在来魚の復活
■20日(木)のことになりますが、「総合地球環境学研究所」の研究員の方たち2人と一緒に、平湖・柳平湖のある草津市志那町を訪問しました。今回は諸々の相談事と、簡単なヒアリングをさせていただきました。
■写真についても、少し説明。志那のまちづくりに取り組むみなさんは、内湖の水質の改善、在来魚の復活を目指しておられます。そのようなわけで、内湖と琵琶湖が通じる水路の水門に、昨年、魚道が設置されました。地球研のプロジェクトでは、その魚道を使って在来魚がどれだけ遡上してくるのかを確認するために、魚道の脇にビデオを取り付けて動画を撮影して、フナの遡上を確認しました。今回はその動画を持参して、地元の皆さんに確認していただきました。また、地元の皆さんが撮影された、内湖でフナが産卵の様子を動画で拝見しました。
韓国からの視察(その2)
■写真だけアップして、本文をアップすることができませんでした。申し訳ありません。ずいぶん時間が経過してしまったこともあり、ごく簡単に記録だけ残します。どうか、ご容赦ください。
■韓国からの視察団の皆さんは、7日(金)の午前中には、滋賀県農政水産部の「食のブランド推進課」と「農村振興課」の職員の皆さんから、「環境こだわり農業」や「魚のゆりかご水田」について説明を受けました。この日も、活発な質疑応答が行われました。午後からは、野洲市の須原を訪問しました。こちらの須原では、農家の皆さんが[http://seseraginosato.net]「せせらぎの郷」[/url]という団体を組織し、「魚のゆりかご水田」プロジェクトに熱心に取り組まれていることで有名です。代表の堀彰男さんから、水田にニゴロブナが遡上できるように魚道を設置できるようになっている水路で「魚のゆりかご水田」の仕組みについて説明を受けた後、集落内の公民館に移動して「せせらぎの郷」の活動全般についてご説明していただきました。須原の「魚のゆりかご水田」について説明を受けた後は、大津の街中に移動。大津駅前にいつもの居酒屋「利やん」で懇親会を持ちました。お店のマスターが、韓国の皆さんのために腕をふるいました。皆さん、大満足。龍谷大学の学生たちがプロデュースした純米吟醸「北船路」(平井商店)、野洲市須原の魚のゆりかご水田米で醸造した「月夜のゆりかご」(喜多酒造)、滋賀の酒を美味しくいただきました。
■最終日の8日(金)の午前中は、甲賀市甲賀町にある小佐治を訪問しました。小佐治で取組まれている「豊かな生きものを育む水田づくり」の活動についてお話しを伺いました。小佐治は、私も参加している総合地球環境学研究所のプロジェクトが環境保全部会の農家の皆さんと一緒に調査研究を進めている丘陵地にある谷津田の農村です。生きものが生息できるように工夫した水田内水路を見学した後、「甲賀もちふるさと館」でさらに詳しい説明をしていただきました。面白かったのは、小佐治の皆さんが、視察団に参加されている地域住民=農家の方たちに、いろいろ質問を始めたことです。視察というと一方的に情報を提供するだけになりがちですが、今回は双方向的なやりとりになりました。環境保全と農業の両立にチャレンジする国境を超えた農家のつながりが、もっと生まれたら良いななどと思いました。今回、小佐治では、「新3K」という言葉も教えていただきました。これからの農業は「稼げる・感動・カッコいい」だというのです。素敵ですね。
■5日から8日まで、視察のコーディネートとサポートをさせていただきましたが、無事に終えることができました。視察団の皆さんには、大変満足していただけたようです。韓国で取り組まれている「農村ノンポイント汚染源管理のためのガバナンス構築」を進捗させるために、今回の視察で得られた知見を活かしていただきたいと思います。また、今度は、私の方から韓国を訪問させていただければと思います。
■最後の2枚の写真は、視察団のお1人に撮っていただいたものです。自分の写真なのですが、すごくかっこよく撮っていただきました。ありがたいですね。ということで、厚かましいですが、記念にアップさせてください。
【追記】2017年7月19日
■今回の視察を企画された建国大学の金才賢先生が、文在寅大統領のもとで新しく発足した政府の山林庁(日本の林野庁)の長官に就任されました。以下は、facebookに投稿された金先生のメッセージです。簡単に翻訳しておきます。
많은분들의 성원에 힘입어 문재인 정부 산림청장에 임명되었습니다. 오늘 하루 너무 많은 축하와 격려를 받았습니다.
