地球研・日比国際ワークショッブ(9)
▪︎総合地球環境学研究所・奥田プロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」が主催した日比国際ワークショップ。先週の木曜日から始まりましたが、今日が最終日になりました。私は、コアメンバーとしてすべての日程に参加する予定でしたが、副学長の退職記念パーティや平和堂財団「夏原グラント」の審査会等があり、すべての参加はできませんでした。とても残念ですが、年度末ゆえ、仕方ありません。
▪︎さて、最終日のワークショップの会場は総合地球環境学研究所になりました。「Data camp for Nutrient Spacial Metrix」。山梨大学の岩田智也さんが講師となり、フィリピンの共同研究メンバーを対象にした講習会を開催されました。岩田さんは、流域の栄養循環を評価する手法を開発されています。陸上・河川・湖沼生態系および人間社会における栄養循環を「見える化」するための自然科学の解析手法を確立されているのです。岩田さんは、栄養循環評価の理論や手法について丁寧に時間をかけて解説されあと、分析のためのソフト(エクセルに組み込まれています)を講習会の参加者に配布し、データ解析の実際を指導されました。岩田さんによれば、学生に3ヶ月かけて教える内容を、この日は、半日の急ぎ足の講習会で詰め込むことになってしまっようです。しかし、さすがにプロの研究者の皆さんですから、この分析手法のポイントはきちんと把握されたようです。
▪︎午後からは、最後の〆のミーティングが開催されましたが、私自身は、4月からの仕事の関係で大学の会議に出席しなくてはなりませんでした。私のかわりに、秋田県立大学の谷口さんが、人間社会班のワークショップでの成果をまとめて報告してくださいました。参加者の1人からは、素晴らしい報告であったとのメールによる報告が、会議中の私のスマホに届きました。谷口さん。ありがとうございました。
【追記】▪︎ワークショップ終了後も、プロジェクトの人間社会班で、メールを使ってディスカッションを続けています。プロジェクトでは、近いうちに、クラウド型コラボレーションツールの利用を始めます。国内の比較対象地は、宍道湖、手賀沼、八郎湖になりますが、それぞれでワークショップといくスカーションを実施することになりそうです。
地球研・日比国際ワークショッブ(8)
▪︎総合地球環境学研究所・奥田昇さんを代表とするプロジェクトの「日比国際ワークショップ」の2日目、さらにさらに続きます。
▪︎野洲市須原の「せせらぎの郷 須原」を訪問したあとは、甲賀市の小佐治に移動しました。この小佐治は、私たちの研究ブロジェクトにとってとても重要な調査地になります。来月から、いよいよ本格的にこの小佐治集落との連携が始まります。ここはもち米の生産で有名です。そのことを活かして農村レストランの経営にも成功されています。野洲市の須原での「魚のゆりかご水田」と同様に、生物多様性に配慮した環境保全型農業と、コミュニティの活性化やこの地域のhuman well-beingとがどのような形で結びつくのか、それをどのように評価してフィードバックし、この地域を支援できるのか…その辺りのことがプロジェクトとしては重要になってきます。これまでのことは、小佐治については、以下のエントリーをご覧いただければと思います。
小佐治での生き物調査
甲賀市の小佐治を訪問
「豊かな生き物を育む水田プロジェクト」
甲賀市の農村で調査
甲賀の農村で
▪︎小佐治では、まず「もちふる里館」を訪問しました。ここは、もち米や米湖をつかった料理が楽しめる農村レストランや直売所、そして集会室や会議室等がセットになった建物です。ここで、地域の概況を伺いながら、米粉でつくったうどんをいただきました。写真はありませんが(写真を撮る前に食べてしまった…)、小麦粉のうどんとはまた違った食感の麺でした。美味しくいただきました。そのあとは、加工工場である「甲賀もち工房」を見学させていただき、そして小佐治の環境保全部会の皆様が取り組んでおられる「豊かな生きものを育む水田づくり」の現場を訪問しました。
