野洲市のゆりかご水田

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■「魚のゆりかご水田プロジェクト」ってご存知ですか?ご存知ないばあいは、まずは以下の、滋賀県庁農林水産部・農村振興課の「魚のゆりかご水田プロジェクト~湖魚が産卵・成育できる水田環境を取り戻そう!~」というページをお読みいただければと思いますが、概要だけ、以下に引用しておきます。

こんな光景が今、復活しようとしています。
農家、地域、そして何より生きものにとって大切な「魚のゆりかご水田」。
人や生きものが安心して暮らせる田んぼの環境を取り戻すプロジェクトです。
戦後の農地整備は生産性に重点を絞った整備方針を推し進めたため、田んぼから魚や水生昆虫といった生物が閉め出されてしまいました。 そのため、メダカのように身近な生きものであった種ですら希少種となり、地域特産物であったニゴロブナなどが減少してしまいました。
そこで近年、環境配慮型の農地づくりが注目され、これまで注目されてこなかった環境・生きもの・景観といったものを取り戻そうという動きが広まっています。
「魚のゆりかご水田」とは、田んぼや排水路を魚が行き来できるようにし、かつての命溢れる田園環境を再生し、生きものと人が共生できる農業・農村の創造を目指しています。

■滋賀県には日本一大きな湖である琵琶湖があります。琵琶湖は約400万年前に現在の三重県伊賀上野市あたりに誕生し、その後大地の運動とともに、約40万年前に現在の位置に移動してきました。当時の様子を想像してください。まだ、人間は住んでいません。梅雨時に雨がふり琵琶湖の水位が上昇すると、陸地であったところも水没してしまっていたはずです。現在、琵琶湖では、瀬田川にある瀬田川洗堰(せたがわあらいぜき)や、琵琶湖に流入する河川の水量を人工的に調整されていますので、水没するということはありません。かつては、「陸の世界」と「水の世界」のあいだに、両者の「グラデーションのような世界」が存在していたのです。たとえば、琵琶湖の周囲にある水田です。かつては魚が水田の水路を遡上し、水田のなかに産卵していました(魚にとって、人間が住み始める前の草原の湿地と水田に違いはありませんから・・・)。特に、大雨が降ったあと、かつては魚が水田のなかを背びれをたてて泳いでいたという話しを、あちこちで聞くことができます。ところが、上記の「魚のゆりかご水田プロジェクト」の概要にあるように、水田を土木工事(圃場整備、土地改良等)によって整備してからは、魚が水田に遡上できなくなりました。というのも、水田の水がぬけやすいよう(転作しやすいように)に排水路を深くしたため、水田の水面と排水路の水面のおあいだに大きな落差が生まれてしまったらかです。

■「魚のゆりかご水田プロジェクト」では、水面と水田のあいだを「魚道」でつなぎ、魚が水田に遡上できるようにします。魚が復活することで、以下のような良い点があげられています。滋賀県の近江商人で有名な「三方によし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)をもじって「五方によし」といっています。(1)生き物によし、(2)地域によし、(3)子どもによし、(4)琵琶湖によし、(5)農家によし・・・です。以下は、その「五方によし」を解説した図です。「魚のゆりかご水田プロジェクト」のページの中から引用させていただきました
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■ということで、ここからが本題。21日(土)、総合地球環境学研究所のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」の関係で、プロジェクトリーダーの奥田昇さん(京都大学生態学研究センター)と一緒に、滋賀県野洲市須原と安治(あわじ)の2集落で実施された生き物観察会を見学させていただきました。須原は、全国的にも有名なので、ネットで検索していただければ様々な情報を知ることができます。地域外、県外からもたくさんの方たちが参加されています。また、マスコミの取材も行われていました。ということで、このエントリーではお隣の集落である安治の生き物観察会の様子をご紹介したいと思います。