진심으로 감사드립니다.
한편으로 막중한 책임감을 느끼고 있습니다.
숲과 산촌에서 우리 국민들의 삶의질을 높이고 많은 일자리를 만들어 지속가능한 지역사회를 만들어 가고자 합니다.
앞으로 혼자가 아닌 여러분들과 함께 상의하면서 하나하나씩 풀어 나가고자 합니다. 지속적인 관심과 애정 부탁드립니다.
축하와 격려에 다시 한번 감사드립니다.
김재현 드림
多くの皆様の声援に力づけられて、文在寅政府の山林庁長に任命されました。 今日は、一日中、大変たくさんのお祝いと激励をいただきました。 心より感謝を申し上げます。一方で重大な責任感も感じています。森林と山村で、私たちの国民の人生の質を高めて、多くの雇用の場を生み出し、持続可能な地域社会を作り出そうと思っています。今後、多くの皆さんと共に相談しながら、ひとつずつ解決していこうと思っています。 今後とも皆様からの変わらぬ関心と愛情いただけますようお願い申し上げます。お祝いと激励に、もう一度感謝申し上げます。
金才賢 拝
韓国からの視察(その1)
■7月5日(水)、滋賀県の環境政策や農業政策、地域での環境保全に関する活動を視察するために、韓国から視察団の皆さんが来日されました。私は、韓国のソウルにある建国大学の金才賢教授からの依頼により、今回の視察をコーディネートさせていただくことになりました。金先生は、2017年から3年間「韓国環境公団」の委託研究として「農村ノンポイント汚染源管理のためのガバナンス構築に関する研究(総括研究課 題:農村地域のノンポイント汚染源管理の最適管理技法の適用および拡散のためのモデル事 業)」にチームで取り組まれます。今回の視察は、研究の一環として実施されたのです。来日されたのは、日本の環境省にあたる環境部の水生態保全課、国立環境科学院水環境研究部流域総量研究課、原州地方環境庁水質総量管理課、韓国環境公団水生態支援政策チームといった環境行政や実行機関の職員の皆さん、地域住民の代表である農家の皆さん、そして建国大学に所属されている若手の研究者の皆さんです。私は韓国語ができないので、日本に長期にわたり在住されている韓国人の方が通訳を引き受けてくださいました。
■7月6日(木)の午前中は、今日の午前中は、滋賀県庁の琵琶湖環境部を訪問し、環境政策課の職員の方(首席参事)から、「滋賀県行政の歴史および現状 琵琶湖環境行政について」ご説明いただきました。以下はメモです。視察団の皆さんの直接的な関心は、農業排水等のノンポイント汚濁源にあります。滋賀県の環境政策は、その様なノンポイント汚濁源のみに限定したものではなく、もっと広がりをもった政策へと展開していっていますが、視察団からは活発な質疑が行われました。職員の方にも、韓国側の熱心さを感じ取っていただけた様です。
・琵琶湖が持つ様々な価値(固有種など豊かな自然環境としての価値、水源として価値、水産業の場としての価値、観光資源としての価値、学術研究の場としての価値、ラムサール条約湿地としての価値)
・琵琶湖に関する政策の変遷。治水対策・利水対策(水政問題)から公害・環境問題へ。転換点としての赤潮発生。有リン合成洗剤の禁止。自然湖岸の現象。
・流入汚濁負荷の増加による水質汚濁から在来魚介類の減少など生態系の歪み(琵琶湖の「健全性」の問題)
・第4次滋賀県環境総合計画、マザーレイク21計画、琵琶湖保全再生施策に関する計画の重点事項(共感・共存・共有→琵琶湖を「活かす」取組→琵琶湖を「支える」取組、→琵琶湖を守る取組、琵琶湖を「守る」ことと「活かす」ことの好循環をさらに推進)
・産官学民連携
■午後からは、視察団のご希望で、高島市にある針江集落を訪問しました。現地では、「生水の郷委員会」の会長をされている三宅進さんにご案内いただきました。針江は、安曇川が生み出した扇状地の一番端に位置することから、扇状地の地下を通って来た地下水が吹き出します。針江では、この地下水のことを生水と書いて「小豆」と呼んでいます。その自然に吹き出す地下水=生水を生活にうまく取り込んで暮らしていおられるのです。各家の敷地の中には、川端(かばた)と呼ばれる洗い場があります。詳しくは、公式サイトの針江の川端を紹介したページがありますので、そちらをご覧ください。視察団の皆さんは、三宅さんの案内で見学コースに組み込まれたお宅の生水を味わいながら、針江の地下水を利用した伝統的な水利用のシステムを興味深く見学されていました。
