超・早起き
■こんな投稿をfacebookにしました。
朝早くからの出勤が続き、昨晩は早く帰宅したこともあって、なんと21時半に眠ってしまった。そして、自然に目が覚めてしまったのが3時半。まあ、6時間ほど眠っている計算にはなるが、これでよいのか…。
仕方がないのでメールをチェック。メールで研究仲間の教えてくれた論文を、ネットで探して読み、日記のような身辺雑記のようなブログを書き、熱いシャワー浴び、新聞を読み、朝飯を作って食べ…7時前に家を出る。
研究仲間は、私の「階層化された流域管理」、それから「Future Earth」や「IPBES(intergovernmental science-policy platform on biodiversity and ecosystem services)」にも関係する論文だよと興奮した感じのメールで教えてくれた。私も早朝からちょっと興奮する。
ここに、さらに、ランニングが追加されれるような暮らしになれば良いのだが。
■昨日は、学部の教授会と研究科長の選挙でした。早く仕事が終りました。ということで、いつもよりも早めの帰宅となりました。ウイークデーにはめったにないことなのですが、妻と一緒に夕食をとることができました。また、ここ最近、朝早くに出かけることが多いものですから、身体がだんだん「朝方」になってしまっています。ということで、超・早朝の起床となったわけです。
■facebookの投稿のなかにある論文とはCashという研究者の論文です。以前、総合地球環境学研究所の研究プロジェクト(「琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築」)で出版した『流域環境学』(京大学術出版会)のなかで(514頁)、研究仲間である谷内さん(京都大学生態学研究センター)が、Cashたち(2006)による” Scale and cross-scale dynamics : governance and information in a multilevel world. Ecology and Society. 11(8)(online)”を引用しています。彼らの考え方が、私がプジェクトのなかで提案した「階層化された流域管理」の考え方にかなり似ているからです。今日、谷内さんからメールでいただいた情報は、この論文よりももう少し前の Cashたち(2003)の論文 “Knowledge systems for sustainable development. PNAS.100(14) (online)” についてです。谷内さんは、丁寧に重要なポイントまで整理して私にメールを送ってくれました。この2003年の論文は、「階層化された流域管理」とかなり共通する考えたをもっているだけでなく、私たちがこれから本格的に取り組む総合地球環境学研究所のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」、さらにはIPBES (intergovernmental science-policy platform on biodiversity and ecosystem services=生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム、谷内さんはこのIPBESのなかにあるひとつのワーキンググループのメンバーです)、総合地球環境学研究所が関わっているFuture Earth(持続可能な地球環境についての国際協働研究イニシアティブ)とも大いに関係しているというのです。谷内さんのおかけで、朝から頭の中が興奮し、気持ちがたかぶってきました。
■以下に、『流域環境学』(514頁)の谷内さんの記述を引用します(「階層化された流域管理」の考え方そのものは、『流域環境学』の「『階層化された流域管理』とは何か」(47-68)をご覧ください)。
Resilience Alliance の機関誌(online journal)でもある Ecology and Society は、20006年に”Scale and Cross-scale Dynamics” という特集を組み、重層的な資源管理・環境ガバナンスを今後の大きな課題として取り上げた。この中で Cash らは、資源管理・環境ガバナンスを今後の大きな課題として取り上げた。この中で Cash らは、資源管理・環境ガバナンスにおいて生涯となる、スケールに関わる3つの課題(scale challenge)として、無知(ignorance)、不適合(mismatch)、多元性(plurality)を挙げる。無知とは、重要なスケールやスケール間の相互作用を認識できないこと、不適合とは、例えば、人間による生物資源管理の制度のスケールと資源の生物地理的な分布・移動のスケールが一致せず、ずれていること、多元性とは、関係主体の問題認識が異なること、あるいは、関係主体すべてに最適な唯一の管理スケールがあると仮定すること(による失敗)を意味する。本書の事例に即していえば、かつての環境保全における、びわ湖とその内湖や流入河川との間の連続性の認識の欠如が、無知に相当する。琵琶湖流域の河川管理の主体が、国と県、さらにその中で、異なる行政担当ごとに分割されていることや、流域の現象を総体として対象とする学問がないことが不適合に相当する。また流域の階層性による農業濁水問題に対する問題認識の違い、「状況の定義のズレ」が、多元性に相当する。
Cash らは、これらのスケールに関する諸問題を克服する制度的仕組みとして、異なる階層の制度間の調整(institutional interplay)、異なる階層間の協働マネジメント(co-managemanet)、階層間調整期間の設置(boundary or bridging organization) を検討し、多層にわたる資源管理・環境管理問題には、協働的な多層感マネジメントの構築が有効であるとする。
