日本生態学会での学会発表

■昨年に引き続き、共同研究者の谷内茂雄さんが、3月に開催される日本生態学会で学会発表を行います。もちろん、私は日本生態学会の学会員ではありませんが、共同研究者として名前を連ねています。今回の発表の基本にある考え方は、これまで谷内さんと一緒に取り組んできた、総合地球環境学研究所での2つの研究プロジェクトをベースにしているからです。1

■1つは「琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築」です。このプロジェクトでは、「階層化された流域管理」という考え方をもとにしています。2009年に『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』(和田英太郎監修/谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥編、京都大学学術出版会)にその研究成果をまとめることができました。2つめは、現在、取り組んでいる「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会-生態システムの健全性」です。この2つめのプロジェクトでは、流域内のコミュニティにおける地域再生活動を支援しつつ、それらの活動が結果として生物多様性や流域内の物質循環を結びついていく道筋を探っています。ここでは、「階層化」という言葉は使っていませんが、以上の2つのプロジェクトは、流域のもつ空間スケールが流域内部のステークホルダー間のコミュニケーションを阻害するという点を問題にしています。

■谷内さんは数理生態学者なので、私とは研究のアプローチが違うわけですが、上記のような問題意識を共有しながら共同研究を進めています。以下は、「講演要旨」です。

日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract

一般講演(口頭発表) I01-06 (Oral presentation)

地域再生が流域スケールの生態系再生を促進するメカニズム

*谷内茂雄(京大・生態研), 脇田健一(龍谷大・社会)

河川生態系や湖沼生態系の再生には、水循環と物質循環の自然な単位である流域を空間単位にとる流域管理が有効とされる。しかし、生態系には多様な人が生活しているのが普通であり、生態系を管理する空間スケールが大きくなるほど、その中に含まれる人とコミュニティ(地域社会)の多様性は増してくる。たとえば、流域を流れる河川の上流と下流に位置するコミュニティでは、基盤となる生態系が大きく異なる。流域管理の主な困難のひとつは、流域スケールでの流域管理課題と流域内の多様なコミュニティが抱える課題の違い(ミスマッチ)から生まれる。いかにこのミスマッチを克服するかは、流域管理に限らず、大スケールの生態系管理に共通する大きな課題である。
 本講演では、まず流域のひとつのコミュニティが地域の生物多様性(地域の生き物・自然)の再生をおこなう活動を通じて、コミュニティ自体の活力や豊かさを回復する(地域再生)とともに、コミュニティスケールの生態系再生(物質循環など生態系機能の再生)を促進するメカニズムについて、琵琶湖流域における取り組みとともに紹介する。しかし、コミュニティスケールにおける生態系再生が、そのまま流域スケールの生態系再生につながるわけではない。その過程では、流域内の多様なコミュニティが推進する再生活動と、より大きなスケールで流域管理を推進する多様な主体(市町村や都道府県、国、NPOなど)との相互作用がうまく育っていく必要がある。発表では、このようなシナリオを成り立たせるガバナンスのモデルについて論じる。

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