▪︎ここの水田の特徴については、過去のエントリーに書きましたが、再度、説明します。小佐治は、古琵琶湖層群の地層が隆起した丘陵地帯にあり、水田も大変細かな重粘土からできています。そのため、大変、水はけが悪いのです。きちんと水がぬけていないと、稲刈りのときに使うコンバインのキャタピラが埋まって動かなくなります。そこで、水はけをよくするために、水田の周囲に、といっても水田の内側なのですが、水田内水路をつくっています。営農のための工夫なのですが、そこが水田の生き物の生息場所になっているのです。水田の水を引いたあとも、その水路には水が残ります。集落では、そこに塩ビのパイプ等を設置して、生き物たちのシェルターにされておられます。このような取り組みの成果が少しずつ生まれています。写真の説明も少し。上段右は、「豊かな生きものを育む水田づくり」の活動をしている圃場の前で、説明を受けているところです。下段左。水田内水路を見学しているところです。越冬したメダカ、ドジョウ、水性昆虫等が確認できました。小佐治では、「メダカが成長する水田で生産した米=生物に配慮した営農で生産した米=安心・安全の米」ということを強調して、「メダカ米」を販売されています。ただし、「豊かな生きものを育む水田づくり」の活動は、経済以外にも、もっとローカルな社会・文化の文脈に依存していて外部からは「見えにくい」効果があるのです。それについては、また別のエントリーで説明しようと思います。
▪︎小佐治での見学を終えたあとは、大原貯水池に移動しました。そこで、大原財産区の関係者に、いろいろ説明をしていただきました。ありがとうございました。大原財産区については、「甲賀市の大原財産区を訪ねる」をご覧いただければと思います。
▪︎2日間にわたって野洲川流域の各地を訪問しました。どの地域の皆さんも、大変暖かく私たちを歓迎してくださいました。非常にお世話になりました。ありがとうございました。翌日3日めは、実際に野洲川の支流で、水質観測のデモンストレーションが行われ、午後からは琵琶湖に浮かぶ沖島を訪問したようです。ようです…と書いたのも、私自身は、3日目は参加できなかったからです。平和堂財団の「夏原グラント」の審査会があったからです。「夏原グラント」は、滋賀・京都で取り組まれている環境保全活動を支援する事業です。私は、2014年度からこの「夏原グラント」の審査員をしています。これについては、別途エントリーしようと思います。
地球研・日比国際ワークショッブ(7)
▪︎総合地球環境学研究所・奥田昇さんを代表とするプロジェクトの「日比国際ワークショップ」の2日目、さらに続きます。
▪︎野洲市の幸津川の大水口神社のあとは、同じく野洲市の須原に移動しました。ここでは、「せせらぎの郷 須原」という農業団体が組織され、「魚のゆりかご水田」の取り組みが行われています。「魚のゆりかご水田」に関しては、以前のエントリー「野洲市のゆりかご水田」をご覧ください。今回、須原の「せせらぎの郷 須原」を訪問したのには理由があります。私たちのプロジェクトが、この須原での取り組みに強い関心をもっていること同時に、フィリピンの共同研究者の皆さんに、日本の環境保全型の農業とコミュニテイビジネスとの関係について知っていただきたかったからです。私たちがフィリピンで比較研究を進める予定の農村では、アグロエコツーリズムと農産物のブランド化を進めようとしておられます。この須原での取り組みが大きなヒントになればとの思いから訪問することにしたのでした。
▪︎現場では、代表の堀彰男さんが、フリップボードを使って「魚のゆりかご水田」についてご説明くださいました。また、ワークショップに参加された方達は、「せせらぎの郷 須原」で生産した「魚のゆりかご水田米」や、食米から生産した吟醸純米酒「月夜のゆりかご」を購入させていただきました。「月夜のゆりかご」については、試飲もさせていただきました。ありがとうございました。こちらの「せせらぎの郷 須原」には、じつにたくさんの人びとがやってこられます。全国的にも高く評価されている取り組みです。公式サイトをお持ちですが、そこに「台湾・フィリピンより視察」という記事をアップしてくださいました。少しだけ、写真について説明します。中断の左。白く見えるものは、魚道を設置しやすいようにつくられたコンクリートの土台です。この土台をもとに、魚道を毎年設置するのです。トップの写真は、湖西の比良山系です。この日は大変天気が良く、くっきり比良山系が確認できました。