■さて、投稿のなかで、私はランニングのことにもふれています。以前から、小説家の村上春樹さんの長編小説の執筆とランニングとの関係が気になっています。早く起きて仕事をして、走って、9時には眠るというライフスタイル。村上さんは、『走ることについて語るときに僕の語ること』のなかで「『基礎体力』の強化は、より大柄な創造に向かうためには欠くことのできないものごとのひとつ」と書いています。そうなのです。研究を進めるためには、同時に、ランニングが必要なのだ…ということです(^^;;。そのランニングですが、春のフルマラソン後の故障を理由に、中断してからずいぶん時間が経過してしまいました。今年の春の「篠山ABCマラソン」の後、脛の痛み、肋骨のヒビ…いった故障からの回復を待っているあいだに季節は夏に突入し、仕事もさらに忙しくなり、とうとう「ランニングしたい/しなくちゃ」モードが身体のなかから消えてしまいました。これではいけません。2つ前のエントリー「来年度の仕事」にも書いたように、仕事のベクトルが研究に強く向かっていることを強く感じる今だからこそ、また走らねばなりません。頭と身体が分離してしまっていては、良い仕事はできません。そういう例(人)を見てきましたので、自分自身は、このあたりでもう一度ランニングのモードをきちんと復活させて頭と身体の関係をチューニングしておこうと思います。
「つながり再生モデル構築事業」第4回協議会
■昨日は、たいへん忙しい一日でした。朝から、兵庫県にある老母の生活介護にでかけました。まあ、たいしたことはしていませんが、母親が求めるものの買い物や、生協への食料品の宅配注文など、いつもの仕事をすませて瀬田キャンパスに向かいました。昼食をとる時間もなく、大阪から乗った新快速電車のなかでオニギリをたべ、4限の3年生ゼミへ。ゼミのあとは、来年に備えて大学院社会学研究科のいろんな仕事をすませ、晩は、草津市に出かけました。
■草津市の湖岸に近い農村にいきました。「つながり再生モデル構築事業」の第4回協議会が、草津市志那町にある「志那会館」で開催されたからです。平湖・柳平湖の暮らしと内湖の「つながり再生」に向けて、地元の志那町の皆さん、滋賀県庁琵琶湖環境部琵琶湖政策課の皆さんと話し合いを進めました。昨晩は、草津市役所からも職員の方が3名参加されました。
■この日は、「つながり再生」に向けて、地域の方達一人一人から素晴らしい意見が出され、少しずつ盛り上がってきました。先日、交流会ということで、この事業のもうひとつのモデル事業である「NPO法人家棟川流域観光船」を訪問し、皆さん良い刺激を受け止められたようです(3つめのモデル事業は、高島市の松ノ木内湖です)。個人的な意見ですが、将来は、内湖や内湖の魚たちと結びついたコミユニティビジネスが始まればと思います。今、頭のなかでは、いろんなアイデアが醸し出されています。ちょっと、ウフフ…といった感じなのです。今晩の協議会のことを早速facebookにアップしたとろこ、いつも「いいね!」をくださる草津市の市議会議員の方がコメントをくださいました。この事業に強い関心をもってくださったようです。「近いうちに、南草津で懇親会をしましょう!!」ということになりました。いろいろ「ご縁」が広がっていきます。
総合地球環境学研究所での研究会議(その2)
■総合地球環境学研究所の研究プロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」の全体会議、2日めです。午前中、朝一番に、友人でもある秋田県立大学の谷口吉光さんが、報告をされました(写真左)。秋田県立大学では、八郎湖の環境問題やガバナンスに関する研究を企画され、科研に申請されました。採択されれば、私たちの研究プロジェクトとマッチングファンド方式で取り組んでいかれることになります。
■谷口さんの報告のあとは、京都大学生態学研究センターの谷内茂雄さんが、IPBES(Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services /「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)のなかのWGの1人としてオランダの会議に出席したことを報告するはずだったのですが、谷内さんはIPBESの報告書の執筆に忙しく、かわりにプロジェクトリーダーの奥田さんが説明をしました。IPBESの一連の報告書は、多様な空間スケール、多様なステークホルダー、多様な価値に配慮した内容になる予定らしく、過去にこのブログでお知らせてしたFuture Earthに呼応したものになるはずです。私たちの研究プロジェクトの理念を支持するものです。こういった世界のトレンドを常にきちんとおさえる必要があります。
■私たちの研究プロジェクトでは、滋賀県の野洲川を中心に研究を進めますが、同時に、国内の湖沼、宍道湖、八郎湖(八郎潟)、印旛沼との比較研究も進めます(国外ではフィリピンのラグナ湖)。今日のワークショップでは、自然科学的な観点からの比較だけでなく、それぞれの湖沼の環境ガバナンスがどのように変遷してきたのか、そのあたりの比較研究も進めることになりました。まだ詳しくは書くことができませんが、それぞれの湖沼を専門に取り組んで研究者たちがディスカッションするなかで、大変興味深いことが浮かび上がってきました。研究プロジェクト内の社会科学系の研究者による「人間・社会班」(ちょっとヒドいネーミングですが…)では、来年度中に、この国内湖沼の環境ガバナンスの比較研究を論文にまとめることにしました。若い優秀な研究者が参加してくれているので、このあたりは非常にフットワークが良く、頼もしい限りです。その若い研究者Oさんは、最初から海外のジャーナル(査読付きの学術雑誌)に投稿しようといってくれました。さすがですね。今回も、自然科学と社会科学の研究者が集まって取り組む研究プロジェクトの、その面白さというか妙味を今回も味わうことができました(まあ、個人的な特殊体質かもしれませんが…)。