志那町魚釣り大会
■7月2日(日)、草津市志那町にある平湖の「志那町魚釣り大会」に、総合地球環境学研究所のプロジェクトのメンバーとともに参加しました。私たちプロジエクトのメンバーはこの大会のお手伝いです。これもプロジェクトの研究活動の一環です。釣れるのは、ほとんどが外来魚のブルーギル。内湖の外来魚駆除にもなります。魚釣りの後は、水路での魚つかみを行いました。大きな魚は、内湖で釣ったり、内湖に設置されたエリで捕まえたものです。鮎、エビ、テナガエビも。とはいえ、ブラックバスの稚魚がかなり泳いでいました。
■かつて、圃場整備や河川改修が行われる前、集落の高齢者が子どもだった頃は、水田の水路で、日常的にこのような魚つかみをして遊んでいたといいます。しかし環境が大きく変わり、ライフスタイルも変わり、子どもが日常的に魚に触れることは少なくなりました。身近な水辺環境との「距離」が生まれているのです。このようなイベントは、そのような「距離」を縮めることに一定効果があるのかもしれません。
近所の枇杷
■近くのスーパーには地元の農家が出荷されているコーナーがあり、普段は野菜や米が出荷されているのですが、先日は枇杷が出荷されていました。果物屋さんに売っている大きな宝石のように並べられた高級品の枇杷ではありません。小粒です。見てくれも宝石…とはとても言えそうもありません。おそらく、果樹農家が出荷したものではないと思います。ご自分の敷地の中に植えてある枇杷の木になったものだと思います。しかし、虫がつかないように丁寧に世話をされていることは確かですね。こなことを勝手に書いていますが、みんな私の想像なんですけどね。価格ですが、これで200円。宝石のような枇杷はとても甘いわけですが、この小粒の枇杷は、甘さ控えめで酸味があります。これはこれで、とても美味しく感じました。
■自宅の周りをジョギングやランニングをしていると、枇杷だけではなく、夏蜜柑や檸檬等、いろんな果樹がなっているのを見かけます。もちろん、果樹だけでなく野菜も栽培されています。余った農地の有効利用、農地を荒らしたくない、自家消費用、いろいろ理由はあるのでしょうが、よくみかけるわけです。時には地面に落ちて腐っている果樹や、収穫されずに農地の肥やしになっている野菜もあります。勿体無いな〜。腐らせるのならば買うのにと思うわけですが、いまのところそのような農家とお友達になるには至っていません。
■目と鼻の距離に、生産者である農家と、私たちのような消費者が住んでいるのに…。もったいないですね。近所のスーパーの「地元の農家コーナー」のような仕組みが、もっとあちこちにあったらいいのになあ。仲良しの農家さんができる、婚活のような仕組みがないかなあ。畑や田んぼの手伝いにも行くのにな…そのようなことを妄想しています。
魚と水田
■先週の22日(木)、滋賀県内のある地域の水田を見学にいきました。総合地球環境学研究所の上原 佳敏さんと一緒です。
■トップの写真をご覧ください。水路と水田の水面に落差がなくつながっています。そのため、この地域の水田では、水田に水をはっている間はフナが侵入し産卵することができます。滋賀県では、各地で「魚のゆりかご水田プロジェクト」が取り組まれています。このプロジェクトでは、圃場整備事業により深くなってしまい魚が水田に遡上できない排水路に、魚道を設置することでフナが遡上し産卵できるようにします。しかし、今日見学した地域の水田は、自然状態で産卵できます。約60ha。すごい事だと思います。
■上原さんと一緒に水田を見学させていただきながら、水のサンプルを採取しました。自然界に存在するストロンチウムという元素の安定同位体を用いて、フナが生まれ育った水田に帰ってくる=「母田回帰」していることを明らかにすることができるのですが、その分析のために必要な水路の水をサンプルとして採取しているのです(これだけだと、よくわかりませんね…すみません)。
