第21回地球研地域連携セミナー「地域の底ヂカラ~結の精神が育むいきものの多様性」
「ヨシ条例ができた経緯」(小谷博哉)
■ILEC(国際湖沼環境委員会)という機関があります。滋賀県草津市の烏丸半島に施設があるのですが、そこは、私が以前に勤務していた滋賀県立琵琶湖博物館の向かい側になります。ちなみに、この組織の目的ですが、「世界の湖沼環境の健全な管理とこれと調和した持続的開発の在り方を求めて国際的な知識交流と調査研究推進を図る」ことにあります。そして、「湖沼環境問題に関する世界中の著名な研究者、政策・計画の専門家からなる「科学委員会」を有し、その助言のもとに活動を行っています」。
■ちょっと前のことになりますが、「ヨシ条例ができた経緯」という文書を読むチャンスがありました。上記の国際湖沼環境委員会と滋賀大学や滋賀県立大学が連携推進機関として実施している「流域政策研究フォーラム」で2011年に発行した報告書に収められていました。筆者は小谷博哉さんです。滋賀県職員として「第1回世界湖沼会議」開催や「滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例」(ヨシ条例)など、環境政策に関わって仕事をされてきた方です。2013年05月13日に74歳でお亡くなりになりました。過去の琵琶湖の環境政策に関して、いろいろお話しを伺いたかったのですが、とても残念です。その小谷さんが執筆された「ヨシ条例ができた経緯」は、2ページほどの短い文章です。報告書の中の第5章「琵琶湖の湖沼流域ガバナンスの変遷、その評価と課題」の最後に収めれています。少しその内容について紹介したいと思います。
■小谷さんによれば、日本の法文上「生態系」という用語が使われたのは1993年に施行された「環境基本法」が最初になるそうです(同法第14条第2号)。しかし、その1年前の1992年に滋賀県が制定した「滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例」の前文中には、すでに生態系という用語が登場しているというのです。以下は、この条例の前文です。
琵琶湖は、その営々とした自然の営みの中で、様々な人間活動を支え、私たちに限りない恩恵をもたらしてきたかけがえのない資産である。
この琵琶湖が、近年、集水域の都市化の進行などにより水質の改善が進まず、その保全と利用が危惧される事態にあり、私たちとのかかわりも、新しい段階を迎えている。
県民すべての願いである 碧琵琶湖を取り戻すためには、今日までの湖に流入する汚濁の原因となる物質を削減する努力に加えて、湖自身の健全な自然の営みを重視し、その維持と回復に努めることが求められる。今一度、私たちも自然界の一員であるとの認識に立ち返り、県民一人ひとりが、自然にやさしい暮らしを心がけ、自然の生態系の仕組みに目を向けていかなければならない。
その第一歩として、自然と人との共生を目指していく私たち滋賀県民の琵琶湖の保全活動として、湖辺のヨシ群落の保全を進めるものである。
水辺に広がるヨシ群落は、湖国らしい個性豊かな郷土の原風景であり、水鳥や魚の大切な生息場所である。また、湖岸の浸食を防止し、湖辺の水質保全にも役立つなど優れた自然の働きを有している。
ヨシ群落の保全は、琵琶湖を代表する自然を守り、水辺の生態系の保全を図るのみならず、私たちの心の支えである湖国の風土や文化を守る大きな意義を持っている。
私たちは、今後も、それぞれの役割を一層果たすことに努力し、一体となって琵琶湖を守り、美しい琵琶湖を次代に引き継ぐための新たな取組の出発点として、滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例を制定する。
■今から読むと当たり前のことを書いているように思えますが、当時は、そうではありません。注意深く読めばわかりますが、この条例ができる以前、環境政策で重視されていたのは、琵琶湖の富栄養化を防止するために周囲の河川から流入する汚濁源の物質をどのように削減するかということだったからです。そのための政策的手法は、下水道を普及させることになります。実際、滋賀県の下水道の普及率は、開発着手時では2.6%ときわめて低い数値でしたが、大幅に普及が進み、平成12年度末(2000年度末)で全国平均を上まわりました。膨大な社会的費用を投入しているわけです。この下水道の普及によって、富栄養化を抑制することができるようになりました(もっとも、下水道という技術システムに私たちの暮らしが組み込まれることのマイナス面を指摘する指摘もあります)。しかし、条例の前文では「物質を削減する努力に加えて」とあります。それだけでは、足らないという認識が背後にあります。