■とはいえ、私のいる社会科学系の班は、まだまだマンパワーが不足しています。その一方で、いろいろ「宿題」は増えるばかり…。疲れました。体制づくりもいろいろ考えなければなりません。さらに3人ほど、流域管理に強い関心のある熱心な若手・中堅研究者が必要だ…と思いつつも、なかなか難しいのが現状です。研究費が欲しいから参加したい…という人はいるでしょうが、そういう人は…困ります。自分の研究分野の殻のなかに閉じこもらず、そして自然科学の研究者と積極的・生産的なコミュニケーションすることを厭わず、研究プロジェクト全体のミッションに貢献できる熱意のある人でないと困るからです。いろいろ手を尽くして頑張ってみます。
【追記】■昨日は、帰宅して夕食をとると、9時には眠ってしまいました。月曜日、ちょっとお休みをいただきたいところですが、そういうわけにはいきません…ちょっとトホホな気持ち。学内のいろいろ仕事が溜まったいます…。
総合地球環境学研究所での研究会議(その1)
■今日と明日は、総合地球環境学研究所の研究プロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」の全体会議です。研究プロジェクトは複数のグルーブで役割分担をしており、それぞれのグループのリーダー(コアメンバー)が報告をしました。私は、社会科学系のグループのリーダーとして報告をしました。ディスカッションでは、いくつかの「宿題」をいただきましたが、グループ内の優秀な若手のメンバーの協力もあり、なんとか「宿題」として与えられた壁を超えることができそうです。
■今年度の秋からは、予備研究(FS)からプレリサーチ(PR)、来年度からはいよいよフルリサーチ(FR)の5年間が始まります!! プロジェクトの予算がドンとつき、いろんなメンバーを誘って本格的に研究に取り組むことができます。精神的なプレッシャーはかなりありますが、地域社会との連携、他分野との連携をより深め、良い成果を出せるように頑張ります。
■以上の総合地球環境学研究所の研究プロジェクトは、滋賀県の野洲川流域を中心取り組むことから、龍谷大学の政策学部が中心となって取り組む「LORC」による「限界都市化に抗する持続可能な地方都市の『かたち』と地域政策実装化に関する研究」とも部分的に連関するところがあります。私は、この「LORC」にも参加しているので、両者の関係者の「出会い」があればなとも思っています。「LORC」の研究テーマの最後に「地域政策実装化」とありますが、地球のプロジェクトも、単なる科学的な研究ではなく、野洲川流域での新たな流域管理の方法を科学的な研究をもとに構想し、それらをモデル的に取り組む地域社会との連携実践を通して、将来的には「実装化」していくことを目指してるからです。
【関連ページ】生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性
【関連エントリー】 限界都市化に抗する持続可能な地方都市の「かたち」と地域政策実装化に関する研究
【追記】■晩は、京都四条で懇親会をもちました。朝9時から夕方17時までずっと会議でした。みなさん、お疲れさまでした。このあとは、多くの皆さんが二次会へ。私は、二次会の途中で奈良の自宅に戻りましたが、総合地球環境学研究所の施設に宿泊する皆さんは、深夜まで楽しまれたようです。個人的な考えですが、こういう懇親会は研究プロジェクトの凝集性を高めていくためには必要なことだと思います。
研究会議の打合せ
■昨日は、朝1限の講義のあと、事務仕事や4年生の卒論指導、そして大学広報の取材対応(「北船路米づくり研究会」)。夕方からは、大津の中心市街地にある町家キャンパス「龍龍」に移動しました。月1回開催されている中央地区の皆さんと「大津エンパワねっとを進める会・中央」。進める会の最後に、地域の高齢者のサロン活動や、学区の運動会を手伝うために、卒業してからもやってくるエンパワ修了生のことが話題になりました。喜んでいただいています。
■そのあとは、引き続き「龍龍」に残り、京都大学生態学研究センターの谷内茂雄さんと今週末の土日に総合地球環境学研究所で開催される研究会議のためのミーティング。研究プロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」に関するミーティングです。
■土日の研究会議で話す内容に関して、アウトラインを相談しました。そのさい、オランダで開催された「IPBES」(Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services /「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)の会議に参加してきた谷内さんから、そこでの議論に関して、話し聞かせてもらいました(谷内さんは、IPBESの報告書の執筆者)。環境ガバナンスに関して、地球の裏側(南米)からやってきた研究者が、私たちの「階層化された流域管理」の考え方と似たような問題意識を持っていたと聞いて、ちょっと嬉しくなりました。このIBPESや以前にもこのブログでふれたFuture Earth等、世界のトレンドや動きをにらみつつ、プロジェクト進めていくことになります。そのあとは、「今日も一日ご苦労さん…」ということで、ちょっとだけいつもの店、大津駅前の居酒屋「利やん」です。いや、ほんまにちょっとだけ。急遽行くことになったものですから、ちょっとしたアテの他はひたすら呑み。食事は家に帰ってから。体に悪いです〜。
■谷内さんの職場の宣伝になりますが、「データベースの構築と活用から見えてきた! 新しい生物多様性のサイエンス」という市民向けの講演会が「みやこメッセ」で開催されます。写真、クリックして拡大してみてください。市民向け…というには、少々内容は小難しいですけど、サイエンスが好きな方にはね面白い内容だと思います。
■谷内さんとは、ずいぶん長い付き合いです。15年程になるでしょうか。「利やん」では、ちょっと思い出話しにもなりました。最初の出会いである日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業のプロジェクトや、その後の総合地球環境学研究所の以前のプロジェクト。そして、そのときにお世話になったプロジェクトの秘書であるYさんや Kさんのこと。仕事がとろくて怒られたこと…いろいろあったなと…トホホ。ということで、お2人には、facebookでメッセージも送りました。台湾の大学教員であるYさんとはfacebook上で、ちょっとした同窓会になりました。便利な世の中になりましたね。「谷内さんと一緒に、台湾で癒されたい〜」と伝えると、大歓迎とのことでした。嬉しいな〜。「実現したらいいな台湾の温泉と美味しい料理」。