■魚が遡上する水田、素敵なことのように思いますが、ここで営農している農家の皆さんにとってみれば、いろいろ困ったことも起きます。水田にたくさんいる稚魚を狙ってサギなどの鳥が水田にやってきて、せっかく植えた苗を踏み倒してしまい、植え直しの作業が必要になるのです。鳥の被害ということで言えば、豊岡市のコウノトリの事を思い出します。しかし、豊岡市では「コウノトリ育む農法」(おいしいお米と多様な生き物を育み、コウノトリも住める豊かな文化、地域、環境づくりを目指すための農法)に取り組むようになっておられます。何かヒントがあるんじゃないのかな…と思います。豊岡の場合は、コウノトリ自体が保護の対象であり、シンボル的な鳥でもあります。しかし滋賀の場合は、社会的に注目されているのは魚であり、鳥は(今のところ)害を及ぼす存在でしかありません。
■もっと、魚との共存を支える「社会的な仕組み」があればな…とも思います。そのためにも、この水田が持つ「様々な価値」をきちんと評価することが必要でしょう。どうすれば良いのだろう…。そのような「仕組み」や「評価」を、農家の皆さんはどのように受け止めるのだろう…この日は、そのようなことを考えました。
「オープンガバナンス」と「オープンサイエンス」
■大津市役所の「オープンガバナンス」に関する事業に関わることになっています。大学教員としては、いわゆる社会貢献の仕事ということになりますが、私としは、これまでの自分の研究から得られた知見を活かしていくという意味で、実践的な研究にも関わっているということになります。「オープンガバナンス」という概念は、まだ比較的新しい概念ですが、いろんな説明が行われていますね。例えば、「地域の市民が主役となり行政がプラットフォームとなって豊かな地域コミュニティを作り上げる市民参加型社会の運用の新しい姿」とか、「市民が自治体と協働しながら地域の課題解決を進めていくこと」とか…。私としては、これからの「人口減少社会」においては、地域の課題を地域に暮らす市民自身が連携しながら解決していく「共助」の仕組みを作っていく必要があると考えています。「オープンガバナンス」という考え方は、そのような社会状況とも重なり合い、シンクロしているように思います。
■先日のことになりますが、「どうやって、大津市でこの『オープンガバナス』を進めていこうか」と市役所の職員の皆さんと相談をしていた際に、たまたま私が参加している総合地球環境学研究所の「オープンサイエンス」の取り組みについて説明させてもらうことがありました。そのオープンサイエンスの取り組みでは、琵琶湖の中でも南湖の「水草問題」がテーマとなっています。琵琶湖の南湖では、水草の異常な繁茂が問題になっています。昔の琵琶湖のように、適度に水草が繁茂している段階では、水草の茂る湖底は魚類等の産卵や発育・生育の場となります。しかし、時に南湖の湖底の90パーセントに水草が大量繁茂するような状況になりますと、水質の悪化や底層の低酸素化、湖底のヘドロ化などの問題がおきてきます。また、漁業や船舶航行の障害にもなります。湖岸に切れた藻が大量に流れ着くと、腐敗に伴う臭気が発生し、湖岸に暮らす人びとの生活にも影響を与えます。水草問題とは、琵琶湖の生態系の問題であるとともに、迷惑問題でもあるのです*。このような環境問題に関する情報や、その解決に関連する、或いは解決に資する様々なデータを公開し、そのデータをもとに、現在のように水草を廃棄物にするのではなく、活用していくための知恵をお互いに出し合い、社会的な仕組みを作っていく、これが私たちが取り組む「オープンサイエンス」の狙いになります。
■この水草問題についてお話しをさせていただいたところ、大変関心を持っていただくことができました。そのことがきっかけとなり、「オープンガバナンス」と「オープンサイエンス」の両者を連携させていくことになりました。両者は重なる部分が大きいからです。昨日は、市役所でその連携の進め方について、いろいろ相談をさせていただきました。確かな手応えを感じました。まだ、ぼんやりしたところがあるわけですが、地球研のメンバーと市役所の職員の方たちとで固めていきたいと思う。その上で、多くの市民の皆さんに参加していただきたいと考えています。このような取り組みについては、滋賀県庁の琵琶湖環境部にも応援していただこうと思っています。まだ、未確定の部分がたくさんあるわけですが、頑張って連携に取り組んでいきます。