地球研・日比国際ワークショッブ(6)
▪︎総合地球環境学研究所・奥田昇さんを代表とするプロジェクトの「日比国際ワークショップ」の2日目です。1日目の宿泊、守山市にあるビジネスホテルでした。前日に続きこの日の天候もよく、ホテルの部屋からは、湖西の山々が実によくみえました。左の方(南側)には比叡山が、右の方(北側)にはまだ山頂に雪を残す比良山系がはっきりと見えました。本当は、ここで琵琶湖も見えればよいのですが、このホテルの部屋の高さからでは、琵琶湖の湖面は見えません。
▪︎2日目、私たちがまず向かったのは、野洲川河口近くにある、幸津川(さずかわ)の大水口神社です。境内には、明治29年の大洪水の際に、野洲川が決壊したことを伝える「川切れ100周年」の石碑が建てられています。横を見ると1本の筋が刻まれていました。明治29年の大洪水の際には、ここまで水位があがった…ということを示しているのです。現在、琵琶湖の水位は人工的にコントロールされています。また、かつては2匹の蛇がうねるような形をしていた野洲川の河口域(南流と北流)も、直線的な放水路につけかえられています。かつてのような水害はなくなりました。大水口神社の前、以前は田舟が通るクリーク(水路)でした。この地域は、水郷地帯だったのです。もちろん、現在では、クリークも埋め立てられ、周囲の水田も圃場整備が行われ、もはやかつての風景を想像することはなかなか難しい状況です。
小佐治での生き物調査
▪︎総合地球環境学研究所のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」のフィールドのひとつである、滋賀県甲賀市小佐治にいってきました。小佐治では、今年度、滋賀県庁農林水産部や滋賀県立琵琶湖博物館の支援で、集落の環境保全部会の皆様が「豊かな生きものを育む水田づくり」のブロジェクトに取り組むなかで、定期的に水田の生き物調査を実施されています。また、地域の子どもたちと水田の生き物の観察会も開催されています。昨年の夏から、私たち地球研のプロジェクトでも、この小佐治の活動に参加させていだたいています。
▪︎今回は、冬なので、どれほどの生き物がみつかるのかな…と心配していましたが、夏と比較すると生き物の影は薄いですが、トンボの幼虫であるヤゴ、ゲンゴロウ、マツモムシ等の水性昆虫、そしてメダカ、ドジョウ等の魚たちが多数確認できました。それから、私は初めて見ましたが、アカガエルの卵も多数確認することができました。アカガエルは、早春に卵を産みます。水田周辺の森林に生息しています。そして、春先に冬眠を一時中断して繁殖のため池や沼などに産卵するようです。この小佐治では、土質が細かく水田が割れてしまわないように、水を張ってある水田が多く、田んぼのなかにもアカガエルが産卵にやってきます。
▪︎左は水田の水たまりに産卵されたアカガエルの卵です。そばに寄ってみると、右のような感じです。なんといいますか、こんな飲み物がありましたよね。なんといったかな…。バジルシードという飲み物かな。それから、タピオカ…って感じもしますね。もちろん、これらの卵は、観察したあとは、必ず水田に返しています。午前中の観察会のあとは、地球研の私たちのプロジェクトのコラボレーションの内容に関して、地元の環境保全部会の皆さんと話し合いを行いました。なんとか、見通しがたってほっとしました。詳しくは、またいずれご説明することになろうかと思いますが、生き物のにぎわい作り(生物多様性の保全)の活動と営農やコミュニティビジネスとの関係、流域の水質や栄養循環との関係、コミュニティ形成等との関係について研究上の関心をもちつつ、小佐治の皆さんとの連携していく予定です。