■安治(あわじ)の生き物観察会は、須原とは違って、村人による村人のための観察会のように感じました。観察会のお手伝いをしているのは、「ぼてじゃこの会」の専門家の皆さんですが、あとはすべて村人ばかりです。この地域でもお子さんの数が減っているそうですが、それでも、保育園の園児さんや小学生の皆さん、そして保護者の皆さん、さらにはおじいちゃん・おばあちゃんたちが多数参加されていました。農家の方にうかがいましたが、上記の「五方によし」のうち、最後の「農家によし」を強く意識されていました。付加価値のついた米として農協に買ってもらえるという経済的理由が、「魚のゆりかご水田プロジェクト」に取り組む大きな動機だとのことです。しかし、それと同時に、「地域によし」や「子どもによし」という副次的な効果があることも認めておられました。「昔は結婚するにしても、近くの人が嫁に来ていたが、最近は遠方から嫁いでくる。自分がどういう地域に暮らしているのかも、よく知らない。そういう意味で、子供会のお母さんたちに参加してもらうことは意味がある」ということもおっしゃっていました。このあたり、プロジェクトを始める農村の側の論理は微妙に複雑です。「五方によし」だけで整理できないものがあります。そのあたりのことも、きちんとお話しをうかがわせていただかねばと思っています。

■この日の安治の生き物観察会で印象深かったのは、おばあちゃんと呼ばれる高齢の女性の方たちが多数参加されていたことです。おばあちゃんが、タモ網をもって一生懸命魚を採っておられました。孫のために・・・というよりも、ご自身の好奇心や関心にもとづいて熱心に採っておられるのです。生き物観察会のあとは、「ぼてじゃこの会」の皆さんの撤収作業をお手伝いさせていただきました。また、こちらの活動に参加させていただければと思っています。

中津川市「付知町まちづくり協議会だより」が届きました!

20140407tsuketi.jpg■2月23日(日)・24日(月)の両日、岐阜県の中津川市で、地域づくりのお手伝いをしてきたことについては、このエントリーで報告しました。訪問したのは中津川市の福岡地区と付知地区ですが、付知地区から「付知町まちづくり協議会だより」を送っていただきました。ありがとうございました。

■この「協議会だより」には、写真のように「脇田教授による『まちづくり勉強会』の開催」という記事を掲載していただきました。重ねて、ご丁寧にありがとうございます。記事のなかには、次のように書かれた箇所がありました。

参加者からは、「自分たちが楽しんだことを子供たちにも味合わせたい」、「盆と正月しか帰らない友だちが羨ましがる町にしたい」等の意見が出され、脇田教授からはも「付知には『やる気』と『材料』が整っている。多くの仲間を集め、活発な活動を行い、周辺地域のモデルとなってリードしてほしい」と締めくくられました。

■私の締めくくりはどうでもよくて、大切なのは皆さんの意見です。「自分たちが楽しんだことを子供たちにも味合わせたい」とは、豊かな自然環境を自分たちの遊び場にして育った地域の皆さん、それも30歳代の若い方たちが、その「楽しさ」や「豊かさ」を自分の子ども達に伝えたいといっておられるのです。この地域で暮らすことの「楽しさ」や「豊かさ」を子どもたちの心のなかにすりこんでいく、ここに暮らすことの「幸せの物差し」を心のなかに埋め込んでいくと意気込んでおられるのです。後者のほう、「盆と正月しか帰らない友だちが羨ましがる町にしたい」とは、この地域で暮らすことをまずはきちんと再評価し(都会にはできない豊かさ…)、地域の人びとがそのことを自覚し、ここでの暮らしを楽しみ、大切にしていることが、就職等の関係から外に出てしてしまった人たちに自然に伝わっていくようにしたいということでしょう。両方ともに、とても大切な「視点」です。今後の付知の地域づくり活動の展開に大いに期待しています。

【追記】■付知での勉強会の進め方なのですが、私がファシリテーター役になって、それぞれの団体の活動内容、これまでの経過、現在の課題や悩みなどをいろいろお話ししてもらいました。それぞれの団体が順番に話しながらも、お互いに質問をしたり、コメントをしてもらったりと、少しずつ「場」が和むように進行しました。それほど大きくない地域ですが、こうやって改めてそれぞれの団体の話しを聞いたり、お互いにコメントをしたりすることは、皆さんにとっても良い体験になったようです。この日は勉強会でしたが、普段から、地域の皆さんで、ざっくばらんに、気兼ねなく、おしゃべりをしたり、相談をしたりする「場所」が地域のなかにあるとよいですね。