■ところで、大きなアウトラインを書けば、水草にそれぞれの立場から関心を持つ方たちが集まり、加えてそれぞれの持ち味や能力を活かしつつ、水草問題を解決していくためのアイデアを出し合い、解決に向けて動き始める…ということになります。「水草問題」の解決に向けての1歩になればなあと思っています。もともとある断片的な関係がつながり、IT技術も用いることの中で**、さらにそれらの関係が拡大していき、大きな力に成長していけば…とも夢想しています。結果として「やればできる」という社会的な有効性感覚が醸成されていくことが大切かなと思っています。また、副産物として、そのような取り組みから創発的にだけど、水草とは異なる別のテーマが確認され、別の動きが生まれることにも期待したいです。
■「オープンガバナンス」の相談を終えた後、今度は市役所で「オープンデータ」に取り組む方たちにもご挨拶をさせていただきました。現在の自分たちの考えについて説明させていただきました。とても好意的に理解していただけたように思います。世の中一般のことですが、「オープン〜」という言葉に振り回されている…感じがしないでもありません。「このチャンスに儲けよう・一発当てよう」という雰囲気が無きにしもあらず…です。また、言葉だけに振り回されている…パターンもあるのではないでしょうか。しかし、大津での取り組みについては、これまで市役所の別々の部署で蓄積してきた経験(例えば、大津市協働提案事業とか…)を、「オープンガバナンス」という概念の下で、うまく体系化して整理していくことが必要だろうと思います。大津には大津の「オープンガバナンス」があるはずです。全く新しいことに取り組むわけではないのです。無自覚なまま、それぞれの部署で、すでに取り組んできていることを関連づけて、うまく体系化していかないと…と思います。そうでなくては、開かれた形での政策評価もできませんしね。ということで、昨日は多くの皆さんと一緒に「夢」を共有することができました。こういう瞬間が、いつもあるわけではありませんが、この「夢」がなければ働く意欲が湧いてきませんしね。
■考えてみれば、私が環境問題の研究を始めた頃は、周りを見合わせば、まだ「開発・対・保全」という枠組みの中で行われている研究がほとんどでした。その場合、行政は、どちらかといえば開発の側に位置することが多かったように思います。私自身はそのような中で、「環境政策と住民参加・参画」に関心を持ち研究を進めてきました。その後、研究を進めるうちに「環境ガバナンス」が課題となる時代になり、今では具体的な問題解決を志向する「オープンガバナンス」が模索される時代になったのです。短い言葉ではなかなか説明できませんが、何か感慨深いものがあります。私自身も、その時々の行政の政策に関わることが多くなりました。もちろん、「開発・対・保全」の時代とは異なる、制度として動き始めた「ガバナンス」の背後で、見えにくくなっている重要な問題を把握し、私たちは考えていかなければならないわけですが、そのことについてまた別途エントリーしたいと思います。
✳︎■私が子どもの頃、化学肥料が普及する以前は、農業では人糞が肥料として使用されていました。その頃は、畑や農村地域が臭うのは当たり前のことでした。また、トイレも…当時は便所ですね、便所が汲み取り式の時は、便所は臭うものでした。確かに臭うわけですが、当たり前で、それほど気にはならなかったのです。現代社会は「脱臭社会」です。化学肥料が普及し、便所もトイレになる水洗化されました。臭いは消えてしまいました。そのため、ちょっとした臭いにも敏感になってしまいました。水草の腐敗に伴う臭気が社会問題化するのは、現代社会の人びとの臭覚の変化が背景にあることも、知っておく必要があるでしょう。