■小谷さんの文章の中では、そのことも説明されています。巨大国家プロジェクトである琵琶湖総合開発により、「琵琶湖周辺は急速な変貌にさらされつつあり、滋賀県は同事業に関わって提訴された琵琶湖訴訟の被告の一員としての立場はあったものの、稲葉知事以下県政の趨勢は琵琶湖の生態系保全の在り方を真剣に探りつつあったが…」。当時の滋賀県知事は稲葉稔知事です。稲葉知事は、ある研究者の仲立ちで、海外のヨシ保全に詳しい研究者と会談を行い、琵琶湖のヨシ保全についての検討を始めるように命じたのです。曖昧な表現ですが、この当時、少しずつ環境政策の「潮目」が変化していくことがわかります。
■県行政としてヨシ群落を保全していくためには、条例の制定が不可欠です。その条例の制定権は県議会が持つことになりますが、当時の県議会では、ヨシ群落を保全するための条例については、否定的な意見が大半だったといいます。小谷さんの記述から引用すると、「そんなヤクザ草を守ることになんの意味があるのか?」「減反政策がすすめられている現在、休耕田にヨシの根が侵入してくれば田地の回復が困難になる」、「雀の巣になってイネを荒らされてはたまったものではない」等々。今からすると、驚くような発言ですが、かなり反発が強かったことがわかります。で、どうしたのか。その時期、県議会からは散在性のゴミに対応する条例制定が発議されていました。この散在性のゴミとはどのようなものなのか、小谷さんの記述からはよくわかりませんが、一般的には、あちこちにポイ捨てされているゴミのことかと思います。それを条例で規制するとしても、具体的な対応策は困難です。小谷さんによれば、「県行政当局は制度的な対応が困難であるとして議会と厳しく対立していたので、ごみ条例の策定とのバーターによってやっとヨシ条例の制定にこぎ着くことができた」のだそうです。そうか、バーターだったのか…。
■もう1つの問題は、国との協議です。以下は、小谷さんの記述です。
いま一つネックとなったのは国との協議であった。1984年に制定された湖沼水質保全特別措置法は当初湖沼環境保全法として発議されたのであるが、当時の建設省が湖沼流域にまたがる法制度は建設省の所管であるべきとの強硬な意見により水質保全に特化した法制度になったといういきさつもあり、調整がかなり難航したのであるが、1992年夏にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境サミットに向けて湿地の保全が大きく取り上げられてきたという国際的な背景もあり、種々条件付きではあったがこれも国の認めるところとなった。
■ここからは、水質を重視する国の湖沼政策との調整に苦慮されたことがわかります。条例の前文にある「今日までの湖に流入する汚濁の原因となる物質を削減する努力に加えて、湖自身の健全な自然の営みを重視し」という部分などはそうではないかと思います。「努力に加えて」というところが、当時に建設省へのひとつの「配慮」のように思います。以下は、国交省のホームページの中にある「下水道の歴史」の「現行下水道法制定以降」「水質汚濁防止行政の動き」についての解説から引用したものです。太字やアンダーラインの強調は、私によるものです。湖沼水質保全特別措置法だけでなく、その前後で建設省が進めてきた取り組みが水質や下水道を柱としたものであることがわかります。
昭和33年には公共用水域の水質の保全に関する法律(水質保全法)と工場排水等の規制に関する法律(工場排水法)の2法が制定されたが、排水基準の設定、違反者に対する措置などの規定は不充分であった。しかしながら、水質保全法において、工場排水と家庭下水の両方により汚濁している河川を対象として都市河川汚濁防止計画を定め、所定期日までに下水道処理場を建設し良好な処理水を放流することを求める規定が置かれたことは下水道にとって画期的なことであった。すなわち、都市環境の整備のみならず、河川の水質保全にも対応することが求められることとなった。
昭和42年には公害対策基本法が制定され、環境基準が定められるようになった。そして昭和45年の公害国会において水質汚濁防止法が成立し、水質汚濁に関する排水基準の設定や下水道が特定事業場として取扱われることになったこと等により、下水道の水質保全に果たす役割が拡大し、かつ責任が増大した。さらに昭和53年に、総量規制制度が導入されるなど、下水道が水質保全に果たすべき役割はいよいよ重要となってきた。また、昭和59年に、湖沼水質保全特別措置法が制定され、下水道が重要な施策として位置付けされている。平成5年11月には公害対策基本法に代わり、環境基本法が制定された。また、よりおいしい水・安全な水の確保が求められる中、平成6年3月には水道水源の観点に絞った水質保全を目的とする「水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律」と「特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法」が制定され、下水道事業の推進が生活排水対策の中心として位置付けられている。
