再掲「川・霧・地震・水・竹―ウイスキーの背景―」(2008/11/4)

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▪︎大学の本部のある深草キャンパスの近くに、「軍人湯」という銭湯があります。まだいったことはありませんが、その名前が気になっています。伏見区の深草には、「大日本帝国陸軍第十六師団」が存在していました。この十六師団の練兵場の跡地は、現在、龍谷大学の深草キャンバスと京都府警警察学校になっています。そういうわけで、龍谷大学の周囲の伏見区の深草界隈は軍事的なエリアでもありましたて。さて、「軍人湯」ですが、京阪の駅としては藤森駅の近くになります。かつて、この銭湯の周囲には兵舎が並んでいたてことから、このような銭湯の名前になっていようなのです。興味深いですね。大学のある伏見区、深草界隈の近現代の歴史について、もっと勉強してみたいと常々思っています。

▪︎さて、この「軍人湯」に関して短い投稿をfacebookにしたのですが、すると同僚の先生からコメントをいただきました。「銭湯も京都名物のようですね。京都通の旅行者によると『地下からくみ上げた水がまろやか』なんですって」。それに対して、「しかも京都の地下は、巨大な水瓶ですからね‼︎」とお返事しました。そうなんです。京都は地下水が豊富なんです。そうリプライさせていただいたとき、現在は「塩漬け状態」になって更新が停止しているブログに、「川・霧・地震・水・竹―ウイスキーの背景―」という記事を投稿していたことを思い出しました。2008年11月4日に投稿したものですから、もう7年近く昔のことになりますね。せっかくですから、その記事をここに掲載することにしました。以下が、その記事です。本文中に登場する「ryotaさん」とは、当時の私のブログにいつもコメントをくださっていた方です。いろいろ深い見識をお持ちの方で、私自身、ryotaさんのコメントをいつも楽しみにしていました。

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■少し前のことになりますが、エントリー「サントリー・オールド」(2008/10/19)に、ryotaさんから今回は以下のようなコメントをいただきました。ryotaさんは、このブログが扱う、かなり広い意味での「環境」の話題に対して、いつも前向きにコメントをくださいます。
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「名酒がつくられる場所は人間にとっても気持ちのいい場所なのだろうか?というテーマだと各地の酒蔵を巡ったりして楽しく追求できそうだなと想像しています。」

「『アースダイバー』ふうにみると、『山崎』というのは天王山の『崎』、三川合流に臨んだ『サッ』に位置する特別な場所といえるのかもしれません。」
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■いただいた2つのコメントのうち、前者については、中国でいうところの「気」の問題とも深く関係していると思いますし、このテーマでアースダイビングしてみると、飲兵衛の私のばあい趣味と実益(という趣味)をかねていて大いに結構ということになるのですが、悲しいことに、そのアプローチを深めていくだけの知識や教養がありません(アースダイビングについては、ちょっと読むのが大変かもしれませんが、こちらをご覧ください)。後者については、「あっ…」と、ちょっと驚きました。山崎は、天王山という山の先っちょ、ということですよね。う~ん、そうか。このブログで、ずいぶんアースダイビングなんて書いてきたにもかかわらず、私には、そういう発想がありませんでした。ryotaさんからいただいたコメントに、真正面からお応えすることができないわけですが、それでも、非力なりに少しだけ書いてみたいなという気持ちになりました。サントリー・オールドの背景について書いてみることにしました。

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■上の画像をご覧ください。トップの写真に、少しばかり知名等を入れてみました。ここは、桂川、宇治川、木津川の3つの河川が合流する三川合流地点です。この三川合流地点あたりの北西(左上)には天王山が、そして南西(右下)には男山があります。天王山については、Wikipediaでは、次のように解説しています。
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京都盆地の西辺となる西山山系の南端に位置し、東の男山とのあいだで地峡を形成する。この地峡には、桂川・宇治川・木津川が合流して淀川となる川の流れに沿って、右岸にJR京都線(東海道本線)、東海道新幹線、阪急京都線、国道171号(旧西国街道)が、左岸に京阪本線、旧国道1号(現・府道13号京都守口線、旧京街道)と、かつて水上交通路であった川筋をふくめて、近畿最大の大動脈である京阪間のほぼ全ての交通路が含まれる。また、その京都府側では名神高速道路の大山崎JCT/ICがあり、名神高速道路のバイパス機能を持つ京滋バイパスが宇治・滋賀(名神瀬田東JCT)方面へ分岐する。

また、当地は、豊富な地下水に恵まれており、南麓の大阪府側にサントリー山崎蒸留所が所在することでも有名。関西地方では名神高速道路の渋滞箇所で有名な天王山トンネルの知名度が高い。
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■この「地峡を形成する」ってとこが、なんだかすごいな~。これまで、地峡だなんて考えたことはありませでしたから…。wakipediaの定義は、「二つの陸塊をつなぎ、水域にはさまれて細長い形状をした陸地」です。地峡といえば、スエズ地峡やパナマ地峡しか頭に浮かびませんでしたから…。この天王山、本能寺の変で織田信長を討った明智光秀と羽柴秀吉が戦った「山崎の戦い」で有名です。スポーツの勝敗の行方に関して、よく天王山という言い方をしますが、ここからきています。といっても、お恥ずかしいお話しですが、そのことを知ったのはずいぶん大人になってから、それもオジサンと呼ばれてもよい年齢になってからでした…。まあ、こんなふうに書いても、ご理解いただけるのは、関西在住の皆さんということになりますから、少し、全体の状況がわかるように、もう一枚画像を用意しました。現在は干拓されましたが、かつて存在した巨椋池のおおよその位置も円で示しておきました。