✳︎✳︎■環境問題、市民参加、IT技術…。どこかで聞いた話しだなあと自分でも思います。私が滋賀県立琵琶湖博物館の開設準備しをしている時に、嘉田由紀子さんたちのグループが取り組んでいた身近な環境にいる蛍を調査して「パソコン通信」を使ってデータを集約していく住民参加型の調査「ホタルダス」のことを思い出します。もう、20年以上も前のことになります。20年間の間に、インターネットが普及し、さらにはスマートフォンが身近な情報機器になりました。「水草問題」でどのように展開していくのか、興味深いものがあります。
「魚のゆりかご水田プロジェクト」、「生みの親」「名付け親」「育ての親」
■滋賀県農政水産部農村振興課で、「魚のゆりかご水田プロジェクト」の「名付け親」で「生みの親」Kさん、そして「育ての親」Tさんのお2人にお会いすることができた。本当に嬉しい‼︎ すでに退職されていると思っていましたが、現役の職員さんでした。「生みの親」のKさんと担当者の職員の方からは、「魚のゆりかご水田プロジェクト」での現状や課題について、いろいろお話しを伺いました。勉強になりました。集落内外の社会関係資本のあり方、集落内のリーダーの交代、プロジェクトのマンネリ化…様々な要因が、現状や課題の背景には存在しているようですね。
■「育ての親」のTさんは、水郷地帯のご出身でした。昔話しを聞かせてくださいました。もちろん、圃場整備事業のため、そのような水郷地帯はすでに存在していません。現在、年齢は50歳過ぎとのことでしたが、水郷地帯のクリークそして水田で、フナやコイそしてナマズをつかまえることはもちろん、家に隣接する洗い場「セド」でボテジャコを遊びで釣っていた経験をお持ちであることがわかりました。昭和40年代のことですね。おばあさんは網でボテジャコをすくって晩御飯のおかずによくされていたとか…しっかりと「魚つかみ」や「おかず取り」の経験をお持ちでした。一方、「生みの親」のKさんは、別の地域で同じように「魚つかみ」や「おかず取り」を経験されていたわけですが、水郷地帯の方とは内容に違いがありました。魚種についても。面白いですね。Kさんは、母方のご実家が内湖のそばだったというお話しもしてくださいました。
■「魚のゆりかご水田」というプロジェクト名の起源については、私が知る限り複数の説があって、中には疑問に思うものもあったのですが、今回はお話しを伺ったご当人が「生みの親」だったというで、とても驚きました。気持ち的にスッキリしました。公務員の仕事は、一人の「個人」の仕事ではなく、組織の中で与えられた「役割」が仕事をしているので、事業が動いてもそれは誰が発案したものなのかは分かりにくいわけです。それは仕方がありませんね。
■ところで、Kさんからは以下の論文を教えていただきました。いろいろ参考になりますが、魚のゆりかご水田の「実施水田面積拡大のため」ということを前提にされている点が、私などの問題意識とは異なっています。プロジェクトを実施されている滋賀県庁の皆さん、もちろんこのような問題意識を共有されていることと思います。ただし私自身は、その辺りの根本の問いの立て方が違っています。「何のため」の、「誰のため」の「魚のゆりかご水田」プロジェクトのなのか、その辺りのことをもう一度深く考えていく必要があるように思うのです。
内湖(平湖・柳平湖)、淡水真珠、座頭市
■昨日13日(土)は、早朝から、総合地球環境学研究所の仕事で草津市の志那町に向かいました。草津市志那町にある柳平湖で行われる養殖真珠の貝洗い作業にあわせて、水中の水温と、水中の溶存酸素を記録するロガーを設置させてもらうということで、その見学と合わせて簡単な聞き取りに行ってきました。琵琶湖の淡水真珠養殖については、もっと勉強してこのブログでもエントリーしてみたいと思っています。
■さて、琵琶湖の淡水真珠養殖ですが、琵琶湖とはいっても、琵琶湖の周辺の内湖で養殖されています。草津市でも、戦前から民間業者さんが平湖で、草津市の活性化に関連する事業として地元の自治会が柳平湖で期間限定ですが小さな規模の養殖をされています。今回、私たちがお世話になったのは、後者の方、地元自治会の皆さんの方の養殖です。総合地球環境学研究所の研究員である池谷透さんが、淡水真珠の母貝であるイケチョウガイを入れた籠をぶら下げる内湖に設置された養殖用の施設に、ロガーを設置させていただきました。このロガーには、柳平湖の水温と酸素量の変化が記録されることになります。このようなデータをきちんと取り、内湖の状況をモニタリングして、内湖再生への取り組みを支援させていただく予定です。私自身は、この雨の中での設置作業ということで、陸地から見学させていただくだけでした。池谷さん、役に立たず、ごめんなさい。