■さて、この時期から、滋賀県の環境政策は、従来の「技術的解決手法」(例えば下水道による汚濁不可削減)、「規制的手法」(法や条例による規制)だけでなく、「経済的手法」を取り入れ、そして多様なステークホルダーとの協働により環境問題を解決しようとする「流域ガバナンス」の方向にも、少しずつ少しずつシフトして間口を拡大していくことになります。
■ヨシ群落の保全については、「ヨシが琵琶湖の水を浄化する」という言説がよく見られます。ヨシが水中の栄養塩を吸収するというのです。しかし、栄養塩を吸収するのはヨシに限ったことではありません。しかも、ヨシは生えている堆積物から栄養塩を吸収します。また、そのまま放置しておけば枯れて水中で腐敗します。このような有機物の腐敗は、水質を悪化させます。以前は、人がヨシを刈り取り利用し、ヨシ原には火入れをして新たなヨシが生えてくるようにしていました。それは、琵琶湖のためというよりも、自分たちの生活のため、生業のためにそうしていたのですが、そのような人が関わることが、結果として、琵琶湖の水質維持にも一定程度寄与していたと考えられます。それにもかかわらず、どうして「ヨシが琵琶湖の水を浄化する」という言説が流布しているのか。そのあたりの事情の一端は、時間を遡れば、「滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例」が誕生した当時の環境政策を巡る状況にあるのかもしれません。では、ヨシ群落の保全に、どのような新しい視点を入れて行けばよいのか。今回とは別の投稿で述べたいと思います。
「魚のゆりかご水田」プロジェクトに関する調査
■月曜日、東京にある日本獣医生命科学大学の桑原考史さんと一緒に、滋賀県長浜市の早崎町に伺いました。そして、早崎町で取り組まれている「魚のゆりかご水田」プロジェクトに関して、faceookのお「友達」でもある早崎町在住の松井賢一さんと早崎町農地水事務局長の中村さんからお話しをお聞かせいただきました。また、湖北農業農村振興事務所でも担当県職員の皆さんに行政からの支援に関してお話しをお聞かせいただきました。ありがとうございました。非常に勉強になりました。
■ところで、「魚のゆりかご水田」プロジェクトとは何かというご質問があるかもしれません。このプロジェクトの詳細については、滋賀県庁の解説をお読みいただければと思います。
■写真は、早崎の「魚のゆりかご水田」で設置される一筆魚道です。もちろん、現在、水田は雪に覆われていますので、一筆魚道を設置している写真は夏場に取られたものです。松井さんからいただきました。後者の方は、中村さんの作業場で松井さんに撮っていただいたものです。さて、この一筆魚道何ですが、1つ(1筆)の水田だけに魚が遡上できるようにしたものです。滋賀県内で取り組まれている「魚のゆりかご水田」プロジェクトでは、集落によっては、魚道も兼ねた堰を設けて水路ごと水位を高くし、魚を遡上させておられるところもあります。一方、こちら早崎町の一筆魚道はこんなに簡単な装置です。圃場整備を終えた水田の排水管にも直接つなぐことができます。また、その時々の水路の水位に応じて傾斜した魚道を上げ下げできます。傾斜した魚道部分に穴が複数空いていて、そこに棒を通して高さを調整できるのです。早崎町農地水事務局長の中村さんが製作されたものです。ひとつを製作するのに時間はかかりますが、安価にできます。これは、いわゆる一筆魚道と言われるものですが、転作の関係で「ゆりかご水田」を実施する水田が年とともに変わったとしても、簡単にこの魚道を移動させることができます。この土地ならではの、技術的な工夫です。少し大掛かりになる堰あげ魚道のばあいは、たくさんの方達が力を合わさなければ設置できません。ただし、共同作業をすることで、人のつながりが強化されるという側面もあります。一概に簡単に設置できるから良い…といった単純なものでもありません。早崎の場合は、転作等の事情が背景には存在しているのです。