総合地球環境学研究所にて
▪︎「総合地球環境学研究所」のことについては、このブログで何度もエントリーしてきましたが、参加している地球研のプロジエクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」が、4月より、いよいよフルリサーチの段階に進みます。地球研では、以下のような仕組みになっています。
地球研では、既存の学問分野で区分せず、「研究プロジェクト方式」によって総合的な研究を展開しています。
研究プロジェクトはIS(インキュベーション研究 Incubation Study)、FS(予備研究 Feasibility Study)、PR(プレリサーチ Pre-Research)、FR(フルリサーチ Full Research)という段階を経て、研究内容を練り上げていきます。
国内外の研究者などで構成される「研究プロジェクト評価委員会(PEC)」による評価を各対象年度に実施し、評価結果を研究内容の改善につなげています。研究の進捗状況や今後の計画について発表し、相互の批評とコメントを受け研究内容を深める「研究プロジェクト発表会」を年に1回開催しています。
CR(終了プロジェクト Completed Research)は、社会への成果発信や次世代の研究プロジェクト立ち上げなど、さらなる展開を図っています。
▪︎「段階を経て、研究内容を練り上げ」、「研究プロジェクト評価委員会(PEC)」による評価を毎年受けることが、義務付けられています。これがこの研究所の特徴なのですが、フルリサーチの段階に進むまでには、たくさんのプロジェクトが評価を獲得できずに脱落していきます。プロジェクトが取りやめになります。非常に厳しい評価制度になっています。私たちは、なんとかフルリサーチまで進むことができましたが、フルリサーチを進んだ後も、毎年厳しい評価を受け続けなければなりません。今日も、実は、その評価委員会が開催されています。リーダーの奥田昇さんが頑張っているはずです。数日前、プロジェクトのコアメンバーの皆さんが集まって「研究プロジェクト評価委員会(PEC)」の評価を受けるための「作戦会議」を開催しました。会議のあとは、その翌日に滋賀県の甲賀市の農村で行う調査の準備をしなければなりませんでした(まだ、本格的な調査の前段階あたりなのですが、農村のリーダーの皆さんと相談をしながら、少しずつ前進しています)。そうやっているうちにすっかり晩になってしまいました。写真は、その時のものです。
▪︎黒いシルエットの建物は、地球研です。丘の斜面に建設された不思議な形をした建物です。帰りは、畏友でもある京都大学生態学研究センターの谷内茂雄さんと一緒でした。谷内さんとは、長年にわたり流域管理に関する研究プロジェクトを一緒に取り組んできました。いずれも、文理融合を基盤にした学際的な流域管理に関する研究プロジェクトです。今回の地球研のプロジエクトのばあいは、さらに地域住民の皆さんや行政の皆さんとも協働・共創(Co-design/co-production)しながら進める「超学際研究(trans-disciplinary)」的研究になります。
▪︎この日、谷内さんとは、叡山電鉄で京都の街中まで出かけて、夕食を一緒にとりました。谷内さんは、「IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)」の報告書作成のメンバーです。昨年の10月にはオランダで第1回目の会議が開催され、来月はアルゼンチンで第2回目の会議が開催されるそうです。谷内さんからは、そのようなIPBESの動向や、環境科学分野の国際的な動向などをいろいろ教えてもらいながら、これからのプロジェクトの方向性に関して意見交換をしました。総合地球環境学研究所は、「Future Earth」のアジアの拠点になっています。「Future Earth」とは、持続可能な社会への転換のためには、科学者と社会の様々なステークホルダーとが超学際的連携・協働を行うための国際的な枠組みです。詳しくは、このパンフレットをお読みいただきたいと思いますが、私たちはこのような国際的な動向を視野にいれながらプロジェクトに取り組んでいます。