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■このような地形の特徴をご理解いただいたうえで、次の説明をお読みいただけますでしょうか。以下は、サントリーのサイト内にある「ジャパニーズウイスキー物語 第二話 研鑽が生んだ傑作」にある説明です。
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鳥井信治郎はスコッチ製造法に関する文献から、土地の重要性を学んでいた。良い原酒は良い水が生み、良い熟成は良い自然環境なしにはあり得ない。その確信をもとに、全国の候補地から選ばれたのが京都郊外の山崎だった。
山崎は北に天王山を背負い、対岸の男山をはさんで桂川、宇治川、木津川が合流する。三川の水温が異なる上に、大阪平野と京都盆地が接する、狭まった自然の関門にあるため霧が発生しやすい。この湿潤な気候が貯蔵熟成に好影響を与える。
また千利休の愛した水がある。天王山に広がる竹林の下からは良質な水が湧き出している。利休はこの清水で茶を点て、侘び茶の第一歩を記している。
最終的にはこの水が決め手となった。当時のスコットランドの醸造学の権威、ムーア博士から「山崎の水は、ウイスキーに最適の水」の検査報告を得られた。
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■なるほど~。霧ですか。霧が生みだす湿度がウイスキーの熟成に必要なわけですか。「狭まった自然の関門」、つまり上でみた地峡ですね。それから「三川の水温が異なる」ってところがポイントのようです。調べてみると、霧の発生には、①空気中に凝結核が多い、②水蒸気量が十分である、③空気を冷却する、この3つの条件が必要だといいます。この3つの条件についてはよくわかりますが、三川の水温が違うとどうして霧が発生しやすいのでしょうか。う~ん、わかるようで、ちょっとわからない部分があります…(ちょっと、理解できなくて気持ち悪いのですが…どなたか教えてください…)。まあ、それはともかく、サントリー山崎蒸留所の水野めぐみさんが運営されているブログ「山崎蒸留所ブログ」のエントリー「霧の山崎」で、この霧が発生している状況をご覧いただけます。

■さて、もうひとつは水です。さきほどのサントリーの解説では、「天王山に広がる竹林の下からは良質な水が湧き出している。利休はこの清水で茶を点て、侘び茶の第一歩を記している」とあります。この点についても、少し調べてみました。尾池和夫さんのホームページのエッセーで興味深い記述をみつけました。尾池さんは、京都大学の総長をつとめられた地震学者ですが、俳人でもいらっしゃいます。月刊俳誌「氷室」に、「京都の地球科学」という連載エッセーを、1994年5月からずっと続けておられます。この連載の23番目のエッセー(1996年3月号)「京都の水」です。
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京都の有名な茶席を市の地図に記入すると、それらは南北に三列に並んでいることがわかる。東山の山麓に、北は大原三千院から、銀閣寺の東山殿お茶の井、菊の井、清水寺の南の延命水、東福寺、その南の金湧水まで並ぶのが花折断層系、市中の裏千家、表千家から菊水、芹根井までの列が伏流水、西の天竜寺や西芳寺が西山断層系の水である。
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■う~ん、なるほど。尾池さんの解説を地図に落とすと、上の画像のようになります。黄色が花折断層系、水色が伏流水、ピンクが西山断層系です。じつにはっきりわかります。気になったところを、大変乱暴にまとめると…。
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①「京都の名産である京扇子」

②「原料は竹」

③「竹は活断層の破砕帯や扇状地の補強のために植えられる」。
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それから…
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①「水と地震は深い関係にある」

②「おいしい酒が作られる所は大地震の起こる所である」(伏見の地下水=伏し水)

③「千年から数千年に一度ずれた活断層に沿って岩盤は深くまで破砕されていて、そこを地下水が大量に流れている」

④「天王山麓の山崎蒸留所と千利休の妙喜庵」

⑤「有馬-高槻構造線は、大地震を繰り返し起こしてきた活断層」。
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■いや~、竹と水と酒(伏見の日本酒、山崎のウイスキー)がつながってくるわけですね。サントリーのホームページのなかで、作家・椎名誠さんの「シングルモルトウイスキーの旅」というタイトルのエッセーを読むことができます。その第5回目は「山崎 勇躍編」です。ここにも竹のことが登場します。椎名さんは、山崎蒸留所の裏山を登ったときのことをレポートされています。その最後には、「山崎峡は昔から豊富な竹林に覆われて、これが良質の水を蓄えていた。その湧水がうまいウイスキーのもとになる」と書かれています。しかし、尾池さんの説明によれば、竹が良質の水を蓄えてきたというよりも、「竹は活断層の破砕帯や扇状地の補強のために植えられ」たのであり、「活断層に沿って岩盤は深くまで破砕されていて、そこを地下水が大量に流れている」ということになります。なるほど~。勉強になります。冒頭に書きましたように、ryotaさんからいただいたコメントとうまく結び付けてエントリーすることはできませんでしたが、個人的には、いろいろ勉強になりました。そういう意味で、ryotaさんに感謝、です。

■このような話題は、社会学とはまったく関係のないことであり、地理学や地学等の話題になってくるわけですが、私自身は、それぞれの地域の社会を特徴づけているこのよう制約条件は、環境社会学の枠組みのなかで考えていることともつながっていると思っています。近代社会は、このような環境がもつ制約条件を制御する方向で展開してきました。実際には、「制御できている」と思い込む方向で…という方が、より正確かもしれませんね。そして、近代社会から生まれた社会学も、このような制約条件を無視しがちです。しかし、環境の研究を進めていると、普段は無視している/気が付かないそのような制約条件を、強く意識せざるを得ないことがたびたびおこります。

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