■ロガーを設置した後、池谷さんには、志那町界隈をいろいろご案内いただきました。池谷さんは自然科学分野の研究者ですが、この内湖のある地域の社会的、民俗学的な事柄まで、いろいろ調べておられました。それらを、丁寧にご教示いただきました。ありがたいことです。ここは、平湖の湖岸です。マコモの生えた浅い水辺に、ニゴロブナ等の魚が産卵に来るのだそうです。私がこの写真を撮った時は、ウシガエルが鳴いているだけでしたが、いかにも魚たちが産卵したくなるような水辺であることがわかります。
■志那町のあちこちを見学した後、池谷さんとともに、自治会館(支那会館)で自治会の皆さんと少しお話しをさせていただきました。その時に、自治会で養殖した淡水真珠を拝見させていただきました。これらは加工され、記念品として関係者に配布されるようです。淡水真珠は形が独特です。海の真珠の場合は、母貝であるアコヤガイの中に核を入れることでまん丸な真珠ができますが、淡水真珠の場合は、母貝であるイケチョウガイの外套膜の中で、核を入れずに真珠ができあがるため、形がひとつひとつ違ったものになります。淡水真珠独特の技術です。海の真珠とは異なり、ひとつひとつの形が独特になるのです。とても個性的ですよね。淡水真珠を使うと、世界で一つしかない、自分だけのアクセサリーが出来上がるわけです。写真はアクリル樹脂に包埋された淡水真珠です。何か、神秘的な雰囲気が漂っているような気がしませんか。
■昨日は、淡水真珠以外にも、いろいろお話しを伺いました。圃場整備や河川改修が行われる以前、まだこの辺りが水郷地帯だった頃のことです。街場に出かけるときは船で大津に行ったこと。この辺りは、大津の街場に下肥を取りに行っていたが、志那の若者は昔から大津の花街から下肥をもらっていたこと。京都に行くときは、坂本に船で渡り、そこから徒歩で京都に向かったこと。この最後の話しは、いつ頃のことでしょうか。
■水郷地帯ですから、いわゆる「魚米の郷」といっても良いわけですが、それでも、それぞれの家によって魚への関わり方が違っていたと言います。漁業が主たる生業の家は当然のことながら魚を食べます。農家でも魚が好きな人は自分でタツベという漁具を作り、魚を獲って食べていました。しかし、同じ志那でも魚に関心のない(魚が好きじゃない)家もありました。また、かつて新田開発をしていた頃(いつ頃だろう…江戸時代?!)、その土木作業するためにここに住み着いた人達を先祖に持つ家もありましたが、そのような家では田畑が無くても好きな人は自分で魚を獲っていたといいます。家の「食の傾向」で、魚への関心が違っていたのです。
■滋賀県の水郷地帯はここだけではありません。県内各地にありました。そういう「水っぽい地域」が各地にあったのです。ただし、私が滋賀県で仕事を始めたのは1993年ですから(滋賀県教育委員会事務局・文化施設開設準備室)、実際に各地に水郷地帯があった頃の風景を知りません。昨日、自治会の皆さんからお話しを伺いながら驚いたのは、そのような水郷の「水っぽい」風景が映画のロケ地に使われというのです。勝新太郎の「座頭市」のシリーズです。この「座頭市」を観ると、当時の水郷地帯の雰囲気がわかるのだそうです。ただし、「座頭市」のシリーズにはたくさんの作品があります。どの作品なのかよくわかりません。ということで調べてみました。
■こういう論文を見つけました。「劇映画のシリーズ化とは何か ― 大映京都撮影所製作の「座頭市」シリーズを題材に」です。この論文の中には、次のような記述があります。
「継続する第二の要素として、風景がある。シーン 1「下総国、取手川の土手(昼)」は、湖水の描写にはじまり、渡舟に乗っている村人や商人が紹介されていく。『座頭市物語』と同じ 風景が、ここにある。同じ風景が登場することで、『続・座頭市物語』は前作とつながってい る物語、シリーズものだと見る人に感じさせる。28」
