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Faculty of Sociology

社会学部

社会学部ᅠ井上 辰樹 教授体は健康に、心は幸せに
運動で超高齢化社会を乗り越える

運動教室開催が高齢者の生きがいに

心身の健康に重要な運動。この運動の習慣化について、運動生理学や公衆衛生学の観点から研究する社会学部の井上辰樹教授。高齢化や医療費・社会保障費の拡大といった社会課題に運動からのアプローチをおこない、自治体や企業と連携した健康増進プロジェクトにも数々取り組んでいる。その一つが滋賀県守山市の包括協定締結において、2010年から推進する「健康なまちづくりプロジェクト」だ。スキーのように2本のストックをつきながら歩行するストックウォーキングという運動の教室を月2回開催。井上教授が指導する「コミュニティマネジメント実習」を受講する社会学部の学生も運営に携わっている。「2023年で教室は13年目に突入し、この10月で200回を迎えます。参加者と学生のがんばりのおかげです」と井上教授は感謝する。

ストックウォーキングは脚力に腕力も加えた四足歩行となり、消費カロリーが増加。脚力だけでなく、全身を効率よく鍛えることができる。「脚力の推進を腕力で補完できるので高齢者の運動にも適しています」と井上教授。

教室の目的は、生活習慣病と、要介護手前の状態であるフレイル(虚弱)、引きこもりの予防。守山市としては医療費・社会保障費の適正化の狙いもある。とくに高齢者は、加齢に伴う脚力の低下により「動きにくい」→「動きたくない」→「動けない」連鎖に陥り、要介護や認知症を招く恐れがあるので、フレイルと引きこもりの防止が重要となる。教室では2㎞から4㎞をウォーキング。井上教授も学生も歩くのだが、高齢者との会話が弾み、誰もが楽しそうだ。もちろん運動効果も高く、参加者の多くが回を重ねるごとに脚力や体力が向上。生活習慣病の原因でもある肥満も腹囲の減少などが見られるという。そして、何より効果を発揮しているのが高齢者の心の健康だ。教室が外出のきっかけとなり、仲間や若い学生とふれあえることも楽しみに。参加者の満足度調査では『若返ったよう』『教室に通い続けたい』と好評を得ている。

「運動に加えて、心身の健康には交流の場は重要な役割を果たします。教室がそれを実証していることは研究者として嬉しく、今後の継続とともに、蓄積したデータの詳しい分析も進めていきます」。

次世代の問題にも運動という解決策を

高齢者の体と心の健康に効果をもたらす運動習慣と交流の場の提供に加え、昨今、井上教授は、運動によって、うつ病や抑うつ状態を予防するメンタルヘルスの研究にも力を注いでいる。

「うつ病は仕事や人間関係などによるストレスが原因といわれていますが、発症のメカニズムを脳生理学的に見ると、記憶を司る部位である海馬が影響していると考えられています。海馬は新しい記憶を上書きして、新たな神経ネットワークを構築し、古い記憶と神経ネットワークは削除されます。ところが、ストレスを受け続けると上書き機能が衰えて良くない記憶が残ってしまい、古いネットワークが強化されてループ。うつ状態に陥ります」と井上教授。この負のループをストップできる方策の一つが運動だという。「強度や負荷の高い運動は脳にストレスを与えるのですが、ハードなために運動中は余計なことを考えられなくなります。一方で、強い運動刺激は、多幸感を生み出す脳内ホルモンの分泌を増加させ、運動が楽しい、気持ちいいと感じて習慣化。ストレス解消やうつ病の防止にも繋がるはずです」

多幸感を生み出す運動は、心拍数が毎分140から150拍と高く息が上がって、汗をかく強度が必要だ。しかし、守山市でのストックウォーキング教室に通う高齢の参加者を見ると、「強度に関わらず、楽しいと感じることも心の健康には大切なのかもしれません」と話す。今後はストックウォーキング教室をはじめとする高齢者の健康支援と並行して、福祉施設などの従事者を対象に運動とストレスについての介入研究をおこなうことを予定している。

「2040年には3人に1人が65歳以上という、超高齢化社会を迎えます。つまり、若い世代は減少し、高齢者を支える方々は相当のストレスを抱えてしまう可能性があります。その時に備えて、運動を通じてサポートすることが私のこれからの使命です」。


プロフィール 井上ᅠ辰樹

井上ᅠ辰樹

日本体育大学大学院体育学研究科修士課程体育学専攻修了。体育学修士(日本体育大学)。博士(医学)(名古屋市立大学)。800m走のラストスパート時における生理学的応答の分析、解明を専門に研究。1994年京都ノートルダム女子大学文学部講師・助教授。骨粗鬆症について研究。2000年龍谷大学社会学部に着任。2008年龍谷大学社会学部教授。2023年社会学部学部長に就任。日本ストックウォーキング協会理事。ラジオ体操第3を復刻。

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