地球研・日比国際ワークショッブ(5)

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20150329workshop9.jpg▪︎総合地球環境学研究所・奥田昇さんを代表とするプロジェクトの「日比国際ワークショップ」の1日目の最後。夕食をとるために野洲市菖蒲にある「あやめ荘」に移動しました。ここで、琵琶湖の湖魚を使った様々な料理をいただきました。フィリピンの皆さんはどうかな…と思っていましたが、皆さん大喜びでした。しかも、発酵食品である「鮒寿司」をじつに美味しそうに召し上がっておられました。実際、ここでいただいた「鮒寿司」は絶品でした。すばらしい。

▪︎写真は、南山大学の篭橋さん(4月からは京都大学に異動されます)と、フィリピンの「Laguna Lake Development Authority」のAdeline Santos BROJAさんです。急遽、湖魚料理を楽しみながら、プロジェクトの人間社会班の研究内容に関する議論が始まりました。英会話の不得手な私にかわって、篭橋さんが懸命に通訳をしてくださいました。ありがとうございました。今回は、人間社会班からこの国際ワークショップに参加したのは、篭橋さん(環境経済学)、金沢大学の大野さん(環境政策論)、秋田県立大学の谷口さん(社会学)、そして島根県から来られた平塚さん(フリーの環境コンサルタント)、4名方達と私です。皆さんとは、食事のとき、食事のあとの酒の時間、バスによる移動の時間…様々な空き時間に、非常に有益なディスカッションをすることができました。

地球研・日比国際ワークショッブ(4)

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▪︎平湖・柳平湖の視察のあとは、近江八幡市津田町にある水草堆肥をつくっている場所です。原料は、琵琶湖の南湖に繁茂する水草です。現在、南湖の水草が大変な問題になっています。この水草を刈り取る専用船で対応しています。巨額の費用がかかります。刈り取った水草ですが、現在は、乾燥させて水草堆肥にして、無料で配布しています。この水草堆肥、大変、美味しい野菜ができるらしく大変人気があります。昔は、沿岸の農村が、琵琶湖の藻取りを行っていました。もちろん、化学肥料がない時代です。藻取りは、相論といって、隣村と争いになるぐらいでした。水草が大きな経済的価値をもっていたのです。ところが、化学肥料が簡単に入手できるようになると、水草は見向きもされなくなりました。

▪︎現在、多くの湖沼では、水質の悪化にともない水草が減少しています。琵琶湖では、逆に、以上に繁茂する状況になっています。そのことが、様々な問題(湖底の低酸素化や生態系への悪 影響)を引き起こしています。詳しくは、次の文献を読んでいただければと思います。滋賀県立琵琶湖博物館の学芸員である芳賀裕樹さんが執筆されています。「南湖の水草(沈水植物)繁茂」という解説です。

▪︎写真は、その水草堆肥です。トップの写真、リーダーの奥田さんが指でつまんでいるものは、淡水の二枚貝です。下段・右側の写真は、水草にまじっている二枚貝を撮ったものです。この写真の水草は、まだ熟成させている途中段階ですので臭いがしました。しかし、最終的に水草が完全に堆肥になると、まったく無臭の状態になります。

▪︎繁茂する水草が、かつてのように経済的な価値を生み出し、琵琶湖から陸地へと再び運ばれ利用されるような「循環」の仕組みができれば良いのですが、今のところ、それはうまくできていません。社会のなかに「水草の利用」がうまく組み込まれなければならないのです。現在は、税金を買って刈り取り、県有地で堆肥にして、そのあとは無料で配布しています(一人一人への無料配布の量には上限がある)。これからの大きな課題かと思います。なにか、良い方法はないものだろうか…とても気になります。

地球研・日比国際ワークショッブ(3)

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20150329workshop6-2.jpg▪︎京都大学生態学研究センターの調査船「はす」による視察のあとは、草津市にある平湖・柳平湖に移動しました。平湖・柳平湖は琵琶湖の周辺にある内湖のひとつです。現在、淡水真珠養殖復活に向けて地元の皆さんが挑戦をされています。真珠といえば、伊勢志摩地方の海での真珠養殖を連想します。しかし、琵琶湖でも特に第二次世界対戦後、盛んにイケチョウガイによる真珠養殖が行われてきました。しかし、琵琶湖の水質悪化によりイケチョウガイが壊滅状態となり、92年にはイケチョウガイの漁獲量が統計上はなくなってしまいました。いったん壊滅状態となった淡水真珠養殖ですが、水質が改善するにしたがい、再び復活に向けての取り組みが始められたのです。

▪︎私たちが平湖・柳平湖を訪問すると、地元の集落の役員さんと、草津市の農林水産課の職員の方たちが待っておられました。淡水真珠復活への挑戦に関して、いろいろお話しを伺いました。お話しだけでなく、実際の淡水真珠も見せていただきました。フィリピンからの女性研究者たちは、この淡水真珠にとても関心をもったようです。どちらかというと、県境者というよりも女性として…でしょうか。それを見た、フィリピンの男性研究者は、「ガールズはすごいね!」と笑っておられました。

