京都大学生態学研究センターでのセミナー

20150418seitaiken.jpg▪︎昨日は、京都大学生態学研究センターで開催された研究セミナーに参加しました。このセンターは、龍谷大学の瀬田キャンパスと同じ瀬田丘陵にあります。ということで、かなり「ご近所」なのです。「ご近所」ということもあり、相当前にこのセミナーに参加したことがある…ような気もするのですが記憶が定かではありません。今回のセミナーは265回目(すごいですね)。センターの谷内茂雄さんが企画されました。谷内さんと私は、総合地球環境学研究所の奥田プロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」にコアメンバーとして取り組んでいます。そのようなこともあり、今回のセミナーのことを谷内さんから教えてもらったのでした。

▪︎谷内さんがセンターでセミナーを担当されるときは、「人間と環境の両方にまたがるテーマ」で企画するのだそうです。ということで、この日のゲストはお2人。大橋春香さん((独)国立環境研究所)と、 菊地直樹さん(総合地球環境学研究所)です。それぞれ、「統合的な野生動物管理にむけた社会科学と生態学の融合的アプローチ:イノシシ問題を事例に」、「コウノトリの野生復帰を軸にした包括的再生」をテーマにお話しをしてくださいました。

▪︎大橋さんの講演は「統合的な野生動物管理にむけた社会科学と生態学の融合的アプローチ:イノシシ問題を事例に」でした。大橋さんは、長年にわたり獣害問題に取り組まれている梶光一先生がリーダーをされた研究チームのメンバーで、成果として出版された『野生動物管理システム』(梶光一/土屋俊幸 編、東京大学出版会)にも執筆されています。この『野生動物管理システム』は、谷内さんや私たちの研究成果である『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』(和田英太郎 監修/谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編,京都大学学術出版会)のフレームにもなっている「階層化された流域管理」という考え方を、積極的に参照し応用してくださっています。

▪︎講演で大橋さんは、「イノシシによる農業被害問題を事例とした、統合的な野生動物管理に向けた社会科学と生態学の融合的アプローチによる研究事例を紹介」されました。環境社会学の立場から興味深かったのは、「村人は必ずしも獣害対策のためだけで活動しているわけではない…」という点です。活動することで、「村のつきあい」や「村のなかに賑わい」が生まれることを楽しみにされているのです。これは、私が滋賀県の農村での調査でも強く思っていることでもあります。野生動物というよりも「山の獣たちとのつきあいの問題」であり、「村人とのつきあいの問題」でもあるのです。もうひとつ、山に獣が増えると里では蛭も増えるという話しもお聞かせいただきました。蛭は野生動物の血を吸って栄養にしますから、野生動物が増えることは蛭にとっても都合がよいようです。蛭は、獣害の野生動物と一緒(ひっついて)に里にやってきます。里に蛭が増えると、蛭を嫌がって人びとが家の外に出たがらなくなる…ということも聞かせてもらいました。悪循環ですね。

▪︎私からの質問は、講演のタイトルにある「統合的」とは、どういう意味で「統合的」なのか…ということでした。難しい問題です。空間スケールの間に潜む問題や、空間スケール間から創発的に生まれてくる作用など、もっといろいろ質問したかったのですが、「生態学研究センター」は社会科学系の研究者がいないアウェイな場所でもありますし、あまりにも社会科学的な質問をすることに少し抵抗感があり、遠慮してしまいました。でも、大橋さんのようなテーマに関して、他の研究グループともっと交流し、環境問題と空間スケールに関する問題をもっと議論していくべきだと強く思いました。

▪︎2人目の講演者は菊地さんです。菊地さんの講演は、「コウノトリの野生復帰を軸にした包括的再生」でした 。菊地さんは私と同じ環境社会学会のメンバーですし、総合地球環境学研究所に勤務されていることもあり、よく存じ上げている方です。今回の菊地さんの講演は、「地域の課題解決に向けた再帰的な当事者性を有する研究方法としてのレジデント型研究」に焦点をあてたものでした。レジデント型研究。この概念については、ぜひこちらのページをご覧ください。菊地さんの講演のなかで私が強く関心をもったことを簡単にいえば、研究者の立ち位置と、研究者の役割…という問題になります。研究者は現場にどう関わっていくのか、菊地さんのばあいはどうなのか。そのあたりのことを丁寧にお話しくださいました。

▪︎こういう問題は、はたして生態学者にはどう伝わっているのかな…という不安もありました。「生態学研究センター」というアウェイな場所で、環境社会学的な質問に偏ることを心配したのです。「そういうディスカッションは環境社会学会でやりなさい」と怒られそうなのを覚悟で、こんどはいろいろ質問させていただきました。大橋さんの講演の「統合的」に対して、菊地さんのほうは「包括的」ということになるのでしょうか。「統合的」は異質なものをつなぎあわせる…というイメージに対して、「包括的」は異質なものをゆるやかに(とりあえず)包みこむ…というイメージです。私この空間スケールを異にするステークホルダーの間の関係が気になるのです。

▪︎菊地さんへの質問・コメントのさいには、鷲田清一さんの「折々のことば『いい専門家とは、いっしょに考えてくれる人のことです』」(朝日新聞)という短いコラムのことを紹介させていただきました。この鷲田さんのコラムのこと、佐藤祐一さん(琵琶湖環境科学研究センター)の最近のfacebookへの投稿で知りました。佐藤さん、ありがとうございました。佐藤さんは、そのfacebookの投稿のなかで、「特定の意見やステイクホルダーに汲みして他者への対抗手段を考えるということではないでしょうし、一方で外野から評論家的な意見を発するのでもない」とコメントされていました。これは菊地さんの講演の内容とも合い通じるところがありました。講演のかなでは、菊地さんが実践されてきた「鶴見カフェ」の取り組みが紹介されました。このような実践は、多様な空間スケールに分散する、多様なステークホルダーの間で発生する軋轢や緊張を緩和するための「場」の構築…といえるのかもしれません。「場」という大きな風呂敷でゆるやかに包みこむという感じでしょうか。私自身も、地域づくりの実践や研究プロジェクト等で、このことを強く意識しています。

▪︎講演のあと、生態学研究センターにしばしば猪が出没しており、その猪がセンターの裏山を荒らしているのということで、その現場を見学させていただきました。そして、「信じられないぐらい本数の少ない路線バス」に乗って瀬田駅へ移動し、駅前のお店で、大橋さん、菊地さんの慰労会をもちました。アルコールの勢いも手伝って、そのお店でも菊地さんと深いディスカッションすることができました。大変、有意義な時間をもつことができた。菊地さん、ありがとうございました。また、このようなチャンスを与えてくださって生態学研究センターの谷内茂雄さん、そして生態学研究センター長の中野伸一さんにも、心からお礼を申し上げたいと思います。

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