■お話しを伺うなかでは、国の補助金を含めた環境保全型農業の支援制度、県の支援制度、集落を運営する上での事情、集落固有の環境特性、集落の歴史や文化…様々な事柄が、目の前でつながりながら複雑に動いていることを実感しました。そして、集落をどう守って行くのかを考え努力する「村づくり」の文脈の上で、行政からの支援をうまく「消化」することができるかどうか、集落をまとめていくリーダーをどういう仕組みで、なおかつ持続可能な形で生み出していくのか…その辺りも重要な鍵になっているように思いました。
■「魚のゆりかご水田」プロジェクトで生産されたお米は、農家の側からすれば「魚のゆりかご水田米」の認証を受けてプレミアム米として販売されていくことが望ましいわけですが、JA等では一定以上の生産量がないとプレミアム米として扱うことが難しいようです。少ない量だと通常の米と同じように扱われてしまいます。高く売ろうと思うと、農家の皆さんが個別の販路を通して販売するしかありません。まとまった量がいるということになると、地域社会の中で複数の集落がこの「魚のゆりかご水田」プロジェクトに取り組む必要が出てきます。地域内の集落連携が必要になります。なかなか難しい問題ですね。滋賀県内で、もっと「魚のゆりかご水田」米を食べていただき、食べることで琵琶湖を守ることにつなげていければ良いのですが…。
■東京方面でプレミア米を扱う、ある小売店では、「魚のゆりかご水田米」に人気が出てきたそうです。「魚のゆりかご水田米」を買い求める消費者の方は、本当にこの米が取れた水田で魚が成長したのかどうか、それをすごく気にされるのだそうです。生物多様性に配慮した農業は、魚に注目したもの以外にもあるわけですが、魚のばあいは、実際に米を生産している水田で孵化し外来魚に食べられにくくなる大きさまで成長することができます。そこが、他の生物と違うところです。意外に、これは重要なポイントかなと思っていますが、そのことはともかく、自分や家族の安心・安全だけでなく生物多様性にも関心を持つ消費者が価格が高くでも買い求めるようになっているのかも…しれません。しかし、そのような消費者が滋賀県内でもっと増えて行く必要がありますね。そのための、滋賀県内の流通の仕組みをもっと整備していく必要もあります。
■この東京のお話しをお聞かせいただいたとき、赤ちゃんの誕生祝いのお返しに「魚のゆりかご水田米」を送る方がおられるという話しも伺いました。「ゆりかご」と入っているから、赤ちゃんと結びつくのでしょう。面白いですね。プロデュースの仕方も重要ですね。こうなると、「魚のゆりかご水田」プロジェクトの上流(比喩的な言い方ですが)にある国や県の支援制度から、下流にある消費者に届くまでの流通の仕組みや、プロデュースの仕方に至るまで、全てを視野に入れたある意味で「総合政策」が必要になります。
■月曜日は、長浜市早崎町での調査を午前中に終え、午後からは滋賀県庁農政水産部農村振興課に向かいました。担当職員と「魚のゆりかご水田」プロジェクトを発案された生みの親の職員の方からお話しを伺いました。写真は滋賀県庁に向かう途中に撮ったものです。長浜市早崎町の水田は一面雪に覆われて真っ白だったので、そのあとは、東近江市栗見出在家と野洲市須原の「魚のゆりかご水田」を訪ねてみました。栗見出在家はやはり雪に覆われていましたが、さらに南にある須原までくるとだいぶ雪も融けていました。
■こちら、野洲須原の場合は、先ほど説明した堰あげ魚道を採用されています。「須原魚のゆりかご水田 せせらぎの郷」と書かれた看板の後ろにある水田の排水路をご覧ください。水田と排水路の間にある法面の一部がコンクリートで固められています。そこにスリットが入っています。ここに堰板を入れて水路の水位を高くするのです。この写真だとわかりにくいですね。詳しくは、上にリンクを貼り付けた滋賀県庁の「魚のゆりかご水田」のページをご覧ください。
地球研地域連携セミナー「地域の底ヂカラ 結ゆいの精神が育むいきものの多様性」
■総合地球環境学研究所の「地域連携セミナー」が、2月24日に甲賀市にある「かふか生涯学習館」(〒520-3414 滋賀県甲賀市甲賀大原中886)で開催されます。今回の地域連携セミナーは、コアメンバーとして参加している地球研の私たちのプロジェクトが中心なって企画を進めてきました。主催は地球研、滋賀県に共済を、甲賀市からは後援をいただいています。私は、同日のパネルディスカッションのコーディネーターを務めることから、今日は、「かふか生涯学習館」で最終の打ち合わせを行いました。