レイカディア大学・草津校

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■滋賀県には、レイカディア大学というシニア対象の生涯学習の施設があります。このレイカディア大学の事務局の方から、「シニアの皆さんに、龍谷大学の社会学部で学生さんたちが取り組んでいる『大津エンパワねっと』のことについて、ぜひ話しをしてほしい」というご依頼があり、一昨日の3日は米原校で、昨日の5日は草津校で講演をしてきました。レイカディア大学は、60歳以上の方たちが2年間にわたって様々なことを学びます。卒業後は、地域の担い手になることが期待されています。レイカディア大学の事務局としては、シニアの学生の皆さんたちに、龍大社会学部の学生たちが地域住民の皆さんと一緒に取り組む「大津エンパワねっと」の実践を、なんらかの意味で参考にしてほしい…とお考えなのでしょう。

■レイカディア大学にいって驚いたことは、皆さんものすごくお元気だということです。昼休みや休憩時間、あちこちで皆さんおしゃべりや打ち合せをされています。そのエネルギーに驚きました。今年の2月には、神戸のシルバーカレッジにもいきましたが、神戸のシニアの皆さんもすごくお元気でした。お元気な人がここにいらっしゃるのか、それともここに来るからお元気なのか…その両方でしょうか。

■レイカディア大学は2年制です。再入学は認められません。卒業後は、地域社会の担い手として活躍していただくことが期待されています。実際、地域の自治会で活躍されたり、サロン活動を始めたりされる方がいらっしゃるとのことです。すばらしいですね〜。全国どこにいってもそうだと思いますが、中心になって地域を守っておられるのは前期高齢者の皆さんかと思います。はたして、前期高齢者という呼び方でよいのかどうか、そのあたりも気になります。超高齢社会の到来にあわせた社会制度設計が必要になるわけですが、そのような用語のことにつても考えないといけないのかもしれません。

■講演は、50分が2コマでした。大学の人間は90分1コマで慣れているので、なかなか時間配分は難しいのですが、1コマ目は、これからの時代に期待される地域のリーダーとはどういう人たちなのか、関係づくり・場づくり…の話し。2コマ目は、「大津エンパワねっと」の仕組みと学生たちの活動の内容やポイントについてご紹介しました。授業の最後には、学生の代表の方が中央に立たれてお礼の挨拶をされました。全員が起立されて…ですから、ちょっとびっくりしました。こちらこそ、「ありがとうございます」ですね。

■で、写真をご覧いただくと、皆さん笑っておられますね。なぜか。代表の方が挨拶をされようとしているとき、慌ててiPhone5をとりにいきお願いしてこのシーンを撮らせていただいたからです。失礼しました。代表の方は「若さをいただきました」とおっしゃったように思いますが、むしろ逆に、私のほうが元気なシニアの皆さんから「若さをいただいた」気持ちです。それだけでなく、こんなにイキイキとした方たちが、このレイカディア大学を卒業したあと、地域社会で仲間と楽しみながら様々な活動していただけることに、「希望もいただいた」気持ちになりました。

Ryukoku University Brand Book

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■龍谷大学では、龍谷ブランドを伝える「Ryukoku University Brand Book」デジタルブックを公開しました。以下は、サイトからの引用です。

龍谷大学は、2012年9月、新しいロゴマークとスローガンを導入しました。
そこには、本学の学生一人ひとりが、ともに学び、力を鍛え、未来に向けて成長していく姿を表現しています。
学生が、本学で学ぶことの楽しさを発見し、自主的・積極的に学んでほしい-
そんな龍谷大学の思いを、内外に向けて明確に打ち出すために「Ryukoku University Brand Book」では学生を育成していく、さまざまな取り組みを取り上げながら、新ブランドを表現しています。

■この「Ryukoku University Brand Book」のかなでは、社会学部の「大津エンパワねっと」が取り上げられています。トップの画像は、そのページのものです。以下から、ご覧いただけます。「PC版で開く」、「HTML5版で開く」、「スマートデバイス版で開く」の3つから選択していただけます。
Ryukoku University Brand Book

■また、「龍谷ブランド動画プロジェクト」の映像も、公開されました。このプロジェクトは、“学生の成長と未来への可能性があふれる大学”という龍谷ブランドの考え方を学内外に発信するため、ブランドの主役である学生を制作メンバーの中心として、昨年10月以降、制作をすすめてきたものです。完成した動画は、龍谷ブランド全体を表現した作品と、学生が制作した4作品、さらに、学生メンバーの制作過程と作品ダイジェストを含めたものの合計6本です。その他に、撮影にご協力いただいた方へのお礼を込めた「メイキング篇」が1本あります。「北船路米づくり研究会」は、この「メイキング篇」に音声ぬきで、チラリ…と登場します。

