中津川市での「地域づくり型生涯学習」

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■2月23日(日)・24日(月)の両日、岐阜県の中津川市にいってきました。中津川市は、長野県に隣接する自治体です。有名な木曽の馬籠も、中津川市にあります(長野県にあるように思いますけどね)。もちろん、観光ではなく仕事です。中津川市での取り組まれている地域づくりのお手伝いです。

■関西に住んでいる私と、長野県に隣接する中津川市とのあいだに、どうして地域づくりの「ご縁」が生まれたのか。そのあたりから少しお話しさせてください。そもそも、岐阜県の地域社会とかかわるようになった事の発端は、愛知県庁が企画した「団塊世代提案型地域づくりモデル事業」のイベントでした(岐阜県ではなく、愛知県なんですね)。そのイベントで短い講演をしたのですが、講演が終わって荷物をまとめて関西に戻ろうとすると、会場の後ろのほうから、私の方にむかってこられる方たちがお2人おられました。岐阜県の生涯学習センターの職員の方たちでした。私の講演の内容が、岐阜県で実施しようとしている「地域づくり型生涯学習」の内容にぴったりだ…とおっしゃるのです。

■ということで、社会教育のことなど、何もわからない私ですが、「地域づくり型生涯学習」の前半部分「地域づくり」に重点を置きながら、モデル事業の助言や講演をするために、岐阜県内のあちこちにでかけることになりました。岐阜市、各務原市、可児市、白川町、羽島市、郡上市、安八町、関市、中津川市…。岐阜県内の各地の皆さんと交流することができました。とても、楽しかったのですが、その事業が終了したこともあり、しばらく岐阜県にお邪魔することはなくなっていました。

■ところが昨年のことです。突然、中津川市の職員の方から地域づくりを手伝ってほしいというご依頼をいただきました。長年、中津川市で社会教育に携わってこられた職員のIさんからのご依頼でした。以前、中津川市で講演したときにもお世話になった方です。部下の方たちと、大学にも2回お越しいただきました。そして、中津川市の現状についてお話しをうかがいました。そのとき、これはお手伝いさせていただかなくてはと思うところがあり、ご依頼をお引き受けすることにしました(基本的に、いろんなご依頼をできるかぎり断らないようにはしていますが)。詳しくは、以下の過去のエントリーをまずはご覧いただければと思います。

中津川市の「付知GINZA会」のこと

■初日の23日(日)は、午前中は中津川市の福岡地区に、午後からは付知地区にお邪魔しました。両地区とも、10年前、中津川市に合併されるまでは、それぞれ別の自治体でした。「平成の合併と地域づくり」。一般論ですが、合併する以前、それぞれの地域固有の課題に焦点をあわせて行われてきた地域づくりや、その地域づくりを支援する行政の取り組みが行われていても、合併後は、地域づくりに対する政策のあり方自体が変化し、新しい自治体全体に焦点をあわせたものに変わってしまうため、それまでの地域づくりの活動がうまくいかなくなる/継続性がなくなってしまう可能性があります(そのため、多くの自治体では、旧自治体の範囲で「まちづくり協議会」を設置するばあいが多いようですが…。ただし、協議会をつくっただけでは…なんですね)。しかも、旧自治体のなかには、平成の大合併ではなく、昭和の大合併以前の旧・旧の町村が、地域づくりの枠組みとして強く残っているばあいもあります。政策の話しだけではありません。熱心に地域づくりの活動に取り組まれている人たちにとっても、合併前と後では、参加する地域づくり活動も異なってくるため焦点をどう絞ったらよいのか、よくわかりなくなってくることがあります。

■地域社会には、小さなコミュニティや集落レベル、小学校区レベル、中学校区レベル、以前の自治体レベル、新しい自治体レベル、重層的に重なりあう複数のレベルが存在しています。それぞれのレベルには、独自の課題があり、その課題に対応した地域づくり活動があります。それを担う団体やグループもあります。また、それぞれのレベルでは、課題に対する焦点の当て方もかわってきます。また、複数のレベルにまたがっている課題もあります。また、1人で複数のレベルの活動に関わっていることも珍しいことはではありません。すると、どこかにエネルギーを集中させたらよいのかわからなくなったりします。なかなか難しいものです(逆に、ここには隠れた「メリット」もあるのですが…)。

■さて、初日ですが、固有の事情や条件を抱えた福岡と付知の両地域で地域づくりの活動されている方たちから、「交流会」という形式でお話しを伺わせていただきました。ファシリテーターをしながら、それぞれの地域づくり団体の皆さんには、どのような思いから、どのような活動を展開されてきたのか、そして現在どのような悩みを抱えておられるのか…そのあたりのことを中心に、自由に気楽にお話しいただきました。両地区で「交流会」の雰囲気は少し違いましたが、楽しい時間を過ごすことができました。そのような交流会のなかで、参加した皆さんは、このような気楽に話しできる「場」が必要であることも認識されたようでした。これはたとえばの話しですが、何曜日の何時からどこそこにいけば、誰かが集まっておしゃべりをしている。そんな「場」で、相談をしたり、お願いをしたり、情報交換をしたり…。そんな特に目的をもたない「場」が必要なのです(公民館は、そういう「場」をもうけるのにうってつけの施設なのです)。