■今回の「地域連携セミナー」では、金沢大学名誉教授の中村浩二先生に基調講演をお願いいたします。ご講演のタイトルは、「里山マイスターの活躍による地域活性化-能登とイフガオ(フィリピン)での試み-」です。中村先生は、「角間の里山自然学校」、「能登半島・里山里海自然学校」、「 能登里山マイスター養成プログラム」の代表として石川県の里山里海の保全、総合的活用、地域再生に取り組んでおられました。また、フィリピン・イフガオ世界農業遺産の将来を担う人材を養成する「イフガオ里山マイスター養成プログラム」にも取り組まれています。今回の基調講演では、長年にわたる中村先生にご経験を元にお話しをいただく予定です。
■基調講演のあとは、私たちのプロジェクトと連携しながら、甲賀市甲賀町小佐冶の水田で「いきもの観察会」をしてきた、甲賀市立佐山小学校の児童さんに「いきもの観察会」の成果を発表していただきます。そのあとは、パネルディスカッションです。以下の概要にも説明してありますが、地球研のプロジェクトとの連携でお世話になっている小佐治(滋賀県甲賀市甲賀町)の環境保全部会の農家の皆さんにご協力をいただきます。県内の農業関係者には良く知られていますが、小佐治は特産品であるもち米の生産、そのもち米を活かした6次産業化の活動で大変有名です。しかし、最初からそのような取り組みができたわけではありません。どのようにして、この6次産業化の取り組みを集落ぐるみで盛り上げてきたのか、村づくり・人づくりのお話しを中心にお聞かせいただこうと思います。そのような6次産業化の取り組みの延長線上に小佐治の里地里山の生き物の賑わいが生まれているのです。最初に「いきものの多様性」という課題があったわけではないのです。
■パネルディスカッションには、このような小佐治の取り組みに向き合い、農家の皆さんと超学際的研究を進めてきた淺野悟史さん(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 研究員)からも報告していただきます。また、このような内陸部での「いきものの多様性」に関する取り組みに対して、琵琶湖に接する沿岸地域で「いきものの多様性」の問題に取り組んできた漁師の松沢松治さん(マザーレイクフォーラム運営委員長)からもご報告をいただき、内陸と沿岸との地域連携のあり方について、ご意見をいただければと思います。
■このような基調講演とパネルディスカッションのサイドイベントも開催されます。最後には、小佐治の「甲賀もち工房」の皆さんによって餅つきが行われ、ぜんざいも振舞われる予定です。
テーマ 地域の底ヂカラ 結ゆいの精神が育むいきものの多様性
概 要
甲賀の大地に広がる古琵琶湖の肥沃な土壌は豊かな自然や生きものを育み、伝統的な生業や文化を培ってきました。しかし、中山間地域では、農家の減少や高齢化、後継者不足が進み、耕作放棄地がみられるなど、集落の存続が懸念されています。さらに、里山などの身近な自然環境にも人の手が入らなくなるため荒廃が進み、かつてみられた生き物のにぎわいも少なくなっています。
本セミナーでは、身近な自然の価値に共感・共鳴し、その恵みを将来の担い手に受け継いでいくために、結の精神で集落をまとめ、農業の6次産業化や、豊かな生き物を育む水田作りに取り組む甲賀の小佐治地区の事例を紹介しながら、中山間地の農業・農村集落の未来について皆さんとともに考えます。【プログラム】
◆サイドイベント
12:00-13:00
・入賞作品展示
平成29年度「田んぼ大好き ふるさと農村子ども絵画コンクール」
・ポスター・パネル展示
小佐治での活動紹介
世界農業遺産認定をめざして-琵琶湖と共生する滋賀の農林水産業-しが棚田ボランティア
・地域特産品フェア
・いきもの展示
谷津田のいきもの観察
・映像とジオラマ展示
魚のゆりかご水田プロジェクト
・映像展示
甲賀のふるさとを映像で見てみよう
◆第一部
13:00 - 13:10 開催挨拶
13:10 - 13:20 趣旨説明
奥田 昇 総合地球環境学研究所 准教授
13:20 - 14:20 講演1
「里山マイスターの活躍による地域活性化-能登とイフガオ(フィリピン)での試み-」
中村浩二 金沢大学客員教授(名誉教授)・能登里海里山マイスター
休憩(20分)
◆第二部 14:40 - 15:50
発表
いきもの観察会の成果発表 甲賀市立佐山小学校 児童
淺野 悟史 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 研究員
パネルディスカッション
淺野 悟史 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 研究員
河合 定郎 農業法人有限会社甲賀もち工房 代表取締役
松沢 松治 マザーレイクフォーラム運営委員長
コメンテーター
中村 浩二 金沢大学 客員教授(名誉教授)
奥田 昇 総合地球環境学研究所 准教授
コーディネーター
