「認知症になっても死ぬまで芦屋小雁でいたい」

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◾️喜劇俳優の芦屋小雁さんが認知症になりつつも、ご夫婦二人三脚で歩まれているドキュメンタリーを、たしか昨年だったと思いますがNHKの「NHKハートネット」という番組で視たように記憶しています。とても印象に残りました。その番組の内容を記事として読むことができることを知りました。「認知症になっても死ぬまで芦屋小雁でいたい」という記事です。70年にわたり喜劇俳優として活躍されてきた芦屋小雁さんも、84歳になられたとか。それはそうですね、自分が還暦を超えているのだから。小雁さんは、血管性認知症とアルツハイマー型認知症の合併型であることを公表されました。現在は、30歳年下の奥様と一緒に俳優の仕事をしながら京都に暮らしておられます。詳しくは、記事をお読みいただきたいのですが、妻の寛子さんは、夫である小雁さんを俳優としてもものすごく尊敬されていることがよくわかりす。俳優である芦屋小雁が大好きなんですね。

◾️記事を読んでいて「あっ!」と思ったのは、特に記事の最後、以下のところです。

小雁さんはシニア向け演劇教室「元気☆塾」で指導も行っています。教室には、小雁さんの大きな「よーい、はい!」の掛け声が響きます。

小雁さんと寛子さんは、地域の行事にも積極的に顔を出します。地蔵盆に浴衣姿で現れた2人に、町の人々は次々と声をかけたり、握手を求めたり。小雁さんの人気は健在です。

女性:「がんばってや小雁ちゃん!」
小雁:「ありがとうございます。」
女性:「また舞台出られるように!」

大きな劇場に出て拍手をもらうとね、当然それは芦屋小雁だと思うんですけど。そういう機会がどんどんなくなっていった時に、やっぱり地域の方々と触れ合う。正直に色んなことをオープンにしていって、病気があってもどんな姿になっても、最期まで芦屋小雁でいるっていうことが大事なんじゃないかと。」(寛子さん)

認知症であることをオープンにして、最期まで“芦屋小雁”として生きていく。
それが、小雁さんと寛子さんの、ふたりらしい認知症との向き合い方なのかもしれません。

◾️六車由実という方が執筆された『驚きの介護民俗学』という本があります。六車さんは元々民俗学者で大学の教員をされていましたが、その後、老人福祉施設に勤務され、その時の経験を元に本を執筆されたのです。その本の中に、六車さんが、認知症になられた方のライフヒストリーを聞き書きされることを記述した箇所があります。記憶が曖昧なのですが…。戦前、台湾で製糖工場にお勤めだった技術者の方が、日常生活では認知症の症状が進行しているにも関わらず、自分の人生で輝かしく誇りに思える過去の記憶を語り始めると、ものすごくしっかりしてきて細かなところまで語られる…というような内容だったと思います。社会の中に重要な自分の役割があり、そういう自分を社会の側もきちん評価してくれていたという経験が、人間には大切なのかもしれません。

◾️記事にはありませんが、この記事のもとになった映像では、小雁さんが演劇教室で指導されている様子が映っていました。すごいんです。その時の小雁さんは。どう見ても認知症の老人には見えません。細かな微妙な点について指導を行う、演劇の指導者なんです。小雁さんは、過去ではなく今も現役の喜劇俳優です。いつまでも喜劇役者としてきちんと社会とつながっていたい、人びとから役者として期待されたい、そう思っておられるのでしょう。タイトルの通り「認知症になっても死ぬまで芦屋小雁でいたい」のです。そして、そういう自分の夫を、妻の寛子さんは、尊敬し愛おしく思いつつ、「わたしのことがわからなくなるまで一緒に暮らそう」と覚悟を決めて支えておられるのですね。

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