■ファシリテーターをしていることを忘れるほど、いろんな大切なお話しをお聞かせいただけました。各団体の皆さんは、顔は知っていて挨拶をする関係にはあっても、お互いにどんな活動をしておられるのか、何を考えておられるのか、そのあたりのことまではよくご存知ありません。お互いのあいだに「見えない壁」があるからです。男女の間、年齢の間、地域の間、団体間の間(異なる目的をもっと組織されていますから…)。「見えない壁」はいろんなところにあります。この交流会では、そのような「見えない壁」をできるだけ薄く・低くしていこうと思いました。お互いの悩みを聞きつつ、それを解決していくためには、どうしたらよいのか。お互いの横の「つながり」が必要だ、もっとお互いに協力できるんじゃないのか…という展開になっていきました。

■それぞれ得意とする自分たちの能力を活かしつつ、お互いに横につながることのなかで、地域の課題を解決していく…そのような方向性がお互いに確認できたのではないかと思います。地域の課題は、単独で存在しているわけではありません。複数の課題が相互にかかわりながら、構造化された問題群として存在しているのです。それらの問題群の解決のためには、様々な能力をもった方たちが、横に「つながり」をもちながら連携していくことが必要です。そうすると、「1+1=3」の相乗効果が生まれてきます。付知地区の皆さんは、まちづくり協議会のもとで活動しているせいでしょうか、お互いについてはそれなりにご存知でした。しかしながら、それでもあらためて「交流会」でお話しをうかがうと、お互いに初めて聞く類いの話しがたくさんあったようです。横の「つながり」をつくる「場」の必要性を感じていただけたのではないかと思います。これからも、両地区に通いながら、皆さんの「つながり」作りを応援できればと考えています(トップの写真は、付知での交流会の様子をパノラマで撮ったものです)。

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■2日めの午前中は、中津川市の中心地である中津に移動しました。中津川駅のそばにある「にぎわいプラザ」の会議室で、市内の公民館の職員、市役所職員の皆さん、そして子育てサポート養成講座修了生の会である「すくすくわくわくまあるいこころ」のメンバーの皆さんたちが参加されました。ここでは「講義」形式になりましたが、びっくりすることがありました。この日、司会進行やファシリテーターをつとめてくださったAさんは、以前、中津川市で行った私の「地域づくり型生涯学習」に関する講演をお聞きになっていたのでした。Aさんは、長年、社会教育に関する仕事をなさってこられました。私の講演を聞くことで、ご自分自身の経験がもっていた意味をより深く解釈することができた、これから進めべき方向性もよくわかった…とおっしゃるのです(結果として、エンパワメントされた)。Aさんは、その後、多くの女性たちが地域づくりの場で活躍できるように場や仕組みづくりに尽力されてきました。なんだか、ありがたいですね〜。嬉しいです。

以前のエントリーでこういうことを書きました。地域づくりに一生懸命になって(楽しみながら)取り組んでおられる方たちは、「味醂」という、地域づくりの「例え話し」をしてもすぐにピンとくるのです。深く理解してくださるのです。

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「料理に使ってみて、もう一度驚いた。野菜の煮物や煮豆も、柔らかな味が醸され、不思議なばかりにおいしくなるのだ。しかも味醂の味は表には出ず、素材を支える黒衣に徹する潔さ。それまであまり味醂を使わなかった私が、この味醂と出合って以来、野菜やひじき、豆などの乾物類、魚、といろいろな煮物にどに重宝し、欠かせなくなってしまった。」
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■ビビビッときました~。「味醂の味は表には出ず、素材を支える黒衣に徹する潔さ」の部分です。この部分を読んで何を連想したかというと、食と料理とはまったく関係のない地域づくりのことだったんですね。

■何かを求めて講演を聞いておられる方たちは、表情も反応も違います。地域づくりのリーダー…というよりもお世話役は、「黒子に徹する潔さ」が必要なのだとすぐにご理解いただけます。そのたり、大学で「社会」や「地域」をあまり経験したことのない学生の皆さんの表情や反応とは少し違うのです。春なったら、再び中津川を訪れることになっています。再び、交流会等でお話しを伺い、横の「つながり」をつくるお手伝いをしながら、中津川の地域づくりの展開を地域の皆さんと一緒に実感できればなと思っています。

【追記】■愛知県庁が企画した「団塊世代提案型地域づくりモデル事業」について書きましたが、この事業の審査委員になったのは、立教大学のH先生のご推薦があったからでした。ということは、岐阜県との「ご縁」のきっかけは、H先生につくっていただいたということになります。今頃ですが、H先生、ありがとうございます!!

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