▪︎平湖・柳平湖で復活を目指しているのは淡水真珠だけではありません。魚の復活も目指しておられます。ここでは、放流したニゴロブナの稚魚がまたこの内湖に戻ってこれるように、魚道の設置が行われることになっています。かつては、琵琶湖と内湖とはつながっていましたが、国の巨大プロジェクトである琵琶湖総合開発等により、現在では琵琶湖と内湖とが分断され、水位にも落差が生まれています。このままでは、魚が琵琶湖から遡上してきません。そのため、いろいろな経緯のなかで魚道が設置されることになったのです。

▪︎私たちのプロジェクトによって、その二ゴロブナ等の魚類のモニタリング調査も行う予定になっています。プロジェクトとして(科学として)この地域の活性化を支えることにしています。この地域は、もともと水郷地帯でした。農作業に行くには、いつも田舟を漕いでいかねばなりませんでした。そのときは、必ず、平湖・柳平湖を通って行っていたといいます。また、集落内には、水路が流れており、家の2階の窓から釣りができたいといいます。そのような魚を食用にもされていました。この地域は、いわゆる「魚米の郷」だったのです。ところが、河川改修や圃場整備事業により、そして最後は琵琶湖総合開発により、かつての水郷地帯の風景はかんぺきなまでに消えてしまいました。「水」と「陸」が分断してしまいました。50歳以上の人たちは田舟の艪(ろ)をこぐことができますが、その年齢の以下の方たちはできないのだそうです。子どもの頃に、艪をこぐ経験ができなかったからです。

▪︎さて、ワークショップの話しに戻りましょう。平湖・柳平湖の現場では、魚が産卵に来ているところを撮った写真も見せていただきました。地元では、浅瀬に魚がやってきてバシャバシャと水しぶきを飛ばしながら産卵を行うことを、「魚がせる」といいます。内湖と切れてしまってからは、あたりまえのように見られた「魚がせる」こと地元の子どもたちは知らないといいます。現在、自体も地元の皆さんとは、魚を復活させて、小さなところから村づくりの活動を始めることができたらいいですねと話しあっています。水田と内湖と琵琶湖と魚がセットになった暮らし。村づくりの活動に参加しておられる皆さんは、そのような暮らしがこの地域の基本的な姿であり、そこにできるだけ戻っていくべきだと考えておられるのです。

【関連エントリー】
平湖柳平湖の「つながり再生構築事業」の協議会
「つながり再生モデル構築事業」第4回協議会」
魚の賑わい
琵琶湖岸の水郷地帯

地球研・日比国際ワークショッブ(2)

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▪︎総合地球環境学研究所・奥田昇さんを代表とするプロジェクトの「日比国際ワークショップ」の1日目です。奥田プロジェクト「生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会─生態システムの健全性」では、琵琶湖に流入する野洲川流域と、フィリピンのラグナ湖に流入するビナン川流域の2つの流域を主要なフィールドにして比較研究を進めます。また、国内の宍道湖、手賀沼、八郎湖、そして海外では台湾等の湖沼とも部分的に比較研究を進めることになっています。ということで今回のワークショップは、日本から15名、フィリピンから8名、台湾から1名の研究者が参加して開催されました。

▪︎26日の総合地球環境学研究所でのオリエンテーションを兼ねたキックオフミーティングの後、第1日目の27日には、まずは琵琶湖疎水を見学したのち、大津市の比叡山延暦寺の門前町・坂本にある「鶴喜蕎麦」で蕎麦を楽しみました。蕎麦の昼食のあと、京都大学生態学研究センターの調査船「はす」に乗せていただき、野洲川の河口や流域下水道の処理施設のある矢橋の帰帆島をめぐりました。調査船からの見学には、生態学研究センター長の中野さんも一緒に同行してくださいました。センター長としてご多忙なわけですが、調査船に乗船することについては、ご同行くださいました。ありがとうございました。
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▪︎上の写真は、調査船「はす」から比良山系を写したものです。この日は暖かく、琵琶湖には何隻ものヨットが走っていました。ただし、気温自体は高くても、早いスピードで走る船上は風も強く、私は早々に運転室に入り風をよけることになりました。皆さんは、楽しそうですね。

抑制力


▪︎たまたま、京都大学の公式サイトで、総長である山極寿一さんのインタビューを動画で拝見しました。山極さんは、人類の起源をゴリラに遡って研究していることで有名な方です。山極さんと一緒に授業をしたことがある私の友人は、大変、紳士的で丁寧な方だといっていました。そのことが、このインタビューの動画を拝見しても伝わってきました。

▪︎インタビューは、活字にもなっていました。以下は、こちらからのベージの「Q3」からの引用です。

山極壽一にとってのゴリラとは?