龍谷ブランド動画プロジェクト
関連エントリー「龍谷ブランド動画」(撮影風景)

守山市健康なまちづくりプロジェクト

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■龍谷大学社会学部には、現在のところ、4つの学科があります。社会学科、コミュニティマネジメント学科、地域福祉学科、臨床福祉学科です。龍大社会学部は「現場主義」を理念にかかげて、地域社会との連携に非常に力を入れています。私が担当している「大津エンパワねっと」も、そのような理念にもとづいて企画された教育プログラムです。「大津エンパワねっと」は4学科により共同運営されています。しかし、あまりこのブログでは紹介してきませんでしたが、個々の学科のなかでも地域連携に重点を置いた実習に積極的に取り組んでいます。

■今回ご紹介するのは、コミュニティマネジメント学科の「守山市健康なまちづくりプロジェクト」です。井上辰樹先生が担当されています。井上先生は、継続的に、守山市で「ストックウォーキング教室」を開催されきました。私はよく知らなかったのですが、調べてくると、このストックウォーキング、いろんな効果があるようですね。

・普段用いない上肢の筋を活性化させ、心肺機能に より大きな刺激を与える。
・肩こりや四十肩等も予防できる可能性がある。
・ストックを用いて歩くと歩幅が広くなり、下腿の筋力も増強できる。
・歩行姿勢が矯正される。正しい姿勢を維持する ことにも効果がある。

■この「守山市健康なまちづくりプロジェクト」では、「町おこしと共に高齢者の生活習慣病の克服」を目標にされています。地域スポーツには、地域の皆さんの関係を強化する可能性があります。この記事のなかには、次のような記述もあります。「この教室は歩くこと以上に、孫よりも若い子たちと話することが、とても楽しみで毎回参加しています、という声も聞かれました」。もっと他の学科の取り組みに注目していかねばなりませんね。

滋賀生物多様性地域戦略策定に係る専門家会議

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■昨日は、午後から、ピアザ近江の会議室で、「滋賀生物多様性地域戦略策定に係る専門家会議」が開催されました。第3回です。以前のエントリーにも書きましたが、国が定める「生物多様性国家戦略2012-2020」のもとで、滋賀県の戦略をどうしていくのか…について考える会議です。生物多様性の維持には、多様かつ適切な人びとの自然環境への働きかけが必要になります。そんなわけで、私のような環境社会学者も呼ばれているのです。

■さて、年度末ということもあり、全員の委員が揃うことはなかなか難しいようです。今回は、初めてお目にかかる方達が2人おられました。お1人は、千葉県立中央博物館副館長の中村俊彦さん。もう1人は、兵庫県立人と自然の博物館・研究員の橋本佳延さんです。お2人とも、生物多様性や生物多様性地域戦略に関する専門家なので、会議でのご発言からは学ぶことがたくさんあります。私自身は、生物多様性そのものの専門家ではありませんが、地域戦略を策定していくうえで「環境ガバナンス」をどう組み替えていくのか、生物多様性を地域の文脈ではどのように「翻訳」すればよいのかという観点から、議論をさせていただきました。会議終了後も、中村さんや橋本さんと一緒に「一杯呑み」しながら、耳学問をさせていただきました。

■中村さんも橋本さん、生態学の研究者ですが、特に橋本さんの取り組まれていること、とても政策科学的なことなので驚きました。私の業界⁈の人たちは、どちらかといえぱ「業界の枠」に閉じこもって、その中から発言している人が多いのですが、私は単なる批判を超えて、もっと前向きに取り組みたいと思っています。ちょうど、流域再生と生物多様性に関連する分野横断的・文理融合的なプロジェクトに参加しているので、いろいろ教えていただこうとも思っています。

■次回は、ぜひ大津でゆっくりしていっていただきたいものです。私にとっての応接室でもある「利やん」にお連れします。

【追記】■関連リンク。以下は、環境省のページですが、子どもから大人まで、いろんな方々が「生物多様性」を理解できるように工夫されています。自分たちの暮らしや地域の文脈のなかに位置づけて「自分たちのこと」ととして理解できるようになることが大切です。

生物多様性(環境省)
生物多様性国家戦略(環境省)