家棟川での現地交流会
■滋賀県庁の「つながり再生モデル事業」(琵琶湖環境部・琵琶湖政策課)の関係で、草津市の平湖・柳平湖の再生をめざす草津市志那町の皆さんと一緒に、野洲市の「NPO法人家棟川流域観光船」の活動を視察させていただきました。たいへん充実した現地交流会=視察・勉強会になりました。平湖・柳平湖の皆さんも、家棟川の皆さんも、ともに「つながり再生モデル事業」に応募されて採択されたグループです。私は、このモデル事業の採択時の「検討会」で委員長をしていたことから、積極的に実際の現場に出て行くようにしています。今回は、環境保全の活動に積極的に取り組まれてきた「NPO法人家棟川流域観光船」から学ばせていただこうと、現地交流会に参加させていただきました。
■「NPO法人家棟川流域観光船」は、「野洲の市街化の進展に伴い、市街地や水田等からの濁水の流入、ゴミの投棄、河口部のヨシ帯消失や在来魚介類の減少など、家棟川流域にはびわ湖の水や自然環境に関する課題の多くを抱えている」という状況のなかで、「ゴミがなく自然環境に恵まれた家棟川にすることを目指して」2007年に設立されました(NPOの公式ページより)。「流域観光船」って、ちょとかわった名前ですね。しかし、ただの観光船とは違います。観光は、多くの人びとに家棟川の状況を知っていただくための、ある意味「手段」なのかなと思います。
■これは一般論ですが、身近な「環境」に対して地域の「人びと」の関心が低くなっていくと(「つながり」が弱くなる/切れる)、身近な「環境」が悪化・劣化するリスクが高まります。言い換えれば、「人びと」と「環境」とのあいだにある、「物理的距離」が近くても「社会的距離」(意識しなくなる、かかわるチャンスがなくなる)が生まれてしまうと、「環境」は悪化・劣化していくリスクが高まります。この「エコ遊覧船」による観光は、家棟側に対する人びとの関心を高め、「社会的距離」を縮めていくための「手段」なのではないか…と思うのです。家棟川にすてられる不法投棄、流れてくるゴミ、これをなんとかしたいと、多くの市民ボランティアが参加してゴミの回収を行ったようですが、ゴミの量が減ることはなかったといいます。そこで、発想を転換し、家棟川に残る素晴らしい自然を楽しんでもらいつつ、この川の実態を多くの皆さんに知っていただこうと、手漕ぎによる遊覧船を始めたのだそうです。言い換えれば、観光船という「手段」を通して、家棟川と人びととの「社会的距離」を縮めようとされたのです。
■「NPO法人家棟川流域観光船」は、地元の漁師、「魚のゆりかご水田」を実践している農家など、里山・森・川・田畑・琵琶湖で活動する団体のリーダーが中心となって構成されています。代表の北出さんからは、野洲市環境基本計画を市民参加でつくるさいに、出会った地元の市民委員の皆さんが、その出会いをきっかけに、このNPOをつくったのだ…というお話しもうかがうことができました。多様な方達が参加されているわけです。ですから、以下のような強みをもっていることを自覚されています。以下は、NPOのパンフレットからの引用です。
地域の人に支えられて共に実践している
・琵琶湖周辺の6自治会(元)長が、NPOの趣旨に賛同し、会員参加している。
・漁師をはじめとした地元の21人が船頭として活躍している。
琵琶湖ならではの独自性がある
・琵琶湖とその水郷景観、漁師料理、漁師の語りなど、地域独自の宝物を提供できる。
行政の環境施策と連携した事業として実践してきた実績がある
・環境学習船として、延べ2,000人近くが乗船し、河川の現状を体験していただいた。
・これらの取組みが県知事から表彰された。
■以上のように「NPO法人家棟川流域観光船」で興味深いのは、そのメンバーの多様性です。いろんな「得意な分野や能力」をもった人びとが横につながり、「エコ遊覧船」による観光を柱にしながら、様々なテーマでの活動が可能になっていることてす。活動内容は、じつに様々です。家棟川の上流にある里山の保全(「漁民の森」整備)にも取り組んでおられます。家棟川流域のなかにある「山」、「水田」、「川」、「琵琶湖」をトータルに視野に入れて活動されているのです。活動に幅が生まれるだけでなく、家棟川をより大きな視点から捉えるように変化されています。素晴らしいことだと思います。チャンスがあれば、こういう多様な活動を展開されるようになってきたプロセスに関して、特に、レリジエンスという観点からきちんとお話しを伺ってみたいと思います。
■最後の方の写真についても説明しておきましょう。料理の写真。これは湖魚を使った「漁師料理」です。「NPO法人家棟川流域観光船」で提供されている料理です。「エビ豆」(大豆とスジエビ)、「鮎」(山椒風味)、「ウロリ」。「ビワマスの煮付け」、「鮒寿司」。「ビワマスの刺身」。ただし研修ですのでお酒はなし。ということで、ご飯を2杯もいただきました。
【追記】■逆にいえば、特定の人が、「地域づくり」活動のなかで自らリーダーたろうとして(主導権を独占したいという欲望)、情報を独占して他のメンバーを操作しようとすると、活動の持続性は急激になくなってしまいます。自分の頭のなかの青写真に、他のメンバーを資源として動員するような形に陥ってしまうことの危険性があります。「地域づくり活動」は、企業などを運営するやり方とは違うところがありますから。
金才賢先生(韓国・建国大学)の来日
■金曜日、土曜日と、韓国の建国大学の金才賢先生と、先生が指導されている2人の大学院生が滋賀県内の団体に関して聞き取り調査をされました。私は、今回の聞き取り調査のアレンジをするとともに、同行させていただくことにしました。
