NHKクローズアップ現代「四国遍路1400キロ 増える若者たち」

20141008ohenro.pngNHKクローズアップ現代「四国遍路1400キロ 増える若者たち」。これは、今年の6月13日に放送されました。インターネットでは、過去の番組の内容についても確認できます。放送された内容が、文字化されているのです(放送まるごとチェック!)。

■この番組に登場するのは、人との付き合いがうまくできない、現代社会にうまく適応できない、そういった若者たちです。そういう若者が、歩き遍路をするなかで、自分がこだわっていたことが少しずつ崩れていき、「ありのままの自分」に気づいて、それを受け入れていくことができるようになるというのです。しかし、自分の「身体」を使って1,400kmを歩くこと自体に加えて、お遍路では、他のお遍路さんとの関係、お遍路さんほ「お接待」する地元の人びととの関係が生まれることになります。番組では、この「お接待」を次のように説明しています。

地元の人は、白装束などを身に着けたお遍路さんに食べ物などを分け与える「お接待」を行います。お遍路さんは弘法大師の代わり。訪れた若者も無条件に受け入れるという文化が、四国には残っているというのです。

大日寺 真鍋俊照住職
「(お接待は)両手でもって慈悲深く迎えてあげる、そういう行為。
舞台装置みたいなものが遍路の八十八か所には必ずある。」

■番組の最後に、真鍋俊照さん(大日寺住職 四国大学教授)と福島明子さん(作新学院大学教授)が解説をされています。真鍋さんは、仏教美術の専門家ですが、ご自身、真言宗の住職をされているようです。福島さんは、心理学者です。ご自身も「お遍路」をされた経験をお持ちのようです。また、『大師の懐を歩く―それぞれの遍路物語』という本も執筆されています。私自身は、このお2人の解説を読みながら、「贈与論」的な視点から「お遍路」を理解することができるのではないか…と思いました。

お接待っていうのはこれはもう昔からありまして、そしてこれ仏教の1つの、遠くから来た人に対する、稀人(まれびと)といいますかね、そういう人を大事にしたいと。それで平等に利益、御利益を与えたいと。それはもう差別をすることなく、小さいお子さんも、おじいちゃんおばあちゃんも、全部に施すというのが目的なんですけれども。やっぱりそれは、始めた若い人なんかはすごく新鮮に感じますね。「よう来たね」っていうひと言で、もうそれでなんか感性がびびっと来るんじゃないですか。それがいわゆる来た方の所属している社会というか生活空間の中では、ないからということなんでしょうけれども、ここではそういう舞台装置が意図的に1000年にわたってあるわけですから、それが自然に出てきて、人を迎える気持ちっていうものが今おっしゃったような流れにつながるんじゃないでしょうかね。(真鍋さん)

お遍路さんは毎日40日、50日の間お接待を受け続けます。その中で1対1でお返しすることはできないんですけれども、自分がお遍路から帰ったらこれをほかの人にお返ししようという気持ちが生まれてきます。それがごく自然と、日常生活の中で困っている人を助けるとか、親切にするということができるようになると思います。(福島さん)

まずは自分の体と向き合って、体と心がつながるという経験。それから地元の方のお接待を受ける中で、地元の方とお遍路さんのつながり。それからお遍路さんどうしのつながり。さらには自然豊かなお遍路の中を歩く中で、地に足をつけて歩いて、山や川や海を歩いて、自然とのつながりというものも感じられます。そういった、さまざまなつながりを回復することができるということですね。今の社会は成果主義であったり合理主義ですので、何かができたからすばらしい、とか何かができないからもう少し頑張って、とか条件の世界ですが、このお遍路では無条件に受け入れられて、そしてつながりを回復していけると。(福島さん)

■この「クローズアップ現代」のサイトでは、過去の番組をキーワードで検索できます。「お遍路」と検索をかけてみました。すると、1995年12月8日(金)に放送されたものがみつかりました。「男55才・転機の四国遍路~八十八ヵ所1400キロの旅~」というタイトルです。内容は、「四国八十八か所めぐりのお遍路さんに、最近50歳代のサラリーマンが増えている。働き蜂といわれて日本経済を支えてきたこの世代が、今、何を思い、何を求めて遍路の旅に出るのだろうか。3人のサラリーマンお遍路さんとともに歩き、その心の旅を追う」というものです。20年近く前、クローズアップ現代は55才のおじさんたちの「お遍路」に注目していたのですね。バブル崩壊のあと、経済が低迷し、リストラが横行し…という社会状況のなかでの男55才です。しかし、福島さんのいう「条件の世界」でもある現代社会で生きること疲れ、傷ついてしまった自己を、「さまざまなつながりを回復」することのなかで再生していくという意味では、55才の男性も若者も同じなのかなと思いました。

【追記】■今年2014年は、四国八十八カ所の霊場を巡るお遍路、巡礼の道が空海(弘法大師)によって開かれてから1200年目にあたります。

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