北海道のヒグマ、肉食から草食傾向へ!

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▪︎写真は、ヒグマです。「wikimedia commoms」の「ヒグマ」からお借りしました。なぜ、ヒグマなのか。少し説明がいりますね。

▪︎先日、京都大学・北海道大学・総合地球環境学研究所が「北海道のヒグマ、肉食から草食傾向へ。明治以降の開発が影響か -考古試料の安定同位体分析から-」というプレスリリースを行いました。共同研究による成果がプレスリリースされたのです。このことは、新聞記事にもなりました。お読みになった方もいらっしゃるかもしれませんね。以下が、この共同研究の概要です。

ヒグマは日和見的な雑食性の動物であり、食物資源の可給性に合わせて食性を変化させま す。私たちは、日本の北海道に生息するヒグマを対象に安定同位体分析を用いた食性解析を 行い、ヒグマの歴史的な食性の変化を調べました。その結果、かつての北海道のヒグマは、 現代に比べてシカやサケといった動物質を多く利用していたことがわかりました。また、こ の食性の大きな変化が、北海道での開発が本格化した明治時代以降に急速に生じたことを明 らかにしました。
この研究成果は、英国科学誌 Nature の姉妹誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」誌(電子版)に 2015 年 3 月 17 日付けにて掲載されました。

(以下は、『サイエンティフィック・リポーツ』誌に掲載された論文のリンクです)
Major decline in marine and terrestrial animal consumption by brown bears (Ursus arctos)

▪︎このプレスリリースのなかには、総合地球環境学研究所の陀安一郎さんの名前がありました。陀安さんは、安定同位体を用いた測定法により、生態学の研究を進めておられる方です。安定同位体とはなにか…ということになりますが、プレスリリースでは、以下のように説明されています。このブログでは表記できないのですが、実際には、C・N・Sの左にある数字の位置は、正確には左上になります。

同一の原子番号を持ち、質量数が異なる元素のなかで、安定に存在するもの。炭素では 12C と 13C、 窒素では 14N と 15N、イオウでは主に 32S と 34S を指す。これらの比(安定同位体比)は生き物によ ってわずかに変化するが、精密に測定することで生物どうしの関係を示す重要な指標とすることが できる。

▪︎簡単に説明します。北海道各地の博物館や郷土資料室や博物館に収蔵されているヒグマの骨から微量の試料を集め、そこに含まれている炭素・窒素・イオウの安定同位体比を測定すると、それぞれの時代のヒグマが何を食べていたかがわかるのです。食べているものによって、炭素・窒素・イオウ安定同位体比が異なってくるからです。比較分析の結果、明治以降、人間が北海道の大地を開拓し始めたころから、ヒグマの食性か変化してきていることがわかったのです。もともとは、サケなどの魚も食べていたのですが、だんだん草食に傾いていったわけです。以下のようにまとめてあります。

われわれは北海道のヒグマの食性が歴史的に大きく変化したことを示しましたが、それが具体的にどのような要因によるのかは、はっきりと分かっていません。一口に人為的な要因といっても様々な要素が考えられ、今後ヒグマの保全や食物網構造の修復を検討するためには、より具体的な原因を明らかにする必要があります。従って、ヒグマの食性変化を引き起こす具体的な要因の解明が第一の課題だといえます。さらに、北海道における食物資源の可給性の変化が、ヒグマ以外の動植物に及ぼした影響の調査も重要な課題です。特に、ヒグマとサケのつながりは、海から陸への物質輸送を駆動する重要な要因です。何がヒグマのサケ利用を制限したのか、またそれが生態系全体にどのような影響を及ぼしたのか、さらには、元の生態系に近づけたいのであればどのようにすれば修復できるのか、これらの課題について網羅的に研究していきたいと考えています。

▪︎近々、また総合地球環境学研究所に行くので、陀安さんに、詳しいことをお聞きしてみようと思います。陀安さんと私は、総合地球環境学研究所のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」のコアメンバーです。このプロジェクトでも、陀安さんたちの分析技術が重要な役割を果たしています。

▪︎あくまで私自身の個人的な意見ですが、現状の批判的分析を超えて(隠れた問題点や矛盾を指摘し、ぼんやりした社会の方向性を示すだけでなく)、環境問題の解決に資する実質性を伴った研究を本気になってしようと思えば、分野を超えた連携が必要になると思います。陀安さんのような自然科学の方たちはもちろんのこと、現場にお住まいの皆さんや、行政職員の皆さん…その他様々な利害関係者(ステークホルダー)の皆さんと連携していかなければ解決に結びついていきません。もちろん、批判的分析だけでも十分じゃないかという方は、そういう道に進まれればよろしいかと思います。しかし私は、そのような道には進みたくありません。すでに別の道に進んでいます。蛇足のようなことも最後に書いてしまいました。

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