『父の暦』谷口ジロー

20130702taniguti.jpg ■谷口ジローの『父の暦』です。先日の『遥かな町へ』に続いて、こちらも読了しました。こちらも奥が深いですね。両作品とも、主人公は中年の男性です。『遥かな町へ』では、主人公が中2のときに、家族を捨てて父親が蒸発してしまいます。『父の暦』の方も、やはり中年男性が主人公です。こちらは、主人公の母親が子どものときに、両親は離婚し、母親はいなくなります。

■『遥かな町へ』では、主人公の父親はなんとか戦争を生き抜き、戦後は、戦死した戦友の妻に頼られて結婚することになります。戦争が父親の生き方に大きな影響を与えているのです。洋服の仕立てを仕事にしながら、家族を支えるために懸命に働くのですが、自分の本当の生き方を探すために蒸発してしまうのです。残された妻は、そのような夫の選択を半ば覚悟していたのでしょう。現実を静かに受けとめ、再婚もせずに、子どもたちと生きていくのです。『父の暦』では、鳥取大火災が、主人公の父親のその後に生き方に大きな影響を与えます。大火災で失った店舗を再建しなくてはいけません。妻の実家から借金をします。その借金を返すために、趣味や暮らしの楽しみを捨てて、ただ黙々と働きます。そのような夫に愛想をつかして、母親は父親と離婚してしまいます。残された父親は、その現実を受け止めます。どちらも、自分ではどうしようもない、突然訪れる不幸を、静かに受け止める人たちの話しでもあります。…というところでは共通していますね。

■『遥かな町へ』で、いなくなるのは父親。『父の暦』では、いなくなるのは母親。しかし、両作品とも、父親と息子の関係が重要なポイントになります。そして主人公自身が歳を取り、父と同様に「人生」というものを経験してきた結果、最後には「蒸発した父親」の気持ちを理解できたのです。「亡くなった父親」の自分たちへの深い愛情を理解し、それをやっと深く受けとめることができたのです。谷口ジローさんは、映画監督・小津安二郎の作品からの大きな影響を受けておられるようですが、そのこともこうやって両作品を比較してみるとよくわかります。

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