脇田 健一 龍谷大学 教授
プロジェクト骨格会議
■昨日は、明日10時から晩の19時半まで、京都の上賀茂にある総合地球環境学研究所で、参加しているプロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会-生態システムの健全性」の「プロジェクト骨格検討会」が開催されました。もうじき、研究所内で、評価委員会が開催されます。国内外の審査委員の前で、プロジェクトリーダーがプロジェクトの進捗を報告して、審査委員からの質疑や意見に対応しなければなりません。そのようなこともあり、プロジェクトのコアメンバーが集まり、プロジェクトにブレがないか、「穴」はなのいか、そしてメンバー間に認識のズレはないか、根本的な点にまで立ち戻って、プロジェクトの「骨格」を再度チェックしました。
■なかなか厳しいやり取りもありましたが、なんとか問題点を抽出して整理し、クリアにして終了することができました。同じ専門分野、近い専門分野だと、このようなことをする必要はないのかもしれません。しかし、自然科学から社会科学まで専門分野の異なる研究者が集まってプロジェクトの取り組んでいるので、度々、こうやって根本の骨格にまで戻って確認を繰り返して行く必要があるように思います。そこが良いところでもあるわけですが、なかなか大変なのです。
■これに耐えられない人(嫌な人)は、個別ディシプリンに基づく環境研究プロジェクトはできても、相互に緊張感を孕みつつも、自分たちの持つ専門性を補完的に活かし合うような、総合的な環境科学研究は避けて通ることになります。加えて、このような総合的な環境科学に関する研究をきちんと評価できる学会がまだありません。時間もエネルギーも必要になります。多くの人たちは、コスト・ベネフィット的に見合わない(時間とエネルギーが必要な割には、成果の産出や評価の獲得が難しい)と判断すると思います。ですから、プロジェクトの内部の「何か」に、さらにはプロジェクトを通して見えてくる社会の「何か」に、強くコミットしている必要があります。
■骨格検討会の後は、プロジェクトのメンバーと内湖の調査に関して意見交換を行いました。いやはや、なかなかハードな1日でした。
プロジェクトの研究成果の出版
■今日は、総合地球環境学研究所のプロジェクトの研究成果を書籍として出版するために、京都の本づくりのプロがおられる某所へ向かいました。その前に、腹ごしらえ。京阪三条で昼飯を摂ることにしました。京阪三条駅近くの「篠田屋」に行くことを思いついたからです。このお店の名物である「皿盛」を注文しました。この「皿盛」、ご飯の上にカツを乗せ、そこにカレーうどんの餡をどろりとかけたものです。和風の出汁とカレーの風味がミックスして、「なるほどここにしかない名物」だなと思いました。餡は、片栗粉のとろみでしょうか。普段だと食べないけれど、この日は、ご飯をしっかりいただきました。フルマラソンに備えてのカーボローディングですね。
■さて、京都の本づくりのプロがおられる某所には、総合地球環境学研究所のプロジェクトのコアメンバー会議で承認された企画案をもって行きました。プロジェクトのサブリーダーである京都大学生態学研究センターの谷内さんと一緒です。こちらでは、過去の出版の際にも、いろいろお世話になったのですが、今回は果たしてどうなるのだろうと思っていたところ、事前に企画案をお送りしてあったこともあり、編集長と担当の編集者の方には、本の目的や意図、その構成・目次案等について、おおいに関心を持っていただけたようでした。安心しました。また、有益なアドバイスもいただけました。いよいよ作業をスタートできるようなので、ひとまずは安心です。今後はいろいろ相談をしながら、プロジェクトのメンバーで執筆を進めて行くことになります。うまく出版でき多としても、それはまだ先のことになります。今日は、さらに翻訳して海外でも…という話しをしたわけですが、そういうことになると、さらに長丁場になるでしょう。翻訳のための費用も確保しないといけないし…。そうやっているうちに、定年まで後数年ということになるのかもしれませんね。
琵琶湖の水草問題に取り組むプロジェクト(その7)
■今日の午前中、琵琶湖・南湖の水草問題のプロジェクトの活動に取り組みました。分野やセクターを超えた協働のネットワークを創出するために、いろいろな方達に相談をする日々が続いています。今日、まずは、大津市役所の企画調整課を訪問しました。大津市役所には、水草問題にストレートに対応する課はありません。それぞれの担当エリアに発生する水草問題を、それぞれが別々に予算要求して対応にあたっておられるのです。環境政策課、廃棄物減量推進課、公園緑地化、道路・河川管理課、観光振興課。いろんな課にまたがっているのです。ということで、企画調整課にはいろいろお世話になっています。将来は、大津市役所内部だけでなく、滋賀県庁琵琶湖環境部、さらには農政水産部との連携も必要になると思っています。連携すれば創造的な取り組みができるはずです。例えば、南湖水草問題協議会のような連絡調整組織があればいいのにな〜とも思っています。