中津川市での「地域づくり型生涯学習」

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■2月23日(日)・24日(月)の両日、岐阜県の中津川市にいってきました。中津川市は、長野県に隣接する自治体です。有名な木曽の馬籠も、中津川市にあります(長野県にあるように思いますけどね)。もちろん、観光ではなく仕事です。中津川市での取り組まれている地域づくりのお手伝いです。

■関西に住んでいる私と、長野県に隣接する中津川市とのあいだに、どうして地域づくりの「ご縁」が生まれたのか。そのあたりから少しお話しさせてください。そもそも、岐阜県の地域社会とかかわるようになった事の発端は、愛知県庁が企画した「団塊世代提案型地域づくりモデル事業」のイベントでした(岐阜県ではなく、愛知県なんですね)。そのイベントで短い講演をしたのですが、講演が終わって荷物をまとめて関西に戻ろうとすると、会場の後ろのほうから、私の方にむかってこられる方たちがお2人おられました。岐阜県の生涯学習センターの職員の方たちでした。私の講演の内容が、岐阜県で実施しようとしている「地域づくり型生涯学習」の内容にぴったりだ…とおっしゃるのです。

■ということで、社会教育のことなど、何もわからない私ですが、「地域づくり型生涯学習」の前半部分「地域づくり」に重点を置きながら、モデル事業の助言や講演をするために、岐阜県内のあちこちにでかけることになりました。岐阜市、各務原市、可児市、白川町、羽島市、郡上市、安八町、関市、中津川市…。岐阜県内の各地の皆さんと交流することができました。とても、楽しかったのですが、その事業が終了したこともあり、しばらく岐阜県にお邪魔することはなくなっていました。

■ところが昨年のことです。突然、中津川市の職員の方から地域づくりを手伝ってほしいというご依頼をいただきました。長年、中津川市で社会教育に携わってこられた職員のIさんからのご依頼でした。以前、中津川市で講演したときにもお世話になった方です。部下の方たちと、大学にも2回お越しいただきました。そして、中津川市の現状についてお話しをうかがいました。そのとき、これはお手伝いさせていただかなくてはと思うところがあり、ご依頼をお引き受けすることにしました(基本的に、いろんなご依頼をできるかぎり断らないようにはしていますが)。詳しくは、以下の過去のエントリーをまずはご覧いただければと思います。

中津川市の「付知GINZA会」のこと

■初日の23日(日)は、午前中は中津川市の福岡地区に、午後からは付知地区にお邪魔しました。両地区とも、10年前、中津川市に合併されるまでは、それぞれ別の自治体でした。「平成の合併と地域づくり」。一般論ですが、合併する以前、それぞれの地域固有の課題に焦点をあわせて行われてきた地域づくりや、その地域づくりを支援する行政の取り組みが行われていても、合併後は、地域づくりに対する政策のあり方自体が変化し、新しい自治体全体に焦点をあわせたものに変わってしまうため、それまでの地域づくりの活動がうまくいかなくなる/継続性がなくなってしまう可能性があります(そのため、多くの自治体では、旧自治体の範囲で「まちづくり協議会」を設置するばあいが多いようですが…。ただし、協議会をつくっただけでは…なんですね)。しかも、旧自治体のなかには、平成の大合併ではなく、昭和の大合併以前の旧・旧の町村が、地域づくりの枠組みとして強く残っているばあいもあります。政策の話しだけではありません。熱心に地域づくりの活動に取り組まれている人たちにとっても、合併前と後では、参加する地域づくり活動も異なってくるため焦点をどう絞ったらよいのか、よくわかりなくなってくることがあります。

■地域社会には、小さなコミュニティや集落レベル、小学校区レベル、中学校区レベル、以前の自治体レベル、新しい自治体レベル、重層的に重なりあう複数のレベルが存在しています。それぞれのレベルには、独自の課題があり、その課題に対応した地域づくり活動があります。それを担う団体やグループもあります。また、それぞれのレベルでは、課題に対する焦点の当て方もかわってきます。また、複数のレベルにまたがっている課題もあります。また、1人で複数のレベルの活動に関わっていることも珍しいことはではありません。すると、どこかにエネルギーを集中させたらよいのかわからなくなったりします。なかなか難しいものです(逆に、ここには隠れた「メリット」もあるのですが…)。