■もっとも、聞取り調査の対象の1つは、ゼミでおこなっている「龍谷大学・北船路米づくり研究会」でした。農村(生産者)と都市(消費者)の「顔のみえる関係」づくりを課題として活動している研究会が、どのように社会的なネットワークを拡大していったのかという点に関して、関係者や研究会とつながっている方たちからお話しをうかがいました。もちろん、私も、いろいろお話しをさせていただきました。純米吟醸酒「北船路」でお世話になっている「平井商店」の平井弘子さん、「大津の町家を考える会」の野口登代子さん、鮒寿司の「阪本屋」の内田健一郎さん、これから滋賀の農産物を活かした石釜ピザの店を開店される「Ishigama」の堀昭一さん、 「北比良グループ」の山川君枝さん、北船路の「農事組合法人福谷の郷」の音島良治組合長、研究会の顧問でもある吹野藤代次さん。皆様いろいろお世話になりました。ありがとうございました。
■ひとつのゼミの小さな小さな活動ですが、農村(生産者)と都市(消費者)の「顔のみえる関係」づくりを忘れずに活動をしてきました。カリキュラム外での取り組みです。評価も単位もありません。あくまで学生の自主性だけで運営されています。大学からの財政的な支援もわずかです。ですから、なんらかの助成金が必要になります。その申請書類の作成、プレゼンテーション、中間発表、最終報告…。私が知る学生の地域連携活動としては、かなり高いレベルを求められているのではないかと思います。学生たちの苦労は多いと思いますが、やりとげたときには深い達成感もあるでしょう。しかし、研究会の活動がとまってしまうのではないか…と危惧するような状況が何度もありました。
■この研究会の活動に関して、金先生の質問で私がとても印象的だったことは、「農村の方は、学生たちにどのように『夢』を与えることができていますか?」という質問でした。学生たちは、なんらかのスキルが身に付くとか、コミュニケーション能力が高められるとか、そのような小さな個人的な利益との「交換」で研究会の活動をしているわけではありません。もし、そういう学生がいたとしても、そのような学生は長続きしません。研究会の活動の発展に貢献できません。そのような学生が多くなれば、研究会の活動も持続しなくなります。すぐに息切れをしてしまいます。研究会のひとつひとつの活動が、社会的にどのような意味をもっているのか、その点に関して常に学生自身が確認し続けることも必要なわけですが、同時にそれらの意味は「他者」から「贈与」され続ける必要もあると思うのです。そのことが金先生の質問の根っこにあったと思われます。「交換」の原理にもとづくネットワークは持続性が弱い。「モノ」や「サービス」が動く事業系の地域づくり活動であっても、表面的な「交換」とは別に、その底には「贈与」の原理が動いている必要があります。
■土曜日は、東近江市と多賀町を中心に、森林とともに豊かに暮らしていける未来をめざし、人の営みと森林が結びつくカタチをていねいに育てるプロジェクトに取り組む「 一般社団法人 kikito」の、山口美知子さん、大林恵子さん、平居晋さん、 伴政憲さん、田中一則さん、5名のみなさんからお話しを伺いました。「kikito」に関しても、どのように社会的なネットワークを拡大していったのかという点に関してお話しを伺わせていただきました。私自身もとても勉強になりました。ありがとうございました。今後とも、どうかよろしくお願いいたします。
■「kikito」に関しては、パソコンをひろげて真剣にメモをとっていました。ところが、そのファイルが消えてしまった…ショックです。「kikito」のことは、『地域再生滋賀の挑戦 : エコな暮らし・コミュニティ再生・人材育成』(近江環人地域再生学座 編 ; 森川稔 責任編集)のなかに、山口美知子さんが「湖東地域材循環システム協議会(kikito)の挑戦」を書かれていますが、特に印象に残っていることを少し書いておきたいと思います。「kikito」の活動は、異業種の人たちによる研究会から始まっています。特定の業種の人たちだけではなく、森林を所有している人、林業の仕事をする人、行政、建築家…。通常は、みなさん自分の立場から木材のことを考えているわけですが、研究会でコミュニケーションを継続するうちに、それまでの自分のものの見方・考え方が相対化されるようになったのだそうです。自分の利益や自分の都合ばかりを主張する、そのような自己のあり方を相対化されたのです。別の言い方をすれば、この研究会の活動を通じて、森林の諸課題を、「私も含めた私たちの課題」として、あるいはより高い公共性を伴ったこれまでとは少しズラした視点をから捉えられるようになった…といってもよいかと思います。それまでは、地域社会で働き、森林や森林資源について考えながらも、出会うことがなかった人たちがつながることで、原木の調達からストックまで、地域材を無駄なく、無理なく有効利用するための仕組みづくりを行うことができるようになったのです。そのような仕組みのなかで「地域“財”を活かした商品開発」、「森林整備に貢献する紙製品の開発」、「びわ湖の森CO2」対策、「森林を活かせる人材の育成」等に取り組んでおられます。このような取り組みのなかで、「kikito」は、「行政」にも「市場」にもできないことをやろうとしておられます。お話しを伺うなかで、いろんな意見を聞かせていただきました。ひとつは、今は補助金や助成金も使ってこのような仕組みを動かしているけれど、もっと経営的にも自立度を高めていくべきというものです。それに対して、行政にも市場にもできない隙間の課題を一般社団法人として取り組んでいるのだから、そこに社会的な費用が投入されていもよいのではという意見も聞かせていただきました…。う〜ん、メモが消えてしまったので、ずいぶんズレたことを書いてしまっているかもしれません。ああ、それにしても、メモのファイルが消えてしまったことはショックです。