甲賀市の大原財産区を訪ねる
■総合地球環境学研究所のプロジェクトで、甲賀市にある大原財産区の事務所を訪問しました。いろいろお話しをお聞かせいただいたあとは、大原ダムを見学しました。農業用のダムです。下流には、私たちのプロジェクトで調査を進めている小佐治という集落があります。古琵琶湖の湖底だったところが隆起してできた丘陵地帯に、降雨によりいくつもの谷筋が生まれました。いつの時代かはわかりませんが、小佐治の皆さんは、この谷筋に水田を作り農業をしてきました。いわゆる八津田です。そして、後背地の丘陵の森林の中にため池を作り、そのため池の水から灌漑していました。大きなため池が5つ、小さなため池は無数にあったと言います。水不足の時のために、小さな無数のため池に水を貯めてリスクを分散させていたのです。しかし、大原ダムができてからは、そのような灌漑に伴う苦労は無くなりました。無数にあった小さなため池は放棄されることになりました。生物多様性の観点からは、そのような無数にある小さなため池には意味があったと思うのですが…。このことについては、またこのブログの中で書くことにしたいと思います。
Know your food, change the world. | Hiroyuki Takahashi | TEDxTohoku
▪︎「都会人に欠けている”共感力”とは? 食べ物付きの月刊誌『東北食べる通信』が伝えたいこと」。高橋博之さん。彼の強い思いが伝わってきます。
私たちが毎日食べているお米。これを作っている生産者が困っているんですから、決して他人事ではいられないはずです。だけれども、どうしてこうも他人事になってしまうのでしょうか。
それは、困っている農家の具体的な顔が思い浮かばないからだと思います。もしも顔が思い浮かぶ農家が知り合いにいたら、決して他人事ではいられないのではないでしょうか。その相手との関係性が「共感力」を育むのです。
消費者と生産者が大きな流通システムで分断されてしまったこの国で、私たち消費者が得られる食べ物の情報は、値段、見た目、食味、カロリーなど、全て消費領域の話です。もちろん食べ物を選ぶ上でこれらの情報も大事なわけですが、決定的に欠けている情報があります。それが食べ物の裏側にいる、血の通った人間の存在です。……
甲賀市の小佐治を訪問
▪︎先週の水曜日(2月11日)、総合地球環境学研究所の奥田昇さんと一緒に、滋賀県甲賀市の小佐治集落にある「甲賀もちふる里館」を訪れました。奥田さんがリーダー、私がコアメンバーの1人として取り組んでいるプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」について相談をするためです。小佐治集落からは、環境保全部会の皆さん、小佐治集落の区長さんがご出席くださいました。小佐治集落は、滋賀県庁や滋賀県立琵琶湖博物館の支援のもと、「世代をつなぐ農村まるごと保全向上対策」のための事業に取り組んでいます。そのような関係もあり、この日は、滋賀県庁農林水産部農村振興課の職員や琵琶湖博物館の学芸員の方たちもご参加くださいました。
▪︎小佐治では、水田の内部に水田内水路を設けて、年間を通じて生き物が生息できる場所を提供しています。生き物が生息できるということは、安心・安全な農産物を生産している水田でもあるということの証明にもなります。現在、そのような水田では、メダカが繁殖して藻のなかで越冬していることが確認されています。小佐治も含めた甲賀市の農村地域の水田は、「ズリンコ」と土地の人びとが呼ぶ古琵琶湖層群の粘土でできています。きめが細かいため、水田から水を抜くことが難しい土質なのです。この湿田に苦労されてきました。小佐治では、そのような性質をもつ水田の内側に水路をつくり、塩ビのパイプ等を設置し、生き物の生息場所をつくってきたのです。その効果は生き物だけでなく、作付け面積が減るものの水田内の水位調整が容易になり湿田が解消することにもなりました。右の写真は、そのズリンコです。ズリンコのなかにあるのは、淡水貝の化石です。ここがかつて琵琶湖の底であったことがご理解いただけるとおもいます。