■さて、初日ですが、固有の事情や条件を抱えた福岡と付知の両地域で地域づくりの活動されている方たちから、「交流会」という形式でお話しを伺わせていただきました。ファシリテーターをしながら、それぞれの地域づくり団体の皆さんには、どのような思いから、どのような活動を展開されてきたのか、そして現在どのような悩みを抱えておられるのか…そのあたりのことを中心に、自由に気楽にお話しいただきました。両地区で「交流会」の雰囲気は少し違いましたが、楽しい時間を過ごすことができました。そのような交流会のなかで、参加した皆さんは、このような気楽に話しできる「場」が必要であることも認識されたようでした。これはたとえばの話しですが、何曜日の何時からどこそこにいけば、誰かが集まっておしゃべりをしている。そんな「場」で、相談をしたり、お願いをしたり、情報交換をしたり…。そんな特に目的をもたない「場」が必要なのです(公民館は、そういう「場」をもうけるのにうってつけの施設なのです)。

■ファシリテーターをしていることを忘れるほど、いろんな大切なお話しをお聞かせいただけました。各団体の皆さんは、顔は知っていて挨拶をする関係にはあっても、お互いにどんな活動をしておられるのか、何を考えておられるのか、そのあたりのことまではよくご存知ありません。お互いのあいだに「見えない壁」があるからです。男女の間、年齢の間、地域の間、団体間の間(異なる目的をもっと組織されていますから…)。「見えない壁」はいろんなところにあります。この交流会では、そのような「見えない壁」をできるだけ薄く・低くしていこうと思いました。お互いの悩みを聞きつつ、それを解決していくためには、どうしたらよいのか。お互いの横の「つながり」が必要だ、もっとお互いに協力できるんじゃないのか…という展開になっていきました。

■それぞれ得意とする自分たちの能力を活かしつつ、お互いに横につながることのなかで、地域の課題を解決していく…そのような方向性がお互いに確認できたのではないかと思います。地域の課題は、単独で存在しているわけではありません。複数の課題が相互にかかわりながら、構造化された問題群として存在しているのです。それらの問題群の解決のためには、様々な能力をもった方たちが、横に「つながり」をもちながら連携していくことが必要です。そうすると、「1+1=3」の相乗効果が生まれてきます。付知地区の皆さんは、まちづくり協議会のもとで活動しているせいでしょうか、お互いについてはそれなりにご存知でした。しかしながら、それでもあらためて「交流会」でお話しをうかがうと、お互いに初めて聞く類いの話しがたくさんあったようです。横の「つながり」をつくる「場」の必要性を感じていただけたのではないかと思います。これからも、両地区に通いながら、皆さんの「つながり」作りを応援できればと考えています(トップの写真は、付知での交流会の様子をパノラマで撮ったものです)。

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■2日めの午前中は、中津川市の中心地である中津に移動しました。中津川駅のそばにある「にぎわいプラザ」の会議室で、市内の公民館の職員、市役所職員の皆さん、そして子育てサポート養成講座修了生の会である「すくすくわくわくまあるいこころ」のメンバーの皆さんたちが参加されました。ここでは「講義」形式になりましたが、びっくりすることがありました。この日、司会進行やファシリテーターをつとめてくださったAさんは、以前、中津川市で行った私の「地域づくり型生涯学習」に関する講演をお聞きになっていたのでした。Aさんは、長年、社会教育に関する仕事をなさってこられました。私の講演を聞くことで、ご自分自身の経験がもっていた意味をより深く解釈することができた、これから進めべき方向性もよくわかった…とおっしゃるのです(結果として、エンパワメントされた)。Aさんは、その後、多くの女性たちが地域づくりの場で活躍できるように場や仕組みづくりに尽力されてきました。なんだか、ありがたいですね〜。嬉しいです。

以前のエントリーでこういうことを書きました。地域づくりに一生懸命になって(楽しみながら)取り組んでおられる方たちは、「味醂」という、地域づくりの「例え話し」をしてもすぐにピンとくるのです。深く理解してくださるのです。

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「料理に使ってみて、もう一度驚いた。野菜の煮物や煮豆も、柔らかな味が醸され、不思議なばかりにおいしくなるのだ。しかも味醂の味は表には出ず、素材を支える黒衣に徹する潔さ。それまであまり味醂を使わなかった私が、この味醂と出合って以来、野菜やひじき、豆などの乾物類、魚、といろいろな煮物にどに重宝し、欠かせなくなってしまった。」
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■ビビビッときました~。「味醂の味は表には出ず、素材を支える黒衣に徹する潔さ」の部分です。この部分を読んで何を連想したかというと、食と料理とはまったく関係のない地域づくりのことだったんですね。