■「kikito」での聞き取り調査を終えたあと、金先生たちと一緒に彦根城の見学をして、いつもの大津駅前の居酒屋「利やん」に移動して夕食をとりました。打ち上げです。土曜日ですが、たくさんの知り合いの方達がお店におられました。びっくりです。「利やん」は、私にとって人との「つながり」=ネットワークを生み出していくうえで、とても重要な場所であるです。金先生にも、そのことを理解していただけたのではないかと思います。ところで、金先生はお酒をお飲みになりません。そのかわり、大学院生の女性お2人が酒をつきあってくださいました。日本の若い女性だと、甘目のお酒…ということになるのですが、このお2人はそれは嫌いなのだそうです。ということで、芋焼酎を、ストレートやロックで楽しんでおられました。お強い。すごいですね〜。酒飲みのおじさんとしては、とても嬉しくなりました。
■大学院生のJumi Kimさんが、facebookで楽しい動画を作成してプレゼントしてくれました。
【追記1】■「kikito」の聞き取り調査を終えたあと、facebookで「kikito」のメンバーの方達とメッセージのやり取りをしました。そのなかで、金先生がかかわっておられる韓国のコミュニティビジネスセンターに関心があるという話しから、それなら有志で韓国に視察と聞き取り調査にいってみようという話しになりました。金先生とは、日韓でお互いに交流しながら学びあっていこうという約束をしたので、きっとおもしろい展開になるのではないかと思います。
【追記2】■金先生や院生の方達には、仁川にあるピザ店のことを教えてもらいました。まだ、よくわかっていませんが、面白いお店なのだそうです。ちょっと調べてみます。
松の木内湖の環境再生と地域づくり
■一昨日、30日(木)、滋賀県庁の「つながり再生モデル事業」(琵琶湖環境部・琵琶湖政策課)の関係で、琵琶湖政策課や滋賀県立琵琶湖環境科学研究センターの皆さんと一緒に、高島市にある松の木内湖にでかけました。内湖に隣接する集落の皆さんに、小さな船(タブネ)で案内していただきました。松の木内湖は、様々な意味で周囲に暮らす人びとにとって重要なコモンズでもありました。
■内湖の湖底の泥。底泥は、肥料分を含む貴重な資源でした。周辺の人びとは、この泥をすくいあげ、畑にすきこみました。夏野菜がよく実ったといいます。内湖は、様々な魚の生息場所でもありました。春には、内湖の周囲にあるヨシ原にたくさんのコイ科魚類が産卵にきました。鮒寿司の原料になるニゴロブナはもちろんですが、それ以外のフナやコイの仲間の魚たちも、タツベやモジなどの竹製の漁具で捕獲され食用にされました。昨日お会いした方達は、そのような湖魚を食べる食文化のなかで生まれ、これまで生きてこられました。そうそう、私が大好きなホンモロコもよくやってきたといいます。ヨシ原は、ボテジャコとよばれるタナゴ等の小さな魚の生息場所でもありました。その他にも、ナマズやギギ、ドジョウなどもいくらでもいたといいます。内湖の琵琶湖への出口のあたりには、小さなエリも設置されていました(フナなどを獲る荒目のエリ)。肥料や食料といった人びとの生業だけでなく、内湖は、子どもたちの夏の遊び場でもありしまた。人びとの生活とも密接につながっていました。ところが、高度経済成長期を経て生業や生活のスタイルが近代化のなかで変化していきます。化学肥料が普及すると、内湖の泥を使うことはなくなりました。食生活も変化し、若い世代の皆さんは、内湖の魚を食べることがなくなっていきました。人びとの暮らしや生業と内湖との「つながり」が切れてしまったのです。もちろん、今はこの内湖で遊ぶ子どもの姿もみることもできません。このような変化は、この松の木内湖だけではなく、現在でも残っている滋賀県内の他の内湖でも同様の状況かと思います。
■人びとの暮らしや生業と内湖の「つながり」が切れてしまうことで、内湖は少しずつ変化していきました。かつてのように内湖の低泥を肥料として取り出すことはなくなりました。当然、流入する河川からの土砂で内湖は浅くなり、そのような土砂は内湖に溜まっていくことになります。この地域の皆さんの話しを総合すると、そこに拍車をかけたのが河川改修や周囲の水田の圃場整備事業です。かつて松の木内湖には、周囲の複数の河川から、今とは違ってかなりの量の水が流れ込んでいたようです。また、内湖から琵琶湖へ内湖の水が流出するあたりは、今よりも幅が狭くなっており、そのこともあり、かなりの流速があったようです。内湖の湖底には、そのような水の流れにより「ホリスジ」と呼ばれる一段深くなった内湖のなかの水路のようなものもあったといいます。常に、この松の木内湖の水は動いていたてのですね。しかし、河川改修によりその動きがなくなりました。さらに、圃場整備事業により水田からの濁水が、内湖に河川から流れ込み、泥が堆積するようになってしまいました。圃場整備事業により濁水や内湖に堆積する泥の量は増えました。泥が堆積したところにはヨシ帯が形成され、樹木もはえるようになってしまいました。少しずつ内湖は小さくなっていったのです。実際に田舟にのって内湖を拝見したわけですが、そのさい、湖底からキノコのようなものがニョキニョキとはえているのがみえました。もちろんキノコではありません。水中の泥が沈殿していくさいに、水草の葉や茎に泥が積もってしまったのです。それが、キノコのように見えていただけでした。何も知らなければ、美しい風景のように見えますが、この地域の皆さんからすれば、これは荒れ果ててしまった内湖ということになります。
■かつての内湖をよくご存知の60歳代以上の皆さんは、なんとかこの状況を食い止めたい、そして改善したいとお考えです。この日は、地元の方に田舟に乗せていただき、内湖をその内側から見学させていただきました。内湖の状況をじっくり観察させいただきました。陸からながめているのとは異なり、地域の皆さんが悩んでおられる実態がよく理解できました。以前、公共事業により、この内湖を整備して公園化してしまおうということが計画がたてられましたが、結局、予算の関係もありうまくいきませんでした。しかし、地元の皆さんは、そこで挫けませんでした。現在、4月末か5月頭にかけて内湖の端にたくさんの「鯉のぼり」を泳がせるイベントを開催されています。少しでも、内湖のことを知ってもらい、内湖と関わってもらおうという狙いがこのイベントにはあります。私は、まだ参加したことがないのですが、地域外からもたくさんの方たちが参加されるようです。