■晩は、真野浜に隣接する自治会の会長さんたちに、プロジェクトの取り組み内容についてご説明するとともに、連携・協働のお願いをさせていただくことになりました。この「晩の部」の会場は、大津市の真野市民センターでした。家人がチェロのハードケースを車に乗せて市民オーケストラの練習に行ったので、車が使えません。移動手段は、「電車と徒歩」、あるいは「ランニング」ということになります。ということで、当然(⁈)、後者のランニングを選択しました。とはいっても、ランニングウェアではないので、汗をあまりかかない程度のゆる〜いスピードでのジョギング。というのも、会議資料を入れたショルダーバッグを袈裟懸していたし…。自宅から真野市民センターまでは、4.5kmぐらいでしょうか。ゆっくりしたジョギングでしたが、それでもやはり汗は出てしまいました。
■市民センターには、プロジェクトの仲間であり、真野浜で民宿「きよみ荘」を経営されている山田さんがお越しくだいました。そして真野学区、真野北学区の自治連の会長さん、真野学区の地域の方、それから支所長さんや市会議員の藤井さんもお越しくださいました。私たちが取り組む水草プロジェクトの取り組みの内容についてご説明させていただきました。
■みなさん、とても丁寧に耳を傾けてくださり、非常に前向きに受け止めていただいたように思いました。感謝です‼︎ 今日は、真野と真野北の皆さんだけですが、近日中に堅田学区の方にもご説明とお願いに上がる予定です。来年の2月には、葛川から真野、堅田、仰木までを含む西北部地区のゴミ問題に関する市民会議で、水草問題のお話しもさせてもらうことになりました。地域社会での水草の有効利用の仕組み(小さな循環)が、単なる有効利用を超えて、もっと別の価値を生み出し、地域の共助の仕組みをさらに豊かにしていくことにつながれば…と一生懸命説明させていただきました。気持ちが通じたと思います。嬉しいです。今は詳しくは書けませんが、いつかこのブログでも説明させてもらいます。
■琵琶湖に関わるようになって27年。龍谷大学瀬田キャンパスに勤務して14年。滋賀県民・大津市民になって1年9ヵ月。龍谷大学に勤務するようになってから、地域社会での活動や行政の仕事を通していただいたご縁の中で、このような水草問題の取り組みもスムーズに進んできているような気がします。ありがとうございます。今、私は、この水草のプロジェクトを研究者として取り組んでいるのか、地域住民ないしは市民として取り組んでいるのか、そのあたりの境目も曖昧で微妙になってきた。それが心地よいです。これは菊地さんがいうところの、「レジデント型研究者」というやつなんでしょうか。まあ、そうかどうかは別にして、少しずつ着実に前進しています。人生の第4コーナーを回って、いよいよ残りは直線100mです。
水草のこと、世界農業遺産のこと
■今日は、午前中、大津市の皇子山にある大津市公園緑地協会と、堅田の真野浜の「きよみ荘」を訪問しました。両方とも、琵琶湖・南湖の「水草問題」関連での訪問です。民間の力を主体に琵琶湖・南湖の水草問題を解決するための取り組み、少しずつでしかありませんが前進しています。写真は、その真野浜から撮ったものです。普段は対岸や比良山系が美しく見えるわけですが、今日のように湖と空の境目がわからない様な、こういう「水墨画」ような風景も素敵だなと思います。
■午後からは滋賀県庁に移動しました。滋賀県は、現在、世界農業遺産に向けて申請準備を進めています。私は、その申請準備のアドバイザーを務めています。今日は、その申請書の作成をアドバイザーとしてサポートさせていただきました。午後は県庁にこもって仕事をしました。職員の方達とじっくりディスカッションもできました。職員の皆さんは、様々な分野の専門家から、申請に必要な情報や視点に関していろいろヒアリングをされています。そのような、ヒアリングから得られた情報についても考慮しながら、ディスカッションの中で浮かび上がってきた難しい課題を、なんとか乗り越える道筋が見えてきました。安心しました。集中し過ぎて首や背中が凝ってしまいました。結局、今日は「水草問題」と「世界農業遺産」で1日を終えることになりました。両方とも、琵琶湖に関わる事柄です。人生の最後のコーナーで、なかなか愉快です。400mトラックでいえば、300m超えたあたりです。あとは残りは、直線100m。頑張ります。