■何かを求めて講演を聞いておられる方たちは、表情も反応も違います。地域づくりのリーダー…というよりもお世話役は、「黒子に徹する潔さ」が必要なのだとすぐにご理解いただけます。そのたり、大学で「社会」や「地域」をあまり経験したことのない学生の皆さんの表情や反応とは少し違うのです。春なったら、再び中津川を訪れることになっています。再び、交流会等でお話しを伺い、横の「つながり」をつくるお手伝いをしながら、中津川の地域づくりの展開を地域の皆さんと一緒に実感できればなと思っています。

【追記】■愛知県庁が企画した「団塊世代提案型地域づくりモデル事業」について書きましたが、この事業の審査委員になったのは、立教大学のH先生のご推薦があったからでした。ということは、岐阜県との「ご縁」のきっかけは、H先生につくっていただいたということになります。今頃ですが、H先生、ありがとうございます!!

神戸シルバーカレッジ

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■今日は、私の生まれ故郷でもある神戸に出張しました。「神戸シルバーカレッジ」で講義をするためです。「神戸シルバーカレッジ」は、1993年に、「再び学んで他のために」をスクールモットーに、高齢者の豊富な経験・知識・技能をさらに高めその成果を社会に還元するための学習・ふれあいの場として開学しました。3年課程で、専門課程と共通課程があります。1学年420名、3学年で1,260名。生涯学習を行う成人大学とはいえ、かなりの規模のように思います。昨年、たまたま私が神戸出身ということもあり、卒業式を間近にひかえた3年生の講義を2コマ担当させていただきました。その延長線で、今年も同じように2コマ担当させていただいたのでした。

■いろいろ担当の職員の方とも相談をして、今年は、講義以外にもグループワークをやっていただくことにしました。1コマ目は、最近注目をあつめている「ワールドカフェ」をやってみました。全体で16のグループにわかれて、楽しい時間を過ごしました。ふだんは若い学生の指導をしているわけですが、今回は私よりも年上の方たちです。いつもとは勝手が違うのでどうなることか…と思っていましたが、良い意味で予想が裏切られ、とっても盛り上がりました。素晴らしい…本当にそう思いました。テーマは、「卒業後に地域でできること」でした。現在、地域づくりの担い手は、前期高齢者の皆さんです。「神戸シルバーカレッジ」を卒業する皆さんは、地域で何か役に立てることをやってみたいと思っておられます。

■「ワールドカフェ」は、参加者の「おもい」がつながっていきます。そうやって見えてきたこと。健康、地域自治会、ボラテンィア、身近な環境保全…。それらがつながっているということ。生涯、地域でなんらかの「お役にたてる」ようになりたい…。ワールドカフェを通して見えてた思いを、うまく形にすることができれば…との思います。2コマ目は、「生涯学習から地域づくりへ」というテーマで講義を行いました。卒業した後、ぜひ具体的な地域づくりの活動を初めていただきたいと思います。

■4月になると、滋賀県の成人大学である「レイカディア大学」でも講演をすることになっています。「超高齢社会」では、退職された方たちが地域づくりの担い手となって活躍していただくことが社会的に望まれているわけですが、そのための支援の仕組みが模索されているのではないかと思います。これまでの座学・教養型(カルチャーセンター的)の生涯教育ではなく、そこから地域づくり型の生涯学習へシフトしていく…という大きな流れが動き始めていると思うのですが、それをどう支援していくのかということです。この「神戸シルバーセンター」を卒業したあとも、地域に貢献する取り組みをされているグループがあるのだそうです。そのような方たちが、もっと増えてくるとよいかなと思いますし、先輩の活動が後輩の皆さんにとって一種のモデルになればな…とも思います。そういう仕組みがこの「神戸シルバーセンター」の組織のなか定着してくることを期待しています。

20140221kobe.jpg ■「神戸シルバーカレッジ」は、神戸市の北区にあります。ただし、北区といっても六甲山系の北側(いわゆる裏六甲)ではなく、明石海峡を望む山の上にある「しあわせの村」のむなかにあります。写真ですが、遠くにみえる山々は、淡路島です。その手前に、明石海峡大橋の橋桁が少し確認できます。いつもは、奈良の自宅から滋賀県に通勤していますが、ひさしぶりに瀬戸内海を眺めることができました。