■田舟での内湖の視察のあとは、地元の方達と、この松の木内湖の再生、特に地元の皆さんの暮らしと内湖の「つながり」をどのように再生していくのか…という点について協議を行いました。これで3回目になります。今回は、松の木内湖の「つながり」をもっと再生できるように、これまで地域の皆さんで実施されてきた「鯉のぼり」のイベントを、さらに盛り上げていこうということになりました。最初は少々堅い雰囲気でしたが、しだいにいろんな「夢」が出てきました。「夢」を語り合うことができました。結果として、「さあ、やるぞ!!」という感じで「力」が湧いてくる素敵な会議になりました。「こんなこといいな、できたらいいな…」と漫画「ドラえもん」の歌の歌詞のような展開になりました。写真とは異なり、みなさん笑顔になりました。いろんなプランが提案されました。そうした中で、まず決定したことは、若い世代の方達が泥臭いと嫌っておられる内湖の魚を美味しく料理して食べてもらおう…というものです。そのために、新しい湖魚料理をプロデュースできる料理人の方に、そのイベントに参加してもらおうということになりました。現在、料理をしてくださる方を募集中です。すでに、声をかけさせていただいた方もいます。個人的な主観といわれるかもしれませんが、湖魚は美味しいんです!! 美味しい湖魚を、現代風のレシピのなかで使っていただき、若い世代にも楽しんでもらおう…というのが狙いです。湖魚料理以外にも、内湖のもっている「びっくり」するような「すごい」魅力を、しっかり伝えていけるような企画も考えています。楽しいイベントにしていきます。地元はもちろんですが、地域外からもたくさんの参加をいただければと思います。また、このブログでも広報させていただきます。
「小流域」の土石流(岸由ニ)
■ネットの「日経ビジネス」に「秋も台風直是期、天気予報も行政もアテにならない時代が来た 広島県安佐南区の土石流災害は回帰できたか?」という記事が掲載されていました。インタビュー記事です。インタビューを受けているのが岸由ニさんだったので、丁寧に読んでみました。土石流災害を、流域の視点から説明されている点に新鮮さを感じました。岸さんには、まだ私が40歳頃に、参加していた「流域管理のプロジェクト」に対する評価でお世話になりました。そのとき、自分たちの研究を励ましていただいた記憶があります。ちなみに、このブログでも、「岸由ニさんの本」をエントリーしています。
■さて、この記事のなかで、岸さんは、次のように語っておられます。
地質以上に地形なのだと私は思っています。山間の土石流災害にしても、河川氾濫にしても、名古屋で起きた地下鉄駅の水没にしても、水害は地形によって起きるのです。じゃあ、その地形とはなにか。「流域」です。(中略)今の日本で起きている水害は、「なに」で起きているか。天から降ってきた大豪雨によって起きます。でも、「どこ」で起きているか。それは、それぞれの場所が属している「流域」の地形で起きているのです。
■今回の広島の土石流災害はどこでおきているかというと、「すべて山の斜面に広がっている「流域」の出口に当たる部分」なのです。
水は必ず高いところから低いところに流れます。そして流れ落ちる水は地面のより柔らかいところを削りながら流れます。雨が降って地面に落ちてきた雨水はこの2つの法則に沿って、地面を削り、低い方へ低い方へ流れ、川になって、その川がどんどん合流して最後は海にたどり着きます。こうやって雨水が削ってできた地形が「流域」です。
山に降った雨は、斜面から谷へと落ちて川に流れ込みます。山の一番高いところをつないだ「尾根」に囲まれたエリアに降った雨は、すべてこの谷を走る川に流れこみます。尾根の向こうは別の流域になります。自然の地形のほとんどは、このように流域がパズルのように組み合わさってできています。土地は、ほとんどの場合、雨水がつくった「流域」のかたちの中に収まっているんです。
今回の広島の災害は、山の斜面の、100ヘクタールにも満たない小さな流域が山から平地にひらかれる扇状地のような場所で起こっています。土石流災害が起きた扇状地のような場所は、原理的に考えれば、大雨がふれば必ず水と土砂が集まる場所です。そこに人が集住していなければ、土石流は大雨に対する流域の自然な反応であって災害にはなりません。しかしそこが居住地になっていれば、豪雨の規模に応じて、大きな土砂流がおき、限度をこえれば大災害になる。自然のメカニズムでいえば、当然のことなのですね。
■今回の災害がおきた流域のことを、岸さんは、仮に「小流域」と呼んでおられます。「流域は尾根で区切られて入れ子状になって」おり、「大流域の中に中流域、中流域の中に小流域が組み合わさって」できているのです。岸さんは、今回の災害のばあいは、「流域が上流域に広い集水面積をもち、下手で絞られる形をしている」ことが大きな災害を生み出していると指摘されています。しかも、その上、流域の森林においてこまめな管理されておらず、山の保水力が極度に低下しているため(モヤシ林で下草もはえない…)、豪雨の際には森林ごと流されて、倒木により小さなダムがうまれ、それが決壊したときにさらに大きな被害を生み出すというのです。
倒木や土砂による小さなダムは、斜面に複数できていることが多いものです。決壊したミニダムは、次々に勢いをまして、その下にあるミニダムを決壊させます。倒木と土砂がミニダムを崩壊させながら谷へ向かって滑り落ちていきますから、物凄いスピードと破壊力を持った土石流になるわけです。
広島でも、大島でも、被害の発生した小流域では、このようなことが起きたのではないかと想像されます。次々とミニダムを決壊させて勢いを増すカスケード型の崩壊は本当に怖いんです。
■岸さんは、動画も紹介されています。以下のものです。「流れの先端は倒木や石だらけ」です。「温暖化豪雨時代」、「森林管理不在時代」の現在、このような小流域が大災害をもたらす時代になっていると警告されています。また、流域の考え方を防災に取り入れる必要性があると強く主張されています。地域住民は、自分たち自身でそのことを確認する必要があるのです。『「流域地図の」作り方』の著者らしい主張です。
■岸さんは、最後にこうアドバイスされています。
