長浜バイオ大学や地元のまちづくり団体の連携により、新しい地酒がプロデュースされる予定です。滋賀県立大学からは、「滋賀県立大学日本酒プロジェクト」の皆さんや、卒業生の皆さんが活躍されている「小江戸ひこね町屋活用コンソーシアム事務局」の活動が紹介されました。滋賀県立大学では喜多酒蔵さんと連携して、「湖風」という日本酒をプロデュースされています。この「湖風」、滋賀県内の大学発の日本酒として大先輩です。

20141005kyotoshinbun.png ■当日の様子は、京都新聞の記事になりました。「酒造で地域活性化奮闘 龍大・長浜バイオ大・滋賀県立大グループ」。各大学の取り組みの紹介が終わったあとは、いよいよ交流会です。平井商店からは、お店の方でも最後になってしまった純米吟醸無ろ過生原酒「北船路」と、純米吟醸「北船路」が卓上にならびました。喜多酒蔵さんからは「湖風」も用意されていました。それから、これから長浜バイオ大学関係者や農家と協力して日本酒を生産される冨田酒造さんからは、「七本槍」が登場しました。どの日本酒も、それぞれの味があり美味かったですね〜。このイベントを契機に、これから大学間の連携がより強化されていくとよいなと思います。

【追記】■今回は、滋賀県立大学の出身者の方達が、卒業後、地域社会のなかで活躍されていることを実感しました。地域の企業に就職したあとも、「何か地域社会で面白いことをしたい!!」というワクワクした気持ちのもとで、広い意味での地域活性化の活動に取り組んでおられるからです。その滋賀県立大学と比較したとき、我が龍谷大学社会学部はどうなんだろう…と、いろいろ思ってしまいました。おそらくは、参加したゼミ生のIくんは、たくさんの刺激を受けたのではないかと思います。長浜バイオ大学の松島先生は、「学生たちもほかの大学の学生たちとさっそく友達になっていました。さっと垣根が下がってネットワークができるのも、こうした会の醍醐味ですね。このネットワークがいつの日か、化学反応を起こすかもしれませんよ」と書いておられました。私も、そのような素敵な予感がします。

寧波大学訪日団の来学

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■大学院社会学研究科で取り組んでいる「東アジアプロジェクト」の一環で、昨年に引き続き、中国・浙江省の寧波市にある寧波大学の訪日団の皆さんが瀬田キャンパスに来学されました。昨日は、龍谷大学の説明、学内キャンパスツアー、社会学研究科への留学に関する説明会、中国からの留学している院生(社会福祉学専攻)との交流会が行われました。瀬田キャンパス訪問のあとは、京都駅前の「居酒屋」に移動し、日本の文化体験(?!)も兼ねて「交流会」をまちました。今年の12月には、こんどは社会学研究科の教員が寧波大学を訪問し、寧波大学で集中講義を行う予定になっています。国際化の「実質化」を推進していくために、今後も、寧波大学に加えて、中国や韓国の他の大学との研究・教育交流を進めていきます。

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