A.3大きな力を持つが、それを感じさせない抑制力を持った人間を超える存在

ニホンザルを見ているうちに、もっと人間である自分自身を映し出せる対象に興味が出てきました。そのようなときに動物園でゴリラを見たらすごく圧倒されました。その威厳にこれは人間を超える動物だと思いましたね。そして、やっぱり野生で彼らを見てみたいと思ったので「よしゴリラをやろう」と決めました。ゴリラと接して分かったことは、オスの体重は200キロ以上あって、腕も丸太のように太いし手もグローブみたいです。けれどそれを感じさせないぐらいソフトです。非常に包容力があるし、その力を行使しない、何かを抑える力を持っている。
他方、今の我々が住む社会は、こんなに大勢の人間が集まって静かに共存できるのも、「抑制力」だと思います。この抑制力を持ったからこそ、自分の欲望を抑制しながら他の人のやりたいことをやらせてあげるような、互酬性や社会性に富んだ暮らしができるようになった。ゴリラは、人間にも増してその能力が高いと思っています。それに圧倒された。

▪︎動画では、もう少し詳しく、山極さんは以下のように語っておられます。自分で文字化してみました。

ゴリラの研究者から見て、現代の人間社会はどう映りますか?

勝ち負けをつけすぎるな。ゴリラの基本的な社会性というのは、負けないことなんですよ。負けず嫌い。でもね、負けず嫌いのゴールには何がまっているかというと対等な関係がまっているんですよ。相手より上にでなくっていいわけだから。

でもね、今の人間社会は、負けないでいることと勝つことということを混同しているんですよ。負けないでいることを、勝ちたいことと誤解してしまっているんです。だから、負けたくないという心を、勝ちたいという心に変換させようとするわけです。でも、それはゴールが違うんですね。勝とうとするためには、相手を押しのけなくちゃいけないし、相手を屈服させないといけないわけですよ。その先には、孤独が待っているわけです。相手は、自分に対してへつらってくれるけど尊敬しくれるわけじゃない。常に力を行使していないと自分の権力が守れないわけでしょ。そういう社会というのは、非常にギスギスして生きづらい社会ですよね。格差が非常に高い社会。そこに、今人間社会は向かっているような気がするんですよね。

それはじつはね、ニホンザルの社会に近い社会なんですよ。なにかトラブルがあったときに、そのトラブルを解消しようとしたら、勝ち負けをつけるのが一番簡単な方法なんですよ。だけど、ゴリラは、勝ち負けをつけずに、それを解消しようとする。だから抑制力が必要になるんです。つまり、自分の取れるものを取らないわけでしょ。自分の欲望を抑制しながら、相手に取らせる。ということで、平和をもたらそうとするわけですね。そこには、力の強いものが抑制するっていう精神がなければ成り立たない社会なんですね。それをゴリラは作ってきたし、もともと人間もそういう社会をはじめに作ったはずなんです。

だから、人間は非常に互酬性の強いね、何かしてもらったら相手に何かしてあげたいという心を伸ばしてきたし、何もしてもらえないでも、自分が取れるにもかかわらず相手に譲ったり、関係をとりもってきたと思うんですよ。でもね、今はね、取るほうがえらい、先に何かをするほうがえらい、ていうふうに勝つ事が求められる社会になってしまった。これは、ゴリラからみると方向性が間違っているんじゃないかという気がする。

▪︎非常に大切な指摘をされていると思います。新聞で様々なニュースを読んでいると、この地球上でおきている様々な問題は、勝ち負けをつけて、相手を屈服させて、「常に力を行使していないと自分の権力が守れない」ことに怯えることに起因している…そのように思えてきます。山極さんの説明からすれば、私たち人間は、力の強いものが抑制する精神を基盤にした社会であったはずが、いつのまにか勝ち負けをつけるニホンザルの世界に戻ってしまっている…かのようにも思えます。

▪︎私自身は、グローバリゼーションや市場原理、そして様々な社会の変化に翻弄される地域社会を再生していくための仕組みはどのようなものなのか、できるだけ翻弄されずに済むための仕組みはどのようなものなのか、自分なりにいろいろ考え、ささやかな実践を積み重ねているのですが、山極さんの「抑制力」という言葉は、ひとつの大切なヒントを与えてくださったように思います。インタビューの動画では、「研究者と社会との距離感とは?」という質問に対しても、大切なことを語っておられます。ご覧いただければと思います。

【追記】▪︎別の面白い動画もありました。「家族の由来と未来 ~ゴリラの社会から考える~ 」という、山極さんの講演の動画です。類人猿の社会では、「弱いものから強いものに食べ物を要求する」ことや、ミラーニューロン、共感と同情、言語に関する説明なども非常に興味深いですね。進化の過程で人間が獲得してきたことが、現代社会でどうなろうとしているのか。最後のところは、社会学とも結びついてくるように思います(もちろん、このような山極さんのような視点から現代社会を批判的に捉えることに対して、逆に批判的な人もいると思います)。こちらの講演もご覧ください。

金才賢先生と堀昭一さんの出会い

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(本文、後で書きます)