■28とは、注の番号のことです。その注はでは、次のように書かれていました。
「28 『続・座頭市物語』の撮影は実際に、『座頭市物語』と同じく滋賀県の水郷地帯で行われた。滋賀県は京都の撮影所から近く、この映画を撮影した頃は、手つかずの自然が残っていたため、京都の撮影の作り手たちは日常的にロケ地として活用していた。」
■なるほど!! ということで、『座頭市物語』と『続・座頭市物語』であるらしいことがわかりました。絞り込めてよかった。TSUTAYAでレンタルで借りてみま消化。まず、会員にならないといけませんが…。
『連携アプローチによるローカルガバナンス 地域レジリエンス論の構築にむけて』(日本評論社)
■ガーデニングや孫の成長のことばかりエントリーしていますね。安心してください。ちゃんと研究もしています。
■私は龍谷大学の地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)の研究メンバーです。もっとも昨年度までの2年間は研究部長の仕事が忙しく、あまり積極的に参加できていませんでした。今年度は、力を入れていこうと思います。ところで、近々、日本評論社から地域公共人材叢書『連携アプローチによるローカルガバナンス』が出版されることになっています。この本のねらいは、「日本の人口減少と高齢化の進行などの現実を直視し、「限界都市化」に抗した持続可能な都市機能を実現するための方策を探る」ことにあります。詳しくは、日本評論社の公式サイトの、こちらのページをご覧いただければと思います。各章のタイトルは以下の通りです。
はしがき
執筆者紹介
序章 連携アプローチから考察するローカルガバナンスと地域レジリエンス
第1部 自治体連携アプローチ — 地域資源の最適化を図る
第1章 都市圏ガバナンスの昨今 —アメリカのグローバル化に対峙するNew Regionalis
第2章 ツインシティズ都市圏におけるガバナンス — Metropolitan Councilを中心に
第3章 アメリカにおける広域都市圏の形成と役割
第4章 EUにおける都市政策の多様化と計画対象の広域化
第5章 イギリス大都市圏の広域自治体 — シェフィールド・シティ・リージョンを事例として
第6章 地域資源の最適化を図る — 東三河地域におけるマルチ・レベル・ガバナンスの様相
第2部 パートナーシップアプローチ — 地域アクターの有機的な連携を図る
第7章 英国の「パートナーシップ文化」のゆくえ —「ビッグ・ソサエティ」概念の考察から
第8章 持続可能な次世代地方都市のかたち — 地域力再生に向けた地方都市ネットワーク「スロー・シティ連合」
第9章 野洲川流域における流域ガバナンスと地域間連携
第10章 再生可能エネルギー事業にみる官民・民民連携 — 地元企業・市民団体・大学イニシアティブの事例から
第11章 大学と地域の連携による「学びのコミュニティ」の形成 — 京都発人材育成モデル「地域公共政策士」の取組から
第3部 新たな時代の地域を構想する — 地域資源の顕在化を図る
第12章 イギリスの社会的投資市場 — 金融仲介機関を中心として
第13章 コミュニティ・ファンドを通じた新たな地域の連携
第14章 広域的な地理情報システムの利用による新たな自治体間連携の可能性
終章 地域のレジリエンスを高める
■私も、第9章に「野洲川流域における流域ガバナンスと地域間連携」を書きました。総合地球環境学研究所でのプロジェクトの活動を元に執筆しています。構成ですが、以下の通りです。この中で社会学者は私だけなので、行政学や政治学を専門とする研究者が書かれたものとはトーンの違いがあるように思います。それも含めて、出版されることを楽しみにしています。
第9章 野洲川流域における流域ガバナンスと地域間連携
9-1 「人口減少時代」における流域ガバナンス
9-2 「鳥の眼」と「虫の眼」
9-3 農村コミュニティの調査
9-4 地域の「しあわせ」と流域ガバナンス
9-5 「小さな空間ユニット」の連携