報告会に向けの準備
■今日は朝一番から総合地球環境学研究所に向かいました。少し寝坊をしたので、いつもは電車・地下鉄・バスで移動するのですが、今日は自家用車です。自宅からだと、いわゆる途中越えと呼ばれるルートで地球研に向かうことになります。慣れない道で、少し遅れての到着になりました。今日の会議の目的は、近々開催される所内の研究経過の報告会に備えて議論をして報告内容をブラッシュアップする殊にあります。月曜日の会議に続いての会議になりました。月曜日の会議のディスカッションでホワイトボードに生み出された「デッサン」(プロジェクトの地球環境問題研究の中への位置付け)を、今日の議論では組み込んで、報告会の予行演習とディスカッションを行いました。前回よりも前進したように思います。
■ふと横を見ると、京大生態研の谷内茂雄さんの手元には、谷内さんと取り組んだ以前のプロジェクト(琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築)の報告書が置いてありました。地球研における超学際研究(TD研究)の蓄積を検討する研究のための資料になるようです。「地理的スケールに応じたCo-designとStakeholder engagementの方法論」。私は存じ上げませんが、大西有子さんという助教の方が取り組む予備研究(fs)のようです。資料は、10年ぐらい前のものです。懐かしいですね。昔の資料、ある意味で「歴史的な資料」になるわけですが、新しいプロジェクトに役立てば何よりだと思っています。
第12回地球研国際シンポジウム「持続可能性におけるスケールと境界―真の問題解決をめざして―」
■総合地球環境学研究所が、第12回地球研国際シンポジウム「持続可能性におけるスケールと境界―真の問題解決をめざして―」を開催します(2017年12月20日(水)・21日(木)/国立京都国際会館 Room D)。総合地球環境学研究所の私たちのプロジェクトは、このシンポジウムの「Session1 空間を超えた関係性」と深く関わっています。以下は、このシンポジウムの開催趣旨です。
このシンポジウムでは、時間と空間を超えて、ステークホルダーの間における資源、価値やガバナンスにおけるコンフリクトに 焦点を当てた、持続可能な未来への新たなアプローチについて考えます。
現状の、地域におけるコモンズの悲劇に対する理解の背後には、認識され解決されるべき、地域・国・地球規模の間のコンフリ クトやシナジーのような超空間的な課題や、過去・現在・未来を包含する超時間的な課題が存在します。そのなかで、自然・社会・ 制度的な資本・資源の保護、またその開発についての分析が新たな研究の方向性への鍵となります。
ここでは特に、シナリオ開発や統合化指標、社会-環境-経済モデルを利用して、気候変動や土地不足状況下での水関連の課題 を取り上げます。
■現在参加している「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会-生態システムの健全性」では、流域の環境問題考えていく上で、「異なる空間スケールに分散するステークホルダー間に発生するディスコミュニケーション」という問題に注目しています。これは、流域だけでなく、地球環境問題を考える上でも、非常に重要なポイントになってきます。この原理的な問題意識については、以前参加していた総合地球環境学研究所のプロジエクト「琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築」から継承してきたものです。以前のプロジェクトの成果は『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』(京都大学学術出版会)にまとめています。この成果本の中で、流域における空間スケールの違いが生み出す問題を、「階層化された流域管理」という考え方・理論的な枠組みを提案しています。
■今回のシンポジウムの「Session1 空間を超えた関係性」では、ステークホルダーの間における資源、価値やガバナンスにおけるコンフリクトに焦点を当てる予定になっています。私たちは、この空間スケールの問題に先駆的に取り組んできましたが、今回のシンポジウムからも研究プロジェクトを深化させていくためのヒントが得られるのではないかと考えています。同時通訳もあるようです。環境問題に関心をお持ちの皆様、ぜひご参加ください。私も、20日だけですが参加する予定です(21日は、残念ながらすでに予定が入っています)。