安佐南区の災害が起きた八木地区の地名は「八木蛇落地悪谷」でした。豪雨があれば、大量の土砂の流れ落ちる流域であると、昔の人は良く知っていたのでしょうね。自分の住んでいるところが危ないとわかったら、地域住民で協力して裏山の森の手入れをするなどというのも良い対応かもしれません。谷に溜まっている倒木の処理をするだけでも、きっと被害を小さくすることができますよ。
『野生動物管理システム』(梶光一/土屋俊幸 編)
■私は、これまで「流域管理」の学際的研究に取り組んできました。そのような私が、他の分野の専門家と議論しながら、環境社会学の研究蓄積をベースに、それらを組み立て直し、再構成しつつ、提案してきた概念に「階層化された流域管理」があります。この「階層化された流域管理」の考え方の元になった素朴なスケッチは、脇田(2002:342-351)のなかで示してあります。その後、総合地球環境学研究所のプロジェクト「琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築」に取り組むなか、脇田(2005)において「階層化された流域管理」という考え方にまとめることができました。それらは、谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編(2009)のなかの脇田(2002)で、さらに詳しく説明しています。この「階層化された流域管理」の概念は、研究プロジェクトを統合する「柱」としての役割、そして異なる分野の研究者が相乗りするための「プラットホーム」のような役割を果たしました。
■今回ご紹介する『野生動物管理システム』(2014)は、先月、東京大学出版会から出版されたばかりの研究書です。エゾジカの研究で有名な梶光一さんを中心に実施された研究プロジェクト「統合的な野生動物管理システムの構築」の成果をまとめたものです。本書の「はじめに」では、次のように書かれています。「異なる行政・自治上の階層の統合、異なる空間スケール(ミクロ・メソ・マクロスケール)の統合、社会科学と生態学を統合することによって、深刻な農業被害をもたらしているイノシシに焦点をあてて、統合的な野生動物管理システムの構築を目指した」。このような考え方は、梶さんが「1.3『統合的な野生動物管理システム』の構築に向けて」の中でも述べているように、私たちの流域管理から生まれた「階層化された流域管理」の概念を、野生動物管理へと応用展開しているものなのです。こうやって、流域とは異なるテーマの研究のなかで応用していただけたことは、空間スケールに着目したこの「階層化された流域管理」という概念が、汎用性をもっていることを示しているともいえます。私たちの研究を、きちんと引用し応用展開していただいたことに、心より感謝したいと思います。
■本書の目次は以下の構成になっています。
I 総論編
第1章 野生動物管理の現状と課題(梶 光一)
第2章 地域環境ガバナンスとしての野生動物管理(梶 光一)
第3章 野生動物管理システム研究のコンセプト(梶 光一)II 実践編
第4章 研究プロセスと調査地(戸田浩人・大橋春香)
第5章 ミクロスケールの管理――集落レベル(桑原考史・角田裕志)
第6章 メソスケールの管理――市町村レベル(大橋春香)
第7章 マクロスケールの管理――隣接県を含む(丸山哲也・齊藤正恵)
第8章 イノシシ管理からみた野生動物管理の現状と課題(大橋春香)
第9章 学際的な野生動物管理システム研究の進め方(中島正裕)第III部 政策編
第10章 北米とスカンジナビアの野生動物管理――2つのシステム(小池伸介)
第11章 野生動物の食肉流通(田村孝浩)
第12章 統合的な野生動物管理システム(土屋俊幸・梶 光一)おわりに(土屋俊幸)
■目次のなかにはっきり現れていますが、野生動物の管理をめぐる階層性に注目されていることが理解できます。梶さんは、このように書かれています。
野生動物管理の階層を考えた場合、これらの階層は国、都道府県、市町村、集落といった行政・自治上の単位(階層)に相当する。そこには、様々な行政のほか、農林業、酒量者、NGO、研究者などマルチスケールの階層がかかわっている。これらの野生動物管理にかかわる関係者(アクター)の協働によるボトムアップの取組と管理計画によるトップダウンの調整が必要である。
さらには、野生動物管理に求められている個体数管理、生息地管理、被害防除についても、空間スケールと行政・自治上の単位に関係するので、異なる社会構造における階層間の連携が野生動物管理には不可欠である。問題は、それをどう築き上げるかである。
■このあたりの梶さんの考えかは、テーマは違いますが、私たちの「階層化された流域管理」とも共通する問題意識でもあります。まだ、読了していませんが、現在取り組んでいる流域管理のプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」で、梶さんたちの研究の成果を、こんどは逆に応用展開させていただけるのではないかと思っています。
・脇田健一,2002 ,「住民によ環境実践と合意形成の仕組み」『流域管理のための総合調査マニュアル』京都大学生態学研究センター 未来開拓学術研究推進事業 複合領域6:「アジア地域の環境保全」 和田プロジェクト(JSPA-RFTF97100602)編.
・脇田健一,2005 ,「琵琶湖・農業濁水問題と流域管理―『階層化された流域管理』と公共圏としての流域の創出―」『社会学年報』No.34(東北社会学会).
・谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編,2009,『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』和田英太郎 監修,京都大学学術出版会.
・脇田健一,2009,「『階層化された流域管理』とは何か」『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』和田英太郎 監修/谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編,京都大学学術出版会.