少しだけ更新しています…

■Blog title を少しだけ追加修正しました。英文の大学名・学部名を入れました。
■来年度にそなえて、メニューパーにある「授業」に、2014年度の時間割を掲示しました。
■メニューバーにある「卒業論文」では、「【9期生】2014年春卒業予定のゼミ生」の論文のタイトルを掲示してあります。今後は、「【10期生】2015年春卒業予定」のゼミ生の研究テーマがきまりしだい掲示していく予定です。また「【11期生】2015年春卒業予定」のゼミ生の氏名も掲示しました。
「ABOUT-A」の「社会的活動」に、以下を追加しました。

滋賀県(琵琶湖環境部・自然保護課)「滋賀生物多様性地域戦略策定に係る懇話会委員」(2014年1月〜2015年3月)
滋賀県(琵琶湖環境部・琵琶湖政策課)「つながり再生モデル検討会委員」(2014年1月〜2015年3月)
中津川市(教育委員会)「中津川市地域づくり型生涯学習実践講座講師」(2014年1月〜3月)

LINKのページに「岩手県・盛岡関係」のリストをアップしました。追加したの、以下のサイトです。

岩手県・盛岡関係

イワテバイクライフ
イワテライフ日記
青刈りぼんずの〜岩手のお散歩ツーリング
もりおかのアルバム
盛岡市
盛岡タイムス
愛LOVEもりおか★徒然日記
Iwate Blues
ネイティブ・モリオカン
てくり
文化地層研究会
流れる雲を友に(斉藤純)
岩手県立大学
岩手県立大学総合政策学部
岩手県立大学総合政策学部・卒論要旨の検索
岩手県立大学総合政策学会
環境政策講座
宇佐美誠史のホームページ
Researcher’s Eye(高嶋裕一のブログ)
岩手県立大学総合政策学部 見市建研究室
特定非営利活動法人いわてGINGA-NET
カシオペア連邦地域づくりサポーターズ

「取り戻せ!つながり再生モデル構築事業」について

■滋賀県には、「マザーレイク21」という琵琶湖の総合保全計画があります。私は、この第2期計画(2011年~2020年)の策定に関わってきました。現在も、「マザーレイク21計画学術フォーラム委員」として、また県民参加のフォーラムである「びわコミ会議」等に参加しながら、「マザーレイク21」計画の進捗に強い関心をもっています。

■「マザーレイク21」第2期計画等では、「琵琶湖と川や内湖とのつながり」、「生態系保全の重要性」、「つながり再生や生態系保全にむけた行動の必要性」が強調されています。そのような認識のもと、新たに「つながり再生モデル構築事業」が実施されることになりました。この事業は、公募によるモデル地域を選定、選定地域におけるつながり再生にむけた取組の検討への支援、ガイドブックの作成の実施などを目的としています。個人的には、特に、身近なな水環境のもつ価値の発見、課題の共有を行うための「場」づくりを大切にしている点が注目しています。

■昨日は、このモデル地域の選定にあたり、いわゆる有識者から意見を聴取することを目的とした「つながり再生モデル検討会」が開催され、私も委員の1人として参加してきました。昨日は、第1回目でしたが、他の委員の皆さんと活発な議論をすることができました。しかも、フランクに、楽しく、議論できたのです。私自身、いろいろ勉強にもなりました。

■このモデル構築事業では、2014・15年度にかけて、それぞれのモデル地域では、身近な水環境に関する情報の収集・整理、身近な水環境の持つ価値の再発見と課題の共有、身近な水緩急にんけるつながり再生に向けた具体的な手法の検討、つながり策定にむけたプラン策定が行われます。そして、2016年度以降は、そのプランにもとづいて具体的なつなぐり再生にむけての取組が実施される予定になっています。私たち検討会の委員も、今後、それぞれのモデル地域の皆さんと議論をしながら、取組の実施に向けてお手伝いができればと思っています。地域の皆さんや行政の皆さんと一緒に汗をかき、つながり再生の喜びを共有できるようになればと思っています。会議室のなかで意見を述べるだけの有識者…という役割は、地域社会のなかではもはや終わりつつあると思います。この事業の進捗が楽しみです。

平成 25 年度 取り戻せ!つながり再生モデル構築事業 モデル地域公募要領

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