▪︎このような小佐治の生き物を賑わいを育む取り組みは、村の活性化にもつながっています。メダカが繁殖した水田で生産した米は、「めだかのいる田んぼの米」(メダカ米)として販売されています。販売されているのは、集落のなかに設けられた農村レストラン&直売所の「甲賀もちふる里館」です。さきほど「ズリンコ」について説明しました。たしかに「ズリンコ」は農作業が大変です。しかし、この粘土のなかにはケイ酸カリやマグネシウムが豊富に含まれており、稲やもち米が強く育つのです。小佐治では、そのような地域の環境特性を活かして、村づくりの活動にも取り組んでおられるのです。
▪︎さて、私たちの総合地球環境学研究所のプロジェクトでは、この小佐治の生き物のにぎわいづくりを通した村づくりの活動を、プロジェクトの研究調査を進めることのなかで応援させていただければと思っています。少しずつ相談を進めてきました。具体的な計画の詰めはこれからということになりますが、いよいよこの春から「超学際(トランスディシプリナリティ) 」的取り組みが始まります。
「限界集落株式会社」
▪︎黒野伸一さんの『限界集落株式会社』が、NHKのドラマになるようです。主演は、反町隆史さん。カッコいいですね〜。このドラマのホームページで、制作統括をされた落合将さんが、次のように語っておられます。
NHKの現代ドラマ、久しぶりの農業ものです。農業を撮影するのは困難を極めます。作物の状態が、限られたスケジュールに合うのか、台風などの襲来によっては撮影用の畑が壊滅します。それでも、その困難な素材に正面から取り組んだのは、いま劇的に日本の農業をめぐる世界が変わってきているからです。ドラマをつくるにあたって、いろいろ取材をされていることがわかります。
日本の農村はいまや「限界集落」どころではなく「地方消滅」の危機を迎えています。そのなかで、地方唯一の産業「農業」を通じて、一矢を報いていく小さなチームを描くときに、バブルの時代に描かれたのんびりした空気の流れる「村おこし」を描くことはもはやできませんでした。シビアな時代に、どういまある力を使って、仲間たちと立ち向かっていくのか、難しい題材を描く際に、あとおししてくれたのは、実際に農業法人をたちあげて、新しい農業の形を模索する若者たちの姿でした。農業未経験者の彼らは、都会ではなく、農村に夢を求めて、アイターンしてきます。旧来の世襲制度が崩れ始め、地方の農村が変わり行く中で、私たちの目には彼らが「開拓者」のように見えました。そういったたくさんの取材先の方々たちの力を借りながら、この挑戦的な企画はなりたちました。出来上がったドラマもまた、素晴らしい出演者の皆さんの力を借りた、現代の「開拓者たち」のドラマに仕上がったと思います。
▪︎黒野さんの本自体は、研究室に置いてあるのですが(本のタイトルに惹かれて…)、まだ読めていません。原作とドラマは少し違っているようですが、まずは明日31日(土)から始まるドラマを視ることにしたいと思います。小説自体の評価は様々なようですが、大切なことは、ここからどういうメッセージを受け取るかでしょうかね。このような限界集落のようなテーマと関連する新書を紹介したことがあります。1月7日のエントリー「『農山村は消滅しない』(小田切徳美・岩波新書)」です。こちらの方、ぜひご覧いただければと思います。新書の著者である小田切徳美さんの講演の動画も貼り付けてあります。
【追記】▪︎さきほど、ゼミ生が研究室に相談にやってきました。ゼミでおこなっている「北船路米づくり研究会」の活動に関して、ある財団に活動助成を申請するのですが、その申請書類をチェックしてほしいとやってきたのです。ちょっと雑談もしました。お父様が、時々、このブログを読んでくださっているとのこと。ありがとうございます。お父さん、娘さんは頑張って大学